★★頚部MRA 動きによるアーチファクト対策

~LAVA-FLEX法を用いた部分的 超高速 再撮像法~

<新企画>「撮像のワンポイントアドバイス」

★〜★★★までの難易度を設定し、MRIにおける基本的な注意点や撮像のポイントなどをまとめていくコンテンツです。初学者の方やローテーターの方など是非ご一読ください!

今回の「撮像のワンポイントアドバイス」の難易度は★★ふたつです。

北九州市立医療センターの長島と申します。
今回は、頚部MRA 動きによるアーチファクト対策についての投稿となります。

一見、正常に見える頚部TOF-MRA画像。違和感に気づきますか?

図1をご覧ください。一見すると正常な3D-TOF(Time Of Flight)法 で撮像した頚部MRA画像に見えますが、黄色矢印の部分にわずかな“ズレ”が生じています。

このようなアーチファクトは、MOTSA(Multiple Overlapping Thin Slab Acquisition)で撮像した際、特定のスラブ撮像中にのみ体動が生じた場合に発生します。画像全体では目立ちにくく、注意して観察しなければ見逃される可能性があります。もし、初学者の方でMOTSAについて興味がある方は、ぜひ調べてみてください。

広範囲を撮るためのMOTSA、それによる課題

頚部MRAでは、血管内治療前の評価を目的とする場合、大動脈弓から頭蓋内に至るまでの広範囲を撮像することが求められます。このような広い範囲はMOTSA 3D-TOF法が一般的に用いられます。

図2では、3スラブで撮像しています。最新の装置でない限り、この方法では約3〜5分以上の撮像時間を要すると思います。最近ではCompressed Sensing(CS)やDeep Learning Reconstruction(DLR)などを用いることで撮像時間の短縮が進んでおり、当院でも新装置では約2分台での撮像が可能です。

(なお、今回ご紹介する内容は、旧装置(GE社製1.5T Ver.23)でのお話です)

頚部の“動き”と“MOTSA”が引き起こす課題

MOTSAは頭部MRAにも通常用いられていますが、頭部は固定がしっかり行えるため、一部だけが動いて図1のようなアーチファクトが出るケースは比較的少ない印象です。仮に大きな体動がある患者さんであれば、明らかにアーチファクトとして判別できるでしょう。

一方で頚部は、外側の固定では制御できない「内側の動き(喉や咽頭の動き)」が関与するため、完全な固定が困難です。唾液の嚥下や咳といった突発的な動きは、患者さんの意思に関係なく発生しやすい特徴があります。

また、頚部全体が大きく動いた場合は、各スラブにまたがる明らかなアーチファクトとしてすぐに判別できますが、特定のスラブだけに生じた小さな動きは目立ちにくく、図1のように気づきにくいことがあります。

このように、頚部特有の動きとMOTSAによる分割撮像が複合的に起こり、判断の難しいアーチファクトが生じることがあるのです。

再撮像はどうする?全体?部分的?

もちろん、全体を撮像することが好ましいですが、再び動く可能性もあります。そこで当院では動きのあった部分だけを再撮像します。

選択するシークエンスは1スラブのTOF法でも良いのですが、撮像時間に2分近くかかるので、再撮像時間はできる限り短くしたいところです。そこで当院では、、、

LAVA-FLEX法を用いた超高速再撮像

LAVA-FLEX法を活用して、限定した範囲を約30秒以下で再撮像しています。図3のように、TOFで体動によるアーチファクトがあった範囲のみを再撮像することで、短時間でアーチファクトのないMRA画像を取得できます。

LAVA-FLEXは、もともと体幹部のDynamic撮像などに使用される3D fast GREシーケンスです。通常は血流信号を抑えるSATパルスが設定されていますが、流入側のSATパルスをOFFにすることで、In-Flow効果が得られ、動脈が高信号で描出されます。

撮像条件を図4に示していますので、良ければお試し下さい。

LAVA-FLEX法の活用ポイントまとめ

・流入側のSATパルスをOFFに

・撮像断面は横断像で、範囲は動いた部分に限定し、流入効果の低下を最小限に。

 また、TONE法などの併用は不可なため、流入・流出で信号差が出ることを承知の上で

・TOF法と比べると画質や信号は劣るものの、再撮像時間の短縮が大きなメリット

おわりに

もちろん、頚部MRAの標準はMOTSAを併用したTOF法であり、主治医や読影医にとっても一つのシークエンスで評価できる方が望ましいのは言うまでもありません。そのため、意思疎通ができる患者さんにおいては、撮像直前に「今から5分ほどの長い撮影をします。唾を飲み込んだり、口を動かすのは控えましょう」と一声かけることが重要です。

しかし、上記のようなアーチファクトが発生し、長時間の再撮像が難しい場面もあるかと思います。柔軟な代替法の一つとして、この方法を活用してみてください。

参考文献)

長島利一郎. LAVA-Flex法を用いた頚部MRAの検討. 第45回日本磁気共鳴医学会大会; 一般演題 ; 2017

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nagashima北九州市立医療センター 放射線技術課

投稿者プロフィール

福岡県の北九州市立医療センターの長島と申します。20年近くMRIに携わっています。
ずっと古い装置を扱ってきて、最近新しい装置が導入されました。
若い頃にMRIで”こんなことができたらいいなぁ”と思っていたことが、今の技術で可能になること、拡がりを持つことを実感しています。色々な発信ができればと思っております。

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