★脊椎・脊髄検査でみられるアーチファクト

<新企画>「撮像のワンポイントアドバイス」

★~★★★までの難易度を設定し、MRIにおける基本的な注意点や撮像のポイントなどをまとめていくコンテンツです。初学者の方やローテーターの方など是非ご一読ください!

今回の「撮像のワンポイントアドバイス」の難易度は★ひとつです。

島根大学医学部附属病院の松尾和明です。

脊椎・脊髄MRIで起こるトランケーションアーチファクトとCSF(cerebrospinal fluid)による画像への影響について紹介します。

トランケーション(リンギング・打ちきり)アーチファクト

MR画像は有限サンプリングであるk空間から再構成されます。

高コントラスト境界において、フーリエ変換は無限の周波数に対応していますが、MR サンプリングは有限であるため、ある周波数からは打ち切ってデータを収集します。これによりアーチファクトが発生し、画像上では一連の線として見られます。基本的に周波数方向と位相方向のどちらにも出現しますが、収集に時間のかかる位相方向でよく見られます。

トランケーションアーチファクトは高周波成分の打ち切りによるものなので、マトリクスサイズを大きくすることで改善することができます(Fig.1)。低い分解能ではアーチファクトが見られますが、分解能を上げることでアーチファクトを抑制することができます。このほかにも生データにフィルタをかけたり、位相方向と周波数方向を入れ替えるなどの方法もあります。

Fig.1 トランケーションアーチファクト

また、脊髄空洞症で中心管が拡張した症例においては、トランケーションアーチファクトと類似した線状のT2高信号にみえることもあるので注意が必要です(Fig.2)。

Fig.2 脊髄空洞症

CSFの流れに起因するアーチファクト

CSFは脳室系で産生され、脳と脊髄を囲む空間を流れており、この流動の過程で拍動が見られます。その周期的な動きや流れによりアーチファクトが生じます。

CSFの拍動によって動きのアーチファクトが生じ、位相方向にghostアーチファクトが見られます。その信号が脊髄内に描出されると診断能に影響を与えることがあります。
このアーチファクトは、Flow compensation(FC)の利用や位相方向をHF方向に変えることで抑制できます(Fig.3)。

Fig.3 位相方向と FCの有無

また、SE系シーケンスでは流動する組織が励起pulseと再収束pulseの一方のみを受けることでFlow voidの影響を受け、本来高信号であるはずのCSFが低信号となってしまいます。この流れのアーチファクトに対してもFlow compensationの利用によって、またはFlow voidの影響を受けにくいT2*などのGRE系シーケンスを利用することで抑制できます。脊椎の硬膜下血腫ではCSFのFlow voidのように見えることもあるので、他シーケンスや他断面で確認し鑑別する必要があります(Fig.4)。

Fig.4 正常例と硬膜下血腫

このほかにも脊髄空洞症では中心管内の流れにより内部の信号が不均一となり、その構造が分かりにくくなることがあります。

BalancedシーケンスはGRE系シーケンスの一つで、血流やCSFなどの流体の信号を高信号として描出でき、T2強調画像と類似したコントラストを得ることができます。
TSEシーケンスでは空洞症の内部構造が不明瞭となっているのに対して、balancedシーケンスでは内部構造を均一に描出することができるので、TSEでみられる信号ムラが軽減されます(Fig.5)。

Fig.5 脊髄空洞症の描出

脊椎検査でのアーチファクトについて紹介しましたが、アーチファクトによって病変と鑑別が難しくなる、病変が見えにくくなるなど診断に影響が出る場合もあります。そのためアーチファクトと病変の鑑別や対策について理解することが大切です。

ライター紹介

【自己紹介】

島根大学医学部附属病院の松尾和明(まつおかずあき)です。
技師歴は9年目になり、現在はMRI部門で日々の業務にあたっています。MRIの業務では悩むことや難しいなと感じることが多々ありますが、その分うまく撮れた時の喜びや発見があり、やりがいを感じています。これからも、もっとMRIについて学び、理解を深めていきたいと思っています。

参考文献

・小倉明夫 他.改訂版 超実践マニュアルMRI. 医療科学社, 2014
・Christopher Lisanti. Normal MRI Appearance and Motion-Related Phenomena of CSF. American jurnal of Roentgeenology . 2007, volume 188, p716-725
・FUJIFILM. “わかりやすいMRI解説シリーズ その5〜k空間の理解〜”.
https://www.fujifilm.com/jp/ja/healthcare/mri-and-ct/mri-and-ct-column/no5
・Allen D Elster, “Flow on GRE Sequences”. QUESTIONS AND ANSWERS IN MRI.
https://mriquestions.com/why-gre-uarr-flow-signal.html (参照 2024.6.25)

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Tsukano Masaru島根大学医学部附属病院 放射線部

投稿者プロフィール

MRIは楽しさと難しさ、そして奥深さを同時に感じさせてくれる技術で、その魅力にどっぷりはまっております。これからも「楽しく」学び、MRI技術を追い求めます。

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