はじめに
先天性心疾患(CHD)の患児は、術後の合併症として乳び胸、蛋白漏出性胃腸症、鋳型気管支炎などのリンパ管障害を発症することがあります。その場合、ドレーンの長期留置や感染症などにより入院期間が延長あるいは致死的になるといわれています。原因は先天的にリンパ管が形成異常をきたしているなど考えられていますが、リンパ管の画像診断が確立されていないため、リンパ漏の多くが現状では難治といわれています。
MRI検査におけるリンパ管イメージング(MRL)は、透視下でリンパ節を直接穿刺してからMRI検査室へ移動して、ガドリニウム造影剤を注入して撮像を行うDynamic – Contrast enhanced MR Lymphangiography(DCMRL)と非造影で撮像を行うNon – Contrast MR Lymphangiography(NCMRL)があります。DCMRLは手技が煩雑ですが、NCMRLはDCMRLと比べて非侵襲的かつ簡易的に検査を施行することができます。しかし、リンパ管は細く、描出困難であるため、造影剤を使用しないNCMRLではリンパ管の描出能が課題点として挙げられます。
そこで今回、私はNCMRLに挑戦し、その成果を第18回Singa甲子園2023で発表し、銅賞をいただくことができました。
この度、第18回Signa甲子園2023 発表演題 ~リンパ管イメージング~「Non–Contrast MR Lymphangiography (NCMRL)検査」どうでしょう!!!を紹介させていただきます。
NCMRL撮像の工夫
使用MRI装置は、Singa HDxt 1.5T Version16(GEヘルスケア)です。GEヘルスケアMRI装置の中ではかなり旧型のMRI装置の一つですので、ほとんどのMRI装置で撮像可能です。NCMRLで使用しているシークエンスは、みなさんが普段MRCP検査で使用している3D FRFSE(3-dimensional fast recovery fast spin-echo sequence)です。
撮像条件の工夫として、TEの検討をした結果、MRCPよりも低値(350ms)に設定しました。今回のTEの検討は、NCMRLの臨床経験からリンパ管は非常に細く描出困難であり、TEの値によって描出が変化することを知見として学んだことがきっかけでした(図1)。TEを低値に設定すると、周囲組織の信号が描出されてリンパ管は強調されなくなってしまいますが、リンパ管と周囲組織との解剖学的情報(鎖骨下静脈への接続など)が把握でき、臨床医にとって良い評価となりました。一方、TEを高値にすると周囲組織が抑制されリンパ管の視認性は高くなりますが、周囲組織とともにリンパ管の信号も低下することがわかりました。
このようにNCMRLの画像を作り上げていく中で、昭和大学病院 小児循環器・成人先天性心疾患センター 藤井隆成教授をはじめとしたリンパチームの先生方のバックアップにより、撮像条件の最適化に大きく影響がありました(図2)。カンファレンスに一緒に参加し、臨床医から撮像画像の評価を受けて、検査へのフィードバックを繰り返すことで、撮像条件を決定しました。チーム医療の重要性を改めて学ぶことができました。
撮像条件を図3に示します。
当院では、小児循環器の症例を対象としていますので、対象患者の年齢や体型によりますが、撮像時間は3~4分程度(呼吸同期あり)で撮像しています。
ここからは、臨床画像を紹介していきます。
Case① Signa甲子園提出画像
小児循環器内科より依頼。20歳、女性、154cm、36.8kg。ファロー四徴症(TOF)術後遠隔期の肺動脈弁逆流(PR)があり、今回、肺動脈弁置換術術前にリンパ管の情報を得るためにNCMRLを施行しました。
医師所見を以下に示します。「リンパ管は脊椎左側を走行し、胸管に軽度蛇行はあるが、拡張は認めない。胸管は左静脈角へ接続しているのが確認できる。異常所見として、左鎖骨下静脈領域にAbnormal perfusionを認める。」
リンパ管の視認性を向上させるため、fusion imageやリンパ管をtraceした画像を臨床提供しています(図4)。術前にリンパ管の解剖学的情報と異常所見を把握できたことは、臨床的有用性が高い症例でした。
Case② NCMRL / リンパ管造影
小児循環器内科より依頼。35歳、男性、162cm、71kg。フォンタン術(上・下大静脈と肺動脈をつなぐ手術)後18日に乳び心嚢液、胸水、腹水を認めていた症例でした。リンパ管の形態異常を疑い、緊急でNCMRLを施行しています(図5)。
医師所見を以下に示します。「胸管は脊椎ヒダリ側を上行し、ヒダリ静脈角へ接続している。胸管の蛇行および拡張はなし。ミギ鎖骨下のクリップによるアーチファクトを認める。Abnormal perfusionは認めない。」
本症例は、リンパ管造影も施行しており、リンパ管造影で撮像したリンパ管の形態情報とNCMRLでのリンパ管の形態情報が同等の結果であり、NCMRLの有効性を示した症例でした。
Case③-1 低体重症例A
小児循環器内科より依頼。2歳、女児、83.2cm、10.7kg。フォンタン術前にリンパ管の形態情報把握の目的の検査でした。鎮静下でHead Neck Spine Coil(HNS coil)を使用して、NCMRLを施行しました(図6 A)。
医師所見を以下に示します。「胸管は脊椎ヒダリ側を上行し、ヒダリ静脈角へ接続している。胸管の拡張はないが、蛇行を認める。乳び胸および頸部領域にAbnormal perfusionは認める。」
Case③-2 低体重症例B
小児循環器内科より依頼。1歳、男児、80.0cm、10.2kg。乳び胸精査目的、鎮静下でHNS Coilを使用して、NCMRLを施行しました(図6 B)。
医師所見を以下に示します。「胸管は脊椎ヒダリ側を上行し、ヒダリ静脈角へ接続している。胸管の拡張はないが、蛇行を認める。乳び胸および頸部領域にAbnormal perfusionを認める。」
低体重症例でリンパ管の形態情報と異常所見を確認でき、NCMRLの有効性を示すことができたことは、われわれリンパチームは自信となりました。
まとめ
今回、リンパ管の画像診断として、非造影で簡易的に検査ができるNCMRLを紹介させていただきました。リンパ管のMRIはあまり認知されていない検査だと思いますが、今回、伝統と歴史あるSigna甲子園で銅賞をいただくことができました。
コメンテーターの先生から以下のコメントを頂きました。「磁気共鳴学会でもシンポジウムでセッションがあり、今MRで注目を浴びてきていると思います」
今後、NCMRLがリンパ画像診断の新境地となり、救われる患者さんが一人でも多くなれば嬉しい限りです。
ライター紹介
昭和大学病院 放射線技術部の本寺 哲一(ほんでら てついち)です。技師歴20年、MRI歴15年です。現在は、一般撮影をしながら診断(一般、DR、IVR)部門、CT部門、MRI部門の管理をしています。MRI検査に直接携わることはできていませんが、今でもMRIが好きなのは変わりませんし、今後もMRIに関わっていきたいと思っています。皆様、今後ともご指導の程、宜しくお願い致します。
この度は、投稿の機会を与えて下さった、静岡済生会総合病院 山﨑様をはじめ、MRI fan.netの編集員の皆様、ありがとうございます。
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