はじめに・・・
東海大学医学部付属八王子病院の診療放射線技師 大塚勇平です。GE-HC社製MRI装置を用いた画像・撮像技術のコンテストである「Signa甲子園2023」で私がお話した演題について紹介させていただきます。
皆さま、大血管イメージングには、何のSequenceを選択するでしょうか?
自由呼吸・非同期・非造影MRA『Radial GRE』がどの装置でも撮像が出来れば、困ることは無いかもしれません。しかしながら、当院で使用しているGE-HC社製MRI装置では、Radial GREの撮像が出来ません。特にGE-HC社製MRI装置は、大血管撮像アプリケーションは自由度が少ない印象があります。
大血管イメージングの使用Sequenceとして、我々GE-HC社製MRIユーザーの選択肢は、
Time of flight(TOF)
↪ 流れの方向依存性や流速により信号取得が難しい
Phase Contrast(PC)
↪ VENC設定がシビア、長い撮像時間の割に画質がイマイチ
3D Inhance Delta-FLOW
↪不整脈に弱く、撮像における工程が多い
3D Inhance Inflow IR(IFIR)
↪ IR bandの設定が難しく、心臓にbandが当たると血液がimagingされない。
上記、どのSequenceにおいても考えないといけないネガティブな要素が多くあります。
そこで、我々は撮像工程が簡単であり、且つ、アーチファクトの少ない大血管イメージングを提案致します。
名付けて、「3D Fiesta with RoBSTER」
我々が提案するSequenceは、balanced SSFP系のSequenceである3D Fiestaを基本として、脂肪抑制にはSTIR、effective TR延長を目的として呼吸同期併用をした撮像手法です。
Robust Background suppression STIR and Enhancement of blood signal using Respiratory gatingの文字から(かなり無理やり)RoBSTER(ロブスター)と名付けました。得られる画像をFig.1-3に示します。脂肪抑制もRobustにかかり、動脈も静脈も高信号に描出することが可能となります。そのため、心臓周囲の胸部血管で起きるイベントなどの非造影検査としても有用です。
Fig. 1の動画はこちら
臨床医及び画像診断医からは、我々が提案する3D Fiesta with RoBSTERを使用することで、造影剤禁忌症例においても診断可能であり、胸部動脈瘤の経過観察が非造影のRoBSTERで可能になるとコメントを頂いております。
Fig.2の動画はこちら
Fig.3の動画はこちら
Fig.2のような症例では、術前に腫瘍外の血液ルートが確認できるため有用です。また、非造影でFig.3のような画像が得られるため、血管内治療術前に胸腹部血管アクセスルート検索できることはメリットがあると思います。
ここからは、Sequenceの詳細(創意工夫ポイント)に関してお話いたします。
創意工夫① effective TRの延長
ここで言う「effective TR」は、SSFP imagingのサンプリングと次のサンプリングの間のinterval時間のことを意味しており、他ベンダーのMRI装置では「shot interval」とも言います。このshot intervalを長く設定することにより、血液信号や臓器信号が上昇することが知られております。しかしながら、GE-HC社製MRI装置には、この「shot interval」に類似したパラメータが存在しません。
ここで、我々は気づきまして、呼吸同期を併用することで、SSFP imagingのサンプリングと次のサンプリングの間に生じるeffective TRの考えがshot intervalとイコールであるという風に考えました(Fig.4)。
この考えに基づき、呼吸同期併用で血管信号値が増強するのかを検証いたしました。まず、3D Fiestaの自由呼吸下(Fig.5左)と呼吸同期併用(Fig.5右)を示しておりますが、同一WW/WL設定で見て頂いて分かるように、全体の信号が上昇していることが分かります。
Fig.5の現象に対して、詳細に検討いたしました。この実験では、自由呼吸下で撮像した3D Fiestaを基準(TR:4.2msec)として、呼吸同期を併用したもので且つ、撮像時の呼吸レートを30、25、20と変化させてeffective TRを可変させた検証を行いました。呼吸レートの調整はメトロノームを使用して、一定の呼吸をボランティアに行ってもらいました。
Fig.6に結果を示します。このグラフでは、横軸がeffective TR、縦軸が信号強度です。測定したROIは、オレンジ色が血液、黄色が脂肪、青色が筋肉、緑色が骨として結果を提示しております。これにより、TRが上昇すること、つまり呼吸同期を併用することで、血管信号値も含む全ての信号強度が上昇していることが分かりました。
創意工夫② 脂肪抑制はSTIRで!
