DWIにおけるSSGRとCHESS, STIRについて(補足説明)

(追加・修正)Philipsのスライス厚(Package 1のとき)を修正しました。また、IR pulseのスライス幅については、府中病院の北美保先生が、Simens社、Philips社と膨大なやり取りをして、おびただしい実験との整合性について相談をしてもらった結果(最初は異なる情報が提供されていた)、ようやく分かってきたことです。この点についても加筆を行いました。


日本乳癌画像研究会での発表内容について、その後わかったことを踏まえ、補足しておきたいと思います。現在シーメンス社からの強力なサポートをいただいており、なるべく早く改善をしたいと考えています。皆さんからの情報や工夫をお待ちします。

診療放射線技師だけでなく、放射線科医にも、ぜひこのことを、画像の良し悪しの評価のために、理解していただければと思います。なおここではSSGRについては解説していませんから、MRI応用自在などを御覧ください。

SSGRが強制的に付加されていることについて

まず、研究会で提示した画像では、「Siemensの画像のみTIを変えてもnull pointが定まらない」ということが観察されました。

スクリーンショット 2017-02-09 23.47.34

この点についてメディカルスキャニングの笠原 順さん(写真)が早速実験を行ってくれました。

スクリーンショット 2017-02-10 0.10.17

オリーブオイルを含んだファントムを撮影した結果がこれです。

スクリーンショット 2017-02-09 22.48.35

不思議なことに、RESOLVE(STIR-Multishot EPI)ではNullが定まるのに、STIR-Singleshot EPIでは定まらないのです。後者については研究会で提示した現象がファントムでも再現されたことになります。

なお、上記のSingleshot EPIでも、縦軸を拡大すると、わずかにNullがありそうな傾向を判断できます。
スクリーンショット 2017-02-10 5.53.05

「SSGRが付加されているから当たり前」という解釈では解決しない

その後、実験した条件ではSSGRが外れていなかった(つまりSSGRがONになっていた)ことがわかりました。経緯については非常に面倒なので詳細は省略しますが、概略を述べれば、使用したVerioにおいて、「以前はFatSat(CHESS)を外せば同時適用のSSGRも外れていたものが、仕様変更によりFatSat(CHESS)を外してもSSGRがはずれないようになった(常に強制的にSSGRがONになった)」ことによります。

※1 ちなみにRESOLVEについては、SSGRが外れている(としか思えない)状況ですが、これは本日シーメンス井村さんにお伺いをした限りでは、なぜかシークエンス上はSSGRはONになっているそうです。この点については不明な点があり、調査中とのこと
※2 現在市販されているバージョンでは、
– STIR ON, FatSat Weak → SSGR OFF
– STIR ON, FatSat Strong → SSGR ON
– STIR ON, FatSat OFF → SSGR ON
となり、SSGRをOFFにするにはFatSat をWeakにする以外はなく、純粋なSTIRの実験はできません。記述はわかりにくいようですが。FAQ No.21に、VB17, VB19, VD, VEにおける説明がなされています。
※3 現在、メディカルスキャニング東京あるSkyraには、「iShim」と言われる、アジアでひとつだけインストールされた特別なバージョンを入れてもらってあります(研究契約)。これにより、STiR ON, SSGR OFFの状態で実験ができます。この状態で実験すると、STIRでNull Pointが出現しています。この実験結果を末尾に掲載しました。

さて、そうすると、「SSGRが入っているので(脂肪抑制の効きが良くなったため)Nullがわからなくなっただけ」\(^o^)/ ・・・となるのかというと、それは違うのです。

SSGRが必要な環境は本来はCHESS

皆さんは、CHESSがとても難しい技術で、磁場均一性が悪いところでは脂肪抑制が不良になることを良くご存じです。3T装置(やさらに高磁場の7T装置)では、とても不満足な結果になりがちです。

こういった状況では、SSGRが威力を発揮します。下図のように、SPIR(CHESS)は、1.5→3.0→7.0Tとなるにつれ、制御が困難になりますが、SSGRは逆に効きが良くなるので、両者(Both)を併用することにより、良好な脂肪抑制が期待できます。

スクリーンショット 2017-02-09 23.00.11

STIRは均一であることが要求条件

しかし、STIRにSSGRを適用する場合は前提が違います。よく知られているように、CHESSは僅かな磁場の不均一により脂肪抑制不良になったり、あるいは水抑制にすらなったりしてしまいます。(自由自在 p.94)
スクリーンショット 2017-02-09 23.45.38

しかしSTIRはCHESSより遥かに磁場の不均一に強いのですから、もともと均一に抑制できていないとなりません

下の画像で、SPAIR(左)で脂肪抑制不良があるのはしかたがないとして、STIR(中)でも脂肪抑制不良があります。これは要求を満たしているとは言えません。これをSSGRでなんとか消す(消さなくてはならない)のは、望ましい状態ではなく、むしろ、後述の問題(水抑制)に抵触しSNRの低下を招いてしまう懸念があります。

スクリーンショット 2017-02-09 23.30.54

少し話がそれますが、下図のように、STIR(左)で「ほぼ均等に」脂肪抑制できていている状態が、要求すべき水準です。しかしこの状態においても、off-resonanceの脂肪信号が淡く残っています(繰り返しますが、均一に残っています)。ここに、最後の仕上げとしてSSGRを使うのが、理想的な使い方なのです (東海大学附属病院 堀江朋彦さんの実験, Achieva 3.0T TX)。

