STIR法とはなにか(MR学会シンポジウムでの誤り、および発表時間遵守も含めて)

MR学会のシンポジウムで発表された誤りについて

先日のMR学会のシンポジウムで、SPAIRとSTIRの比較についての発表がありましたが、根本的な誤りが含まれていました。そこでこの機会に、STIRがどういうものかについて、解説をしておこうと思います。

具体的な発表内容は、日本磁気共鳴医学会の軽井沢大会のホームページで動画視聴できますので御覧ください。学会参加IDとPWが必要です。
(10/31まで。シンポジウム13  再生時刻 1h06m – 1h11m)

この発表をぼんやり聞くと、なんとなく「STIRとSPAIRをこのように比較して良い」と感じる初学者もいるかも知れません。良い機会なので、MRIに詳しい同僚と、どの点に問題があり、どういう実験をすればよかったのか議論すると理解が深まることでしょう。

結論を簡潔に述べると、上記において、

  1. TI=100ms, 140ms, 200ms, 300ms の「STIR」と、SPAIRとの比較が行われています。
    • STIRは、基本的に磁場強度に応じた単一のTI値(特異点)を用いるもののことを指しますから、「さまざまなTI値のSTIR」は、定義上存在しません。
    • 演者は、反復回転法(IR法)のTI値を変えたときのコントラストの変化を、なぜかSTIRというものだと勘違いしているようです(「STIRはTI=300msで脂肪信号が残る特徴がある」)。
    • TRを変えると、脂肪をnullingできるTI値は少しずれますので微調整します。しかし、何百msも値がずれることはありません
  2. IR法においてTI値を変えた実験をするときに、磁場強度をスライドに書かずに議論していました。これは意味がありません。強い磁場強度依存性があるからです。

上記実験結果は3枚のスライドで示され、「STIRや、STIR法を用いるDWIBSには注意すべきである」と述べられていました。この基礎認識の誤りに基づく主張を、少なくとも3年以上様々な学会で座長やシンポジストとして続け、外国のガイドライン(EUSOBI)にすら影響を与えていたことが分かったわけです。

STIRとはなにか

STIRについては、約25年前に執筆した「MRI自由自在」の該当ページに詳しい説明がありますので、御覧ください。

改訂版を予定していますが、現在は販売されていないので、この部分の抜粋を貼ります。

① 下のページの概念は、みなさんよくご存知でしょう。注釈(*8)部分を以下に引用します。

STIR: short TI (or tau) inversion recoveryの略。IR法は古典的には強いT1強調画像として使われたが、この場合、パラメータの1つである反転時間(TI)は、400〜600msという値を用いていた。これに対してTI 100〜150ms(使用装置の磁場強度により異なる)という短い値を用いると、脂肪信号がゼロになることがわかり、脂肪抑制法として使用された。現在においては、古典的IRほどでないものの強いT1強調画像が他の方法でも得られるので、IR法はSTIR法としての臨床応用がほとんどである。

「MRI自由自在」(高原太郎著、メジカルビュー社、1999)

② そして、「非」選択的脂肪抑制(STIR)法の注意点として、造影された組織のnullingについて、具体的な臨床例を示し述べています。

③ そのうえでさらに、臨床的にこれを積極利用できる可能性があることにまで踏み込んでいます。実はこういった観察こそが、新しい発見を生むチャンスです。

上記③における考察は、四半世紀後の現在、とくに注目すべきものになりました。それはDWIBS法がこのSTIRの系譜を辿ったからです。

DWIBS法が、通常のDWI法に比べて、「なぜかコントラストが良い」のは、この特性が基になっているわけなのです。

T2 prepというプリパルスがあるのをご存知の方もいるでしょう。STIRというのは、脂肪を抑制するとともに、「逆・T1prep」とでも呼べる作用を内包しているので、長いT1値の組織をより強調できるのです。後から考えると、それは、悪性腫瘍を強調したいDWIにとって、はまり役のような役割を演じることになりました。

このように、STIRというのは、単に「脂肪抑制が良い、でもSNRが悪い」だけのシークエンスでないことがわかると思います。MRIって本当に面白いですね。

このことを利用した、非造影MRI乳がん検診について、シンポジウムでは述べました。ADCの妥当な測定方法とともに、非常に成績が良い理由を具体例で説明していますので、興味のある方は御覧ください(1h11m50s – 1h31m59s)。

SPAIR

もともと、「周波数選択性のあるRFパルス」で脂肪を抑制する方法は、CHESS法と呼ばれていました。Spectral(スペクトラル(周波数選択性の))pre-saturation(プリサチュレーション(あらかじめ飽和させる))という名前ですから、脂肪信号だけを飽和させるのですね。

初期のCHESS法では90度パルスを用いていましたが、この周波数選択性脂肪抑制パルスと、主励起パルスとの間のわずかのタイムラグに、せっかくゼロにした脂肪はT1回復により信号を出し始めますから、そのぶん脂肪抑制不良になります。ですから90度よりも少し深く倒すという工夫が行われました。

