日常臨床での活用を目指した短時間ミエリン強調画像

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千葉大学医学部附属病院の新田圭介と申します。今回はPhilips社装置を用いた、短時間かつ簡便にミエリン強調画像が取得できる撮像法についてご紹介します。

1.はじめに

神経疾患の診断において、ミエリン(髄鞘)の破壊、すなわち脱髄を画像診断で捉えることは、多発性硬化症などの病態評価において非常に重要です。しかし、日常臨床で多用されるFLAIR画像などは、炎症や浮腫に対しても高い感度を持つ反面、純粋な脱髄との識別には苦慮する場面も少なくありません。一方、ミエリンに対する定量的撮像法は高い特異性を持ちますが、撮像時間の長さや複雑な後処理が必要な点が、日常検査への導入における課題となっていました1)。これらの背景を踏まえ、より簡便にミエリン強調画像を得るための一助として、本手法を考案いたしました。

2.原理

この手法はミエリン水の物理的特性に着目し「撮像の迅速化」と「簡便さ」の両立を試みました。ミエリン層間に存在するミエリン水は、周囲の細胞内/外の水と比較してT1値が非常に短いという特徴があります。 この特徴を応用し、Inversion pulseを用いた3D-T1-FFEシーケンスをベースとしました。本手法のポイントは、”短いTI”と”短いShot Interval”の設定にあります。

Fig.1 本シーケンスの概要図

Shot Intervalが充分に短い条件では、幅広いT1値を持つ細胞水などの信号を、単一のTI設定によって広範かつ効率的に抑制することが可能です。この設定下では、異なる長いT1値を持つ複数の組織成分が、null point付近へと収束するため、ミエリン以外の組織を幅広く抑制できます。 その一方で、短いT1値を持つミエリン水のみは、この短いShot Intervalの間に信号が回復するため、他の組織の信号が抑制された中で、相対的な高信号として描出されます。

3.撮像パラメータのポイント(3.0T)

Fig.2に、3.0T装置における詳細なパラメータを示します。特にTIを150ms、Shot Intervalを300msに設定することが、ミエリン強調画像を得るための鍵となります。

Fig.2 撮像パラメータ

4.臨床画像

Fig.3 臨床画像
Fig.4 多発性硬化症症例(上段:FLAIR/下段:本手法)

Fig.3は本手法を用いた全脳画像、Fig.4は多発性硬化症患者における症例画像です。上段のFLAIR画像で認められる高信号病変に対し、下段の本手法ではミエリンの欠損を反映した低信号として描出されています。FLAIRで同定される脱髄巣と、本手法による低信号領域が一致していることがわかります。 

5.従来法と本手法の比較、および定量的ミエリンマップ

Fig.5 従来法(Conventional)と本手法(Myelin weighted)との比較

Fig.5に本手法と従来法(当院で通常撮像されている3D-T1-TFE:TI=1000ms、Shot Interval=3000ms)の比較、および参照用として7T MRIを用いた定量的ミエリンマップ(q-Ratio)2)の先行研究例を示します。Shimらの報告によれば、ミエリンは脳白質内に一様に分布しているわけではなく、特に脳梁や内包などで豊富であることが示されています 。そこで、ミエリンが豊富な脳梁と、灰白質である尾状核においてCR(Contrast Ratio =(S1-S2)/(S1+S2) )を測定したところ、従来法のCR=0.14に対し、本手法ではCR=0.38と高い値が得られました。

また、正常白質と脱髄斑とのCRにおいても、従来法のCR=0.26に対し、本手法ではCR=0.57と大幅に向上しております。これらの結果は、本手法が従来の撮像法と比較してミエリンの分布をより明瞭に強調し、脱髄の変化に対しても優れた視認性を有していることを示唆しています。 もちろん、本手法は物理量を算出する定量的な撮像法ではありませんが、複雑な後処理を介さずにミエリンの分布を短時間で可視化できる可能性を秘めています。日常診療と専門的な詳細評価を繋ぐ『橋渡し役』として、臨床の一助となれば幸いです。

6.おわりに

本手法は、既存のミエリンイメージングが抱える時間の制約や複雑さを軽減し、脱髄の変化を迅速に視覚化することを目指した手法です。まだまだ改善すべき点はございますが、従来の検査を補完するものとして、多発性硬化症をはじめとする脱髄性疾患のより詳細な病態評価に、一定の有用性を見出せるのではないかと考えております。

参考文献

1) Ma YJ et al. Myelin water imaging using a short-TR adiabatic inversion-recovery (STAIR) sequence. Magn Reson Med. 2022 Sep;88(3):1156-1169.

2) Shim JM, Cho SE, Kang SG, Kang CK. Quantitative myelin-related maps from R1 and T2* ratio images using a single ME-MP2RAGE sequence in 7T MRI. Front Neuroanat. 2022 Aug 25; 16:950650.

ライター紹介

初めまして、千葉大学医学部附属病院の新田圭介(にった けいすけ)と申します。MRIの面白さ・奥深さに魅了され、日々その知識を深めているところです。まだまだ勉強中の身ではありますが、様々な方々と情報交換や交流を通じて、知見を広げていきたいと強く思っております。是非、学会などでお見かけした際には、お気軽にお声がけいただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いします。

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Tachikawa Yoshihiko唐津赤十字病院 医療技術部 放射線課

投稿者プロフィール

MRIの魅力に完全に沼っています。
新しいアイディアを生むために、先人の方々の創意工夫から学んだ知識と想像力を活かし、固定概念に捉われすぎないように心がけています。今後もMRIを通じて出会う方々との繋がりを大切にしながら、皆様にとって少しでも有益な情報を発信していけるように精進いたします。

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