スクリーンショット 2017-02-09 23.32.56

SSGRには弱点がある

どうしてそのように考える必要があるのでしょうか。実は、SSGRは磁場の不均一には弱いからです。(極性を変えた)180度バルスが当たる位置が少しでもずれると(磁場が少しでも不均一だと)、SSGRが脂肪抑制不良をもたらしたり、あるいは水抑制を生じたりするのです。

SSGRは、脳や骨盤には良いのですが、上半身に用いるのはなかなか難しいものです。下図はIngenia 3.0T(すずかけセントラル病院、松下真弓さん実験, MIP画像)ですが、SSGRをONにすると、上半身で水抑制を生じてしまっています。現状では、Ingenia 3.0TでSSGRを、磁場が不均一になりやすい上半身に用いることは難しく、外したほうが良いのです。重要なことは、しかしSTIRで均一に脂肪抑制ができているので、現状でも撮影が出来ることで、将来SSGRがまともに作動すれば更に良い結果が得られる可能性を持っています。

スクリーンショット 2017-02-09 23.52.06

一方、Skyraにおいて、現状ではこのように、水抑制と脂肪抑制不良が認められます(Skyra, STIR, 冠状断再構成画像。SSGRは入っているものと思われる)。また、筋肉の信号が高いことが解決すべき他の問題として挙げられます。これに関してはある程度の工夫ができることが分かっており、第6回BodyDWI研究会で曽根さんが発表します。

スクリーンショット 2017-02-10 0.05.57

以上の考察からもわかるように、安易にSSGRを入れると、そもそもどうなっているのか解析ができなくなりますし、水抑制・脂肪抑制不良を制御できなくなるので、まずはSTIRにおいて均一であることを担保しなくてはならないのです。

Inversion Pulseとスライス厚

では、いったいどうしたらよいのでしょうか。PhilipsとSiemensでは、Inversion Pulseの幅が異なっています。(以下に述べることは、府中病院の北美保先生が、Philips・Siemensと、実験の結果と、企業から提供されていた情報の違いに注目し、担当の方に尋ねたところ、好意で調べてくれて、本社と相当なやり取りを行ってくださった結果、分かってきたことを付け加えます=以下のことが分かるだけでも、概ね1年以上を要しています)。


 

  • Philips
    • (追加・訂正)
      • Package数(スキャン分割数)2以上のときは、Package数 x 0.75倍。
      • Package数 1のときは、1.0倍
  • Siemens
    • スライス厚の1.25倍。Concatenation数(スキャン分割数)2のときは、TI>500msの時に限って、スライス厚の2倍になる

これはきわめて興味深いことです。スライス厚は御存知の通り「半値幅」で定義されていますが、スライス励起の90度-180度パルスとは異なり、プリパルスであるところのInversion pulseの幅は、それとは独立して制御されているというわけです。

また、inversion pulseの裾野(DWIのKurtosisの違うグラフのような形を想像してください)は、はっきりとユーザーに知らされているわけではありません。

そして、Philipsは (Package1のときは)スライス厚と同じ厚みで打ちSiemensはスライス厚よりも厚く打っているという違いがあるわけです。

GEについて、本日中上さんに聞いたところ、わからないのでGEも調べてみるということでした。

FLAIR用と、DWI用?

なお、Simensにおいて、TI>500msのときに2倍打つというのは、これはFLAIRのときに、隣接領域からのCSFのinflowが画像をダメにするからです。つまりCSF inflowに対するSATパルスの働きを持たせているのです。PhilipsでPackage2のときに励起幅を倍にするのもこのようなことを想定しているのではないかと思います。

DWIでは、このようなinflowを意識する必要はないはずです(MPGですでに信号が飛んでいるから)。ですから違う戦術のIR pulseを用いたほうが良いのかもしれません。この点で、PhilipsはPackage数2のとき、1.5倍のIRを打っていますが、DWI用にはもともとの1.0倍をキープしたほうがいい効果が得られる可能性すらあります。

Cross-talkとMTC効果

また北美保先生(府中病院)によれば、Cross-talkによるSNRの低下に対しても影響を与える可能性があるとのことです。かなり深い話であることがお分かりと思います。

東海大学附属病院の渋川周平さんの実験 (Not shown)では、Package 2のほうがピーナッツオイルと硫酸銅のコントラストが良くなることも分かっています(但し Inversion Pulseは2倍となっているがこれが良いのかどうかは不明)。これは創意工夫研究会 (2/15)で発表されます。

もしIRの幅である程度のことが変わるのであれば、それは劇的な変わり方をするのかもしれません。これまでタブーだった比較実験をしたことがきかっけで、短期間でここまでのことが分かってきました。励起パルスには様々な設定(部品、種類)がありますから、本社で本気になって改善をすれば、以外に早くきれいになる可能性を秘めているようにも思います。

(了)


(付録)

Siemens Skyra (iShim)におけるSTIRのみの時のNull Pointについて

これはWIPのiShimの機能の一部を用いて、SSGR、FatSatをすべて削除したときの結果です。Siemens井村さんから提供を受けましたので、掲載します。本文と合わせて御覧ください。

なお、乳腺のみに限定した場合は(もし5分かけられるなら)STIRベースのRESOLVEで解決できるかもしれないという印象があります。
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tarorin東海大学工学部 医用生体工学科 教授

投稿者プロフィール

MRIの撮像・フィルム焼き・患者導入に従事していた経験を活かし、企・技・医の中間の立ち位置を大切にしています。モットーは研究結果を中立的に判断すること、皆で研究成果を愉しむことです。

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