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★★ ルーチン外検査での即興プロトコル構築のコツ
- 2026/7/10
- Education, 撮像のワンポイントアドバイス
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~即興編集 「動き」と「コイル選択」で考える 3つの実例~
YouTubeショート動画もご覧ください:https://www.youtube.com/shorts/ZQC5BxIQ3t4?feature=share
<新企画>「撮像のワンポイントアドバイス」
★~★★★までの難易度を設定し、MRIにおける基本的な注意点や撮像のポイントなどをまとめていくコンテンツです。初学者の方やローテーターの方など是非ご一読ください!
今回の「撮像のワンポイントアドバイス」の難易度は ★★ふたつ です。
北九州市立医療センターの長島と申します。
今回は、ルーチンにないオーダーが飛び込んできた時の、即興プロトコル構築のコツについての投稿となります。
なお、本記事の内容と画像は、当院のGE社製1.5T装置 Victor(version 30.1)での運用に基づいています。施設や装置によってプロトコル名・運用は異なりますので、考え方の参考としてお読みください(詳しくは記事末尾の「おわりに」もご一読ください)。
こんな経験、ありませんか?
- 医師から「この部位のオーダーはどれを選べばいい? 適合する部位がないんだけど…」と問い合わせが来た
- 検査が始まってから、ルーチンプロトコルではうまくいかないことに気づいた
私は何度もヒヤッとした経験があります。
電子カルテのオーダー名からMRIプロトコルがツリー形式で紐づいている施設が理想的ですが、そこまで整備されていてもオーダー名どおりのプロトコルが最適とは限らないケースは必ず出てきます。
その時、「即興プロトコル」を作成しなくてはなりません
一からシーケンスを作っていると、どうしても編集時間が長くなってしまいます。そうすると、編集が撮像に追いつかれてしまう。オペレータにとって、「音が鳴っていない時間」は本当に焦ります。
この時間をなくすには、「オーダー名どおりのプロトコル=最適」と決めつけず、そのオーダー名に囚われないことが重要です。オーダー名にとらわれずに、最適な既存プロトコルを選択することが重要です。そうすることで、編集時間を最短にして、音が鳴っていない時間を最小にすることができます。
注目すべきポイントは、検査目的の対象を中心に考えることです。その判断軸は次の3つです。
| 判断軸 | 確認すること |
| ① 動き | 呼吸・心拍・胎動・嚥下の影響を受けるか? 周期的か非周期的か? |
| ② コイル選択 | 対象部位の最適なコイルは? |
| ③ FOV外の情報 | 位相エンコード方向のFOV外に折り返し源があるか? |
本記事では、このうち「動き」と「コイル選択」に絞って具体例を紹介します。FOV外(折り返し防止)も重要ですが、長文になるので省略します。
また、分解能については、CTの分解能(体幹部512マトリックス・FOV 300〜350mmで0.6〜0.7mm程度)を指標に、自施設装置での感覚を身につけておくことが重要と考えています。
なお、昨今 DLR(Deep Learning Reconstruction) が導入されている施設も多いかと思います。DLRには主にデノイズ効果と高精細効果があります。これらの効果によって、既存の分解能のピクセル値と見た目の感覚に乖離が生まれてきます。したがって、DLR導入装置と未導入装置とでは、ピクセル値の取り扱い方が異なる点に注意が必要です。
では、具体例に入ります。それぞれどの判断軸が主役になるかを意識しながら読んでみてください。
具体例① 「骨盤婦人科」オーダー → 実は妊娠後期だった
主役の判断軸:動き
難易度:★(最も低い)
依頼内容:子宮筋腫の精査。背景として妊娠後期。目的は子宮筋腫の状態を見たい。
引っかけポイント
オペレータは「子宮筋腫の精査」に引っ張られて、当院の骨盤婦人科ルーチン(FSEベースの体動補正法 PROPELLER 主体)を選択しがちです。
思考プロセス
- 「子宮筋腫」と聞いた瞬間、骨盤婦人科プロトコルを選びたくなる
- しかし、患者背景を見ると妊娠後期である
- 撮像してみると、FSE T2WI Sagittalに胎児の突発的な動きによるストリークアーチファクトが出現(Fig.1)
- ここで立ち止まって考える:PROPELLERは周期的な動きには強いが、胎動のような非周期的で突発的な速い動きの補正は苦手なことが多い
- したがって、主体とすべきは SSFSE(Single Shot FSE)系
- 1 shot(1励起)あたりの収集時間が非常に短い
- 胎児の速い突発的な動きにも追従できる(Fig.2)
