3.0T装置使用時のOff Centerにおける励起不良(B1不均一)の原因とその対策について

<新企画>「撮像のワンポイントアドバイス」

★〜★★★までの難易度を設定し、MRIにおける基本的な注意点や撮像のポイントなどをまとめていくコンテンツです。初学者の方やローテーターの方など是非ご一読ください!

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今回の「撮像のワンポイントアドバイス」の難易度は★ひとつです。

東京慈恵会医科大学附属病院の伊藤隆一です。
私からは「3.0T装置使用時のOff Centerにおける励起不良(B1不均一)の原因とその対策について」話していきたいと思います。

はじめに

早速ですがタイトルを分解します。
「3.0T装置使用時の」→3.0T装置でたまに発生して、1.5T装置ではめったに起こらない
「Off Centerにおける」→ボア中心から外れた(主に上肢)領域において
「励起不良(B1不均一)の」→画像の一部の信号が欠損してしまう事象の
「原因とその対策について」
解説していきます。まずは以下の画像をご覧ください。

Fig.1 問題の画像とポジショニング

前置きとして、このとき私はできるだけ撮像部位(右肘)をCenterに近づくようポジショニングしています。
決してサボっていません。
それなのに複数のシーケンスで画像の下半分の信号が欠損しています。
「なぜだ・・・」
そこでまずコイルの抜き差し、中心周波数の取得領域や励起スキームの変更、検査を仕切りなおして患者プロファイルの再設定などを試みましたがまったく歯が立たず、いうならば”沼”ってしまいました。
仕方なく1.5T装置に移動。あの時は悔しかった。

暫くして原因はGeometry(装置と被写体の条件)によるものと判明しました。

【原因】3.0T装置の登場、dielectric effectとMulti-Transmit方式、そして”沼”

dielectric effect及びMulti-Transmit方式(以下、M-T方式)の詳細については下記の解説をご覧ください。
https://mri-q.com/dielectric-effect.html
https://mriquestions.com/multi-transmit-rf.html
ポイントは
「3.0T装置系のRFパルスは1.5T装置系のRFパルスに比べ、RFの波長から励起が不均一になりやすいこと」
そして
「M-T方式は従来1点からのRFパルス照射を2点(ないし複数点)から人体に透過しやすい形で照射し、合成波によって励起を得るといったもの」であり、このM-T方式により3.0T装置における体幹部撮像は大方うまくいくようになりました。
よって今回の事象はこのM-T方式の「数少ない落とし穴」ということもできます。
以下の図をご覧ください。

Fig.2 RFの通り道

このGeometryにおいてRFパルスは時計でいう0時方向と9時方向に配置されています。ここでは撮像部位は3時方向の左肘としましょう。
0時方向からのRFパルスは障害物が少なく撮像部位にあたります。
しかし9時方向のRFパルスは多くのプロトン(人体)が障壁となり撮像部位に至るまでに多くのエネルギーを失っています(こと下側の方が顕著)。よって、9時方向からのRFの励起が不十分となり励起不良が起こっていると考えられます。
長くなりましたが、この”沼”の正体は「3.0T装置のRFコイルの位置と被写体の体位の組み合わせによっては励起不良となる領域があり、原因と対策を知らなければ改善が難しい事象」なのです。
また、この事象は「Geometryが成立すれば体形に関係なく発生する」点に注意が必要です。
加えてこの事象が起きるときは、ほぼ必ずSARが引っかかることが伴いますので”沼”のアラートとして覚えておきたいものです。

【解決法①】装置スペックによるアプローチ

3.0T装置の中には世代・スペックによって様々なM-T方式が存在します。
詳細は割愛しますが、今回の事象にかかわるスペックは各RFコイルに対して
「独立したアンプと電源を持つもの」
「独立したアンプと共通の電源を持つもの」の違いです。

Fig.3 M-T方式の違い

簡単な説明ですが、先程のGeometryにおいて前者は0時方向を出力強化、9時方向をまずまずな(いたずらにSARを上げない)出力に調節することができます。一方で後者は両方向を強化するしかなくSARによって出力制限がかかり励起不足となるのです。
この機能が使えるかどうかはひとえにメーカーや装置スペックによります。これを確認すること、そして使用可能であればこの機能を有効にすることをお勧めします。※意外と対象装置であっても有効になっていない、なんてこともあります。

【解決法②】技術からのアプローチ

では、上述のM-T方式の装置でなかった場合、泣き寝入りするしかないのか?
全然そんなことはありません。
技術的なアプローチ方法を3点ご紹介します。


①装置の特性を知り対策する(改善度”大”)

言い換えれば「装置のウィークポイント」を理解して避けることです。
先程のGeometryでいえば「Off Centerは3時方向での撮像を避ける」つまり「右肘は頭入れで検査、左肘は足入れで検査」するといった対策です。
これだけで劇的に改善が見込めます。
どうにも、メーカー・機種・スペックだけでなく製造時期レベルで多種多様なようですので、予め自施設の装置特性を知っておくこと、現場で共有しておくことが重要となります。


②dielectric effectを避ける撮像条件を知る(改善度”小”)
簡潔に話しますと、FAが高いシーケンス(主にFSE/TSE系)は励起不良が顕著です。
FAを可変できる機種・シーケンスであればFAを低く設定することで励起不良を軽減できる可能性があります。一方でFAの低いGRE系やEPI系は励起不良が軽微な印象です。しかしながらGeometryがガッツリはまってしまうと、これらのシーケンスでもガッツリ励起不良が起きることが多いです。


③ポジショニングで対策する(改善度”中”)
例えばコイルケーブルの長さの制限、コイル接続のソケットの制限があり①だけではどうしようもない場合はポジショニングでの対策が有効です。以下にTipsを示します。

Fig.4 ポジショニングのTips

このようにRFパルスの「通り道」を意識することも重要です。
状況を鑑みれば突飛なポジショニングも有効となりえます。
ポジショニングでかなりの改善が見込め、SAR環境も改善しますのでおススメです。

内容は以上となります。
もしどこかでこの”沼”に遭遇した時、この記事が一助となれば幸いです。

ライター情報

東京慈恵会医科大学附属病院 伊藤 隆一です。
良くも悪くも、よくしゃべる男です。
詳細は「RADっていいとも」にて素敵な記事を掲載していただいておりますので、ご興味のある方もない方も、ぜひご覧いただけましたら嬉しいです。
RADっていいとも 素敵な仲間とのペンリレー (68)伊藤 隆一
これからも、MRIという趣深い世界を堪能していきたいと思っています。
また、MRIに携わる多くの方々とつながりができましたら幸いです。
学会や研究会などでお見かけの際は、どうぞ気軽にお声がけください。

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kasumi sakai公立学校共済組合 関東中央病院 放射線科

投稿者プロフィール

東京MAGNETOM研究会、東京MR励起会で世話人をさせていただいています。撮像条件や安全管理など学ぶことが尽きないところもMRIの魅力だと思っています。まだまだMRI沼から抜け出せそうにありません。

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