であるなら、180度パルスにしたほうがもっと良いだろうということで考えられたのがSPIRです(GEではSpecIR(Special)と呼んでいます)。この周波数選択性IRパルスは、均等に与えることが難しかったのですが、その後「断熱パルス」と呼ばれるタイプになり、安定した結果が得られるようになりました。それが「周波数選択的断熱反転パルスを用いた脂肪抑制法」であり、SPAIRと呼ばれているものです(同 ASPIR)。

(注) なお、SPIRにしても、SpecIRにしても、IRの意味は商業的なネーミングで、実際には180度ではなくてもっと浅い(しかし古典的なsaturation pulseである90度よりも深い)さまざまな角度が与えられています。

SPAIRは、脂肪に対して選択的なIRパルスを打つわけですが、隣接するスライスとの干渉を生じやすいので、SPAIR TRという概念も導入しTI値を調整します。これにより、すぐれた脂肪抑制効果を得ようとしているわけです。SPAIRで、脂肪抑制のための周波数選択性のあるIRパルスのTI値を変えることと、IRシークエンス(主励起系列)としてのSTIRでTI値を「変える」ことは、意味が違うことがわかるでしょう。

STIRとFLAIR

パラメータ入力において、IR法(シークエンス)では、TIは自由に変えられます。そのTI値を、脂肪に対してのnull pointになるように調整すると、脂肪抑制効果のあるIR法になるのですが、これがSTIRと呼ばれるものです。

STIRのST は、このときに用いるTI値が短い(Short TI)という意味です。このときのTIは、磁場強度に依存した特異点(理想的には単一点)です。
(注:TRによってすこし調整する / TI値が異なる脂肪も存在する)

IR法の誕生時は、SE法よりも強いT1コントラストを得ることが期待されていたので、通常は(T2の影響をなるべく排除するため)短いTEを用いていました。だからSTIRが考案されたときも、最初は短いTEを用いていました(STIR with short TE)。

しかし、次第に、長いTEを使って、脂肪抑制T2強調画像のように用いることが一般的になってきたのです。故・平敷淳子(へしき・あつこ)先生は、”STIR with long TE”*という名前を好んで、繰り返しMR学会で使用していました。

  • *STIR with long TE:  long TEシークエンスをIRに入れると枚数が撮れなくなる(多スライスは難しい)ので、枚数が少なくて済む脊椎で限定的に使われる程度でした。その後、高速SE法や、IR法の入れ子撮影など、みんなの工夫が重ねられて枚数を増やせる様になってきました。

これが優勢になると、STIRのことを「脂肪抑制したT2強調画像みたいなもんでしょ」と、ごく単純な捉え方をしてしまいがちになりました。このために、MRI自由自在では、T1コントラストに関する考察をたくさんしておいたわけです。

STIRの後、FLAIRが考え出されました。そのこともMRI自由自在に詳しく書いてあるので、興味のある方は読んでみてください。FLAIRがくも膜下出血の検出に役立つのは、こういったT1コントラストの考察が最初からなされていたので、ごく自然に受け容れられるものでした。

一方でFLAIRは、STIRよりも使用するTI値が長いので、T1コントラストへの影響はより少ないわけです。「にもかかわらず(その程度のT1強調でも)Fluid attenuation(CSFのnulling)との組み合わせであれば、くも膜下出血の検出に有効である」ということもまた印象的でした。

発表時間の遵守について

なお、今回問題となった発表内容は、割当てられた15分を超過して20分近く行われました(0h50m56s 〜1h10m22s)。

私の発表時間は、もともとの割当てが20分で、実際の発表時間は20m09s(演題のデジタル計時は20m05s)でした。

発表内容に大きな誤りがあるわけですから、学会の基本に立てば、その誤りを指摘すべきでした。しかし発表時間が5分も延長していたので、質問時間すらすでに消費されており、このため指摘する時間がない、という問題も生じました。

発表時間の遵守をすれば、このような不具合も生じないわけです。この意味では予演会の実施(人に聞いてもらうこと)は重要で、誤りの修正とともに、時間を守ることをお互いに意識できます。

以下の発表をコロナ禍のJRSで行いました。松田直也教授が提唱されている「伝達量最大の法則」「憎しみの曲線」を知っておくこと、また私が提案している「飛び石法」をマスターすると、発表時間を守る上で役立つと思います。

伝わるプレゼンテーション:
「伝達量最大の法則」「憎しみの曲線」「飛び石法」

これからも発表ルールを守って、楽しく公平なMR学会になるようにしましょう。

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tarorin東海大学工学部 医用生体工学科 教授

投稿者プロフィール

MRIの撮像・フィルム焼き・患者導入に従事していた経験を活かし、企・技・医の中間の立ち位置を大切にしています。モットーは研究結果を中立的に判断すること、皆で研究成果を愉しむことです。

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