- 結論:検査目的(子宮筋腫)ではなく、患者背景(妊娠=胎盤)でプロトコルを選び直す


なぜ具体例①は難易度が最も低いか
- コイル選択が論点にならないからです。撮像部位は骨盤のままで変わらないため、プロトコルを「骨盤婦人科」から「胎盤」に変えるだけで完結します。
- コイル:骨盤用コイルのまま
変更点:プロトコル選択を骨盤婦人科→胎盤に変更のみ
教訓:部位が同じでも、動きの質が変わればプロトコルは変わる。
具体例② 「乳腺」オーダー → 対象は術後再発の有無
主役の判断軸:コイル感度 + 動き
難易度:★★
依頼内容:乳がん術後の再発疑い精査。対象は残存乳腺の胸壁・腋窩リンパ節近く、病変は小さい。
引っかけポイント
「乳腺」のオーダーなので、反射的に乳腺専用コイル+腹臥位のルーチンを選びたくなります。
思考プロセス
Step 1:コイル選択から考える
- 乳腺コイルは形状的に、胸壁や腋窩あたりの信号強度が低い
- 対象が小さい病変であれば、高SNR=高コイル感度が必要
- ならば、ボディコイルのほうが腋窩に密着でき、信号を稼げる
- 一般的に、乳腺コイルよりもボディコイルのほうが汎用性が高く、メーカーもコイル革新に力を入れているため、多チャンネル化が進んでいることが多い
- この時点で「乳腺コイルは却下」と決まる
Step 2:動きから体位を考える
- 乳腺ルーチンが腹臥位なのは、乳房を下垂させて呼吸動を制御するため
- 正確に言えば、「呼吸の影響を受けたくないから下垂させる」→「下垂させるには特殊形状の乳腺コイルが必要」という因果関係
- しかし今回の対象は切除後の乳腺領域と腋窩 → 腹臥位にしても関心領域は下垂しない
- 下垂させる必要がないなら、仰臥位でよい
- 仰臥位で対象は外側、または腋窩で呼吸動の影響が比較的小さい(呼吸停止や同期するほどの動きではなく、自由呼吸下でPROPELLERなどの体動補正法で補正可能)
Step 3:プロトコルを選ぶ
- コイルは体幹部用コイル、体位は仰臥位、動きは軽微 → この条件に合うルーチンは?
- 頸部プロトコルが最も近い
- 切除後の形状不均一による脂肪抑制ムラ対策として、STIR法を採用(頸部は磁場不均一性が高い)
- 頸部では嚥下程度の動きを想定した体動補正(PROPELLER)が組み込まれている
プロトコル選択の消去法
| 候補 | 却下理由 / 採用理由 |
| 乳腺ルーチン | 乳腺コイル前提の設計 |
| 上腹部ルーチン | 不要な呼吸制御が入っている |
| 頸部ルーチン | 磁場不均一性の対応・体動の強度などが合致 |
教訓:オーダー名(乳腺)ではなく、対象の解剖学的特性からコイル ・ 体位 ・ 動きに着目し、コイル・プロトコルを選択する。(Fig.3〜5)



具体例③ 「縦隔」オーダー → 反射的に同期を組まない
主役の判断軸:動きの実測 → 呼吸・心電同期を省略し時間短縮
難易度:★★★(最も高い)
依頼内容:縦隔腫瘍の精査
引っかけポイント
「縦隔」と聞くと、ほぼ反射的に心電同期・呼吸制御を組み込んだ「縦隔」プロトコルを選びたくなります。コイルも背側のスパインコイルと前側のボディコイルを重ねるのが一般的です。
しかし、ここで一度立ち止まってほしいのです。
「本当にこの腫瘍に、心拍動・呼吸動の影響があるのか?」
思考プロセス
Step 1:「縦隔=同期」の反射を一度止める
- 縦隔の区分を思い出す
- 前縦隔は心臓に近く、心拍動・呼吸動の影響を強く受ける可能性が高い
- しかし、腫瘍の位置によっては、影響が小さいこともある
- 縦隔というだけで「同期が必要かどうか」を決めない
- 同じ「縦隔」でも、腫瘍の位置・大きさ・形態によって動きの影響は変わる
- ここで重要なのは、「動きが本当にあるのか」を確かめること
Step 2:SSFSEで動きを実測する
- SSFSEを自由呼吸下で撮像する
- SSFSEは1 shotで撮像が完結するため、撮像時間が短いので、確認用として最適
- 撮像した画像をスライスごとに見ていき、対象が動いているかを観察する(動きがあれば、スライス間で対象がガタついて見える)
- 画像を見て判断する
- 動きの影響がある → 心電同期+呼吸制御を組み込んだ「縦隔」プロトコルへ
- 動きの影響がない → 同期不要、呼吸制御不要(次のステップへ)
- このワンステップを入れることで、「同期を省く判断」に客観的な裏付けが得られます(Fig.6)

Step 3:動きの影響がないなら、大幅な時間短縮ができる
- 心電同期・脈波同期 → 不要
- 呼吸制御(呼吸停止/呼吸同期)→ 不要
- これらを省くことで、撮像時間を大幅に短縮できる
Step 4:流用するプロトコルを決める
- 同期不要、背側のスパインコイルのみで撮像できる
- 対象範囲外までコイル感度を広げると、その領域からの信号や動きがアーチファクトとして画像に重畳してしまうため、必要な範囲だけをカバーするのが基本
- → この条件に合うルーチンは?
