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はじめに
大分大学医学部附属病院の佐賀雅憲です。造影T2-FLAIRを応用した、髄膜炎と浮腫内腫瘤の同時造影描出法についてご紹介いたします。
造影後T2-FLAIRの撮像意義
頭部造影MRI検査では通常、造影後T1強調像(T1WI)が用いられます。しかし、髄膜炎などの症例では造影後T2-FLAIRの追加撮像が有用とされています。
正常硬膜は血液脳関門(BBB)を有さないため、造影後T1WIでは取り込まれたGdのT1短縮効果により一様に造影されます。一方で造影後T2-FLAIRでは、GdのT1短縮効果に加えてT2短縮効果の影響も強く作用するため、正常硬膜は造影されません。
しかし炎症を伴う硬膜では、膜壁から髄液中へ微量のGdが漏出します。その結果、漏出部CSFのnull pointが変動し、髄液抑制が不完全となり造影効果を生じさせます。このため造影T2-FLAIRでは、異常髄膜のみの描出が可能となります。
その他、髄膜播種などの淡い造影効果にも高い感度を示すT2-FLAIRですが、腫瘍実質などGdを多く取り込む領域では、GdのT2短縮効果によってT1WIと比較して信号が低下します。また、腫瘍周囲では浮腫によるT2コントラストの影響によって、造影域の境界が不明瞭となります。
造影後FLAIR併用プロトン密度強調像 (PD-FLAIR)
そこで造影腫瘤の信号低下要因となる、GdによるT2短縮効果の影響を抑えるため、造影T2-FLAIRのTEを短縮していきます。
これにより、長いTI設定にて得られた浮腫内の造影T1緩和差を、GdによるT2短縮効果によって失うことなく取得できます。また、コントラストは自由水抑制のT2強調像から、プロトン密度強調像へと移行するため、同時に浮腫の高コントラスト化も低減できます(Fig.3)。
ただし、TE短縮は背景の脳実質信号を上昇させるため、本法ではTEを30msに設定しました(Fig.4)。
Gd濃度を変化させた際の、生理食塩水とのコントラスト比を比較したファントム実験においても、本法ではT2-FLAIR特有のピーク傾向を保ちながら、より広いGd濃度域にて造影効果を示すことが分かりました(Fig.5)。これにより、炎症髄膜の描出性を維持しながら、腫瘍実質のような高濃度造影域の信号増強が可能となります。
高速化のための条件設定
撮像時間の短縮のため、まずAsymmetricオーダーにてEcho Spaceを最短化し、TRもRange設定で6000ms台まで短くします。この時、TIも実効TRに応じて最適値へ設定します。
また、TRを3000ms以下まで短縮すると縦磁化差の影響が強まり、正常硬膜も造影されるT1-FLAIR へと移行するため注意します。
続いて、TRとEcho spaceの短縮に伴うSAR上昇を回避するため、Refocus Flip Angleを70°まで低角化します。同時に、Startup echoes を3に設定し、安定した信号のみを収集することで、低い再収束角度下においても初期エコーの乱れによるアーチファクトを低減できます。これらの条件により、SENSE技術のみでも1分台での全脳撮像が可能となります。
この手法にて、TEを短縮したプロトン密度強調像を得ることから、本撮像法を「Proton density AND Optimized inversion Recovery with Asymmetric profiling : PANDORA」と名付け、Gyro Cup 2024で発表いたしました。
なお、TR とTIを従来設定へ戻し、multi-echo法によりTEを2点取得することで、造影後T2-FLAIRとPD-FLAIRの同時取得も可能です。
症例提示
実際の臨床画像を提示します。
神経膠腫術後精査:長いTI設定による異常硬膜の染め分けと、TE短縮による浮腫コントラストの抑制により浮腫内の造影結節を短時間で同時描出できた症例。
初発膠芽腫2例:TE短縮による浮腫コントラスト低減と造影効果上昇により、腫瘍周囲の微小濃染や、壊死組織内へのGd流入の様子を観察できた2症例。
おわりに
今回ご紹介した内容は、私自身が初学の頃に抱いた「T2-FLAIRはなぜ造影効果を示すのか?」という疑問から始まりました。
MRIは複雑で難解な装置ですが、その分、日々生まれる疑問が新たな発見につながる奥深さがあります。 今回のGyro Cup 2024への参加を通じて、その学びと経験の大切さを改めて実感させていただきました。当日会場へお越しくださった皆様、そしてPHILIPS関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。
ライター紹介
大分大学医学部附属病院 佐賀雅憲(サガ マサノリ)
技師歴8年、MRI従事歴7年になります。この情報交流の場でいつも勉強させていただいています。毎日何気なく業務をこなすのではなく、その時々の患者さんと読影医師の目線を意識して、学んだ知識・技術を活かし還元できる技師像を目標に日々検査に励んでいます。学会や研究会等でお見かけした際は、是非お声かけいただきMRIのお話ができれば幸いです。

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