どの部位でも均一に抑制効果がある脂肪抑制法がSTIRであることは、皆さんご存じだと思います。実際に、脂肪抑制がSPAIRの3D FiestaをFig.7左に示しますが、赤矢頭の部分のように、B0不均一の影響を受けて部分的な選択水抑制となり、血液信号の取得がpoorになる場合があります。このままでは、Artifactが出た際に、再撮像して検査時間の延長をしたり、失敗したまま画像をPACS送信してしまったり、ネガティブ要素が多くなります。そこで我々は脂肪抑制方法にSTIRを用いるRoBSTERに辿り着きました(Fig.7右)。RoBSTERでは、STIRの脂肪抑制とすることでB0不均一の影響を抑制できるため、このようなArtifactを考えなくて良いわけです。
創意工夫③ GE-HC社製装置でどのように撮像するのか
3D Fiestaが基本となっているSequenceでSTIRを選択できるのは、3D Inhance IFIRというTime-SLIP系Sequenceのみです。これは、PSD Nameのところに小文字で「ifir_stir」と入力すると、STIRのprep timeに変更されます。この方法により、皆さんがお使いのGE社製MR装置でRoBSTERが撮像可能です。
ここからは、このRoBSTERのレシピについて詳細にお話いたします。まず撮像条件をTable.1に示します。
まず、このSequenceの基本はTime-SLIP系の3D Inhance IFIRなので、撮像の際に悩むのがIR-bandの設定位置だと思います。我々は、より簡単に考えるために、IRバンドを空中に配置することで、ただの3D Fiestaの撮像にすることを考えました(Fig.8)。この際、IRバンドの厚さは20mm程度の薄い設定として、体幹にかからないようにすることがポイントです。また、胸部血管を対象とする場合には、心臓にShim volを配置し、Sagittal収集でp-FOVを併用することで動きに強いSequenceに出来ます。腹部血管を対象とする場合にはCoronal収集でも大丈夫です。
次に、3D Inhance IFIR特有のパラメータであるBSP TIについて、呼吸同期とBSP TIの考え方を簡単にします。3D Inhance IFIR のサンプリングの模式図をFig.9左に示します。患者固有のR-R時間を計算した上で、R-R時間の50%を終点として考え、Trigger Point(TP)を10%に固定すると残りの40%分をBSP TIとして入力するだけです。その都度、計算するのも面倒なので、Fig.9右のようにあらかじめ表にしておけば、検査も簡単になります。
最後に・・・
我々が提案する3D Fiesta with RoBSTER (ロブスター)は、balanced SSFP系のSequenceである3D Fiestaを基本として、脂肪抑制にはSTIR、effective TR延長を目的として呼吸同期併用をした撮像手法です。呼吸同期併用とすることで血管信号を増強し、STIRを併用したRobustな脂肪抑制とすることで、簡単でアーチファクトの少ない大血管イメージングが可能になります。
是非、我々が提案する3D Fiesta with RoBSTER(ロブスター)を覚えて帰っていただけると幸いです。
ライター紹介
東海大学医学部付属八王子病院の大塚勇平(おおつか ゆうへい)と申します。
「創意工夫で常に新しい事を生み出す」ことを目標に、現場の優秀な先輩・後輩たちに囲まれて日々検査を行っております。また、毎年懲りずにSigna甲子園にエントリーしています(笑)。
Web開催だけでなく対面形式の会も増えはじめ、学会・研究会などで多くの方々と議論できる環境にあることを幸せに思います。私の顔を見かけた際にはお声がけいただき、色々とお話出来ると嬉しいです。
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