- 脊椎ルーチンがぴったり当てはまる(Fig.7, 8)
- コイルがスパインコイルのみ
- 分解能も本症例の評価に十分
- 同期系が入っていない


もし反射的に「縦隔」プロトコルをそのまま使ったら?
- 不要な心電同期・呼吸制御が入り、撮像時間が大幅に伸びる
- 画質は向上しない(そもそも制御するほどの動きがないので補正する意味がない)
- 患者は不要な呼吸停止を強いられる
教訓:「縦隔=心電・呼吸同期」と反射で選ばず、まず動きを実測する。動きがなければ同期省略で大幅な時間短縮ができる。
即興プロトコルを「経験値」に変える
プロトコル構築は、チーフなど限られた人が担うことが多く、若手はなかなか経験を積めません。だからこそ、こういうトリッキーな検査1件の経験は貴重です。
検査終了時に「よかった、終わった」で片付けず、次の振り返りをおすすめします。
- 選択したプロトコルと画像を見直す
- チーフや先輩に「ここはこうすればさらに良かった」という視点をもらう
- 患者の年齢や病変が大きい場合などは綺麗に写りやすい点を意識する(高齢者・小病変との描出差を想定しておく)
そして最も重要なのが、この即興プロトコルを「ルーチンプロトコル」として保存できるレベルまで格上げする作業です。
この格上げ作業こそが、若手オペレータの自信と臨床上の知識向上につながります。さらに重要なのは、知識だけでなく、その知識が臨床にマッチングすることです。この「臨床へのマッチング」が、実は一番難解なのです。
まとめ
- オーダー名に引っ張られない
- 判断軸は「動き」「コイル選択」の2つに絞ると、思考が早くなる
- 即興プロトコルは振り返り、ルーチンに格上げすることで初めて「経験値」になる
おわりに
最後に、この記事についての補足と私の考えを述べさせてください。
本記事は少々踏み込んだ内容です。というのも、施設によってプロトコルの構成はさまざまだからです。
- RISの検査オーダー名とMRI装置のプロトコル名がツリー構造で紐づいていない施設もあるかもしれません
- 今回記事で挙げた検査名は当院の検査名であり、検査名や装置のプロトコル名に統一規格はないため、皆さんの施設のフローと一致しない部分は大きいはずです
- 内容も私の主観が大きく入っており、一般化されたものではありません
その前提でなお、私がこのテーマで記事を書いた理由があります。
初学者が「もうひとつ上」に行くために
初学者が臨床MRIでレベルアップするには、ルーチン検査ではない検査オーダーに対していかに対応できるかであると、私は考えています。
ルーチン検査のプロトコルは、たいてい MRI室のチーフや中級者が作成しています。そのカスタマイズされたプロトコルをただ使っているだけでは、MRIの原理を考える機会は少ないのではないでしょうか。
ルーチン外の検査に出会った時こそ、原理に立ち返り、「それをどのように臨床にマッチングさせるか」を考える絶好の機会です。これが、臨床知識 → MRI知識 という知識構築のフローを動かす”きっかけ”になります。
臨床知識からMRI知識を積み上げるのが最もコスパが良い
私は、臨床知識からMRI知識をつけていくのが一番コスパが良いと考えています。
なぜなら、MRI知識だけを単独で知っていても、私自身も含めて大半の技師は臨床病院(研究機関以外)に勤めているからです。MRIの知識を生かすのは臨床の場です。
したがって、
- 臨床上で何が重要かを理解する
- それをMRIで医師に示すには何を知らないといけないかを考える
- 必要なMRIの勉強をする
このフローを繰り返すことで、臨床とMRIがマッチした知識が得られるのではないでしょうか。
ルーチンと違う検査は、現場ではヒヤッとする瞬間ですが、見方を変えれば、臨床とMRIをつなげて考えさせてくれる絶好の機会です。
次にそういうオーダーが飛び込んできた時、焦りつつも、技術向上のチャンスと思いながら向き合っていただければ幸いです。
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