はじめに
皆様こんにちは。MRIfan.netの新編集委員、唐津赤十字病院の立川圭彦です。 今回はPHILIPS社の非造影MRA法であるREACT (Relaxation-Enhanced Angiography without Contrast and Triggering) を応用した、失敗の少ない新しい非造影MRAの手法についてご紹介したいと思います。
REACTでの悩み
当院では、脳梗塞やTIAで入院した患者さんの「頚部から大動脈弓部の血管走行やプラークの存在評価」を目的に、REACTによるMRAとBlack Blood (血液がnullになるようにTIを調整) を撮像しています。
また、血管造影検査の術前評価として、頚部から骨盤までの血管走行の評価にREACTを使用しています。
このようにREACTは全身の非造影MRAに使える非常に有用な技術です。しかし大動脈弓部領域においては、磁化率の影響などによりmDIXONの計算エラー (water-fat swap) が起こり、血液信号の描出不良が起きる場合がしばしばありました (Fig.1)。
非造影MRAに脂肪抑制技術は必須か?
REACTの簡易的なシーケンスチャートをFig.2に示します。REACTは、T2-prepとIRパルス後に短いTIでリードアウトすることにより筋肉信号がnull pointに近くなり、脂肪信号をmDIXONで抑制することで血液信号を反映した動脈優位のMRA画像が得られます。1)
しかし、磁化率の影響を受ける部位では、mDIXONのwater-fat swapが原因で、Fig.1のように血液信号の描出不良が生じます。この解決策として着目したのが、Real imageにおける脂肪と血液の信号差 (Fig.2-青矢印) です。mDIXONを使用せずReal imageをMinIP表示して白黒反転させることで、良好なMRA画像が得られるのではないかと考え、検討を行いました。
最初の検討では、通常のIRのReal imageを用いた白黒反転画像を作成しました。しかしB1不均一の影響もあり、血液信号が描出不良になることが多々ありました (Fig.3)。
PSIRの位相補正により劇的改善
別の手法を考えていたところ、Kellmanらの論文2)にて『PSIRはリファレンス画像も収集し、位相情報からB1磁場の補正用マップを作成して位相補正を行う』とありました。論文では心臓MRIのLGEに用いるPSIRについての内容でしたが、これをREACTに使えるのではないかと考え、本格的に検討を行いました。
PSIR-REACTを作るには、REACTからmDIXONをno、PSIRをyes、Calculated imagesをCR (Correct Real) にします。
PSIRはHalf scanが使えないのでnoにしますが、撮像時間が延長するので、CS factor : 3程度を入れてください。3)
Volunteer studyによる検討では、REACTは10例中5例で血液信号の描出不良 (信号欠損) が起きたのに対し、PSIR-REACTでは全て信号欠損のない良好な画像が得られました (Fig.4)。3)
実は目立たない脂肪信号
PSIR-REACTをREACTのMIP画像のように表示したい場合は、Correct Real imageをMinIP表示して白黒反転すれば良いです。
また、元画像を表示する場合は、Correct Real imageではなくModulus imageを使用して大丈夫です。
実は、元画像やMPR画像で評価するとき、Modulus imageでも脂肪信号は目立たないんです。
Fig.5 に一例を示します。赤矢印部分にわずかに脂肪信号が見られますが、はるかに血液信号の方が高いので、血管走行の評価には問題となりません。
最後にPSIR-REACTの詳細なパラメータを Fig.6に記載します。
同じような悩みをお持ちの方や、他社MRI装置をお使いのご施設など、ご興味ある方は是非一度試していただけますと幸いです。
今回の記事が少しでも今後の皆様の参考になれば幸いです。
Reference
1) Yoneyama M, et al. Free-breathing non-contrast-enhanced flow-independent MR angiography using magnetization-prepared 3D non-balanced dual-echo Dixon method: a feasibility study at 3 tesla. Magn Reson Imaging. 2019;63:137-146.
2) Kellman P, et al. Phase-sensitive inversion recovery for detecting myocardial infarction using gadolinium-delayed hyperenhancement. Magn Reson Med. 2002;47(2):372–83.
3) Tachikawa Y, et al. Usefulness of PSIR-REACT with Compressed SENSE in the aortic arch area. JSMRM 2019.
ライター紹介
唐津赤十字病院 立川 圭彦 (タチカワ ヨシヒコ)
MRIの魅力に惹かれて2016年から専門的にMRIの道に進みました。
MRIの楽しさや奥深さに完全にハマっており、一生抜け出せないのだろうなと思っています。
日々、新しい知識やテクニックを知るたびに、自分の未熟さを痛感して挫けそうになることもありますが、皆様との出会いのおかげで少しずつ成長できております。ありがとうございます。
MRIを通じて皆様と繋がれることに喜びを感じております。
学会などで見かけた際はぜひお声がけいただけると幸いです。
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