FRACTUREによる頚椎術前VR画像作成

皆様こんにちは。MRI fan.net編集委員 茨城県西部メディカルセンターの飛田と申します。今回はFRACTUREを用いた頚椎術前VR画像作成時の工夫点についてご紹介させて頂きます。

FRACTUREとは

ここ数年で一気に話題性が増したFRACTURE。これはPhilipsが考案した新しい撮像手法で、multi echo-GREシーケンスを用いて得られたエコーを複数加算し、白黒反転することでBone like imageを作成します。過去の記事では頚椎の「OPLL診断のためのFRACTURE撮像の工夫」についてご紹介していますので、そちらもご参照ください。

図1. FRACTUREの原理

皮質骨を画像化するには

骨は皮質骨(緻密骨)と海綿骨(骨髄)から構成されます。海綿骨は黄色髄と赤色髄がほとんどを占めているので、水や脂肪のプロトン密度が十分あります。しかし皮質骨はカルシウムやリン、コラーゲンなどプロトン密度が低い組織で構成されており、T2*減衰も早すぎるため、MRIでの画像化が困難でした。FRACTUREの画期的なところは、従来では困難であった皮質骨(緻密骨)を画像化している点です。

図2. 皮質骨(Boneと表記)の信号減衰

皮質骨を画像化する方法としては、FRACTUREの他に、Zero-TEやUltra short-TE(UTE)もあります。これらはTEが1msec以下で撮像できるため、皮質骨の信号が減衰する前に直接エコーを取得できます。しかしZTE、UTEはどの施設でも使用できるわけではなく、当院でも撮像できません。
FRACTUREはmulti-echo-GREが基本となりますので、当院では、こちらを使用したBone like imageを撮像してみました。

図3. ZTEやUTEによるBone like image
(画像は聖麗メモリアル病院 石森様より)

臨床応用と当院での活用法

FRACTUREは様々な部位で撮像できます。基本はGREシーケンスなので、GREで低信号に描出された組織が、FRACTUREで白黒反転されて高信号となります。中でも腱や靭帯の描出が良好で、手関節の伸筋腱・屈筋腱の撮像ではとても視認性の良いVR画像を作成できます。脳血管や頚動脈、肩の腱の石灰化描出などの試みもされています。被ばくの心配がないので、妊娠中の検査や小児の腰椎分離症のフォローアップにも活用できます。

また、MRIの組織コントラストの良さとBone like imageを組み合わせれば、手術支援画像も作成できます。従来ではMRI画像とCTの骨画像をFusionする方法が主流だったかと思いますが、MRIでBone like imageが撮像できれば、位置ずれなくFusion可能です。1回の検査でデータ取得が完結するため、患者負担や画像作成の面からも有用です。MRAと組み合わせれば、造影剤が使用できない方や腎機能が低下している方への術前VR画像やIVR支援画像も作成できます。
当院では、頚椎術前用に椎骨動脈と頚椎のVR画像が欲しいと医師からの要望があったため、VR作成することを目的に撮像条件を検討しました。

図4. FRACTUREとTOFによるVR画像

VR作成を目的としたin phase + opposed phase同時収集

基本的にFRACTUREはin phase画像を複数重ね合わせています。この目的の一つは、皮質骨と海綿骨のコントラストを良好に保つことです。しかしVR画像を作成するという観点からは、コントラストよりも両者の信号値が高い方が有利となります。
そこで、in phaseだけでなくopposed phase (out of phase)も同時に収集して全て加算するという方法を取りました。これにより、皮質骨と海綿骨全体の信号値が上昇し、VR作成がしやすくなります。

当院のMRI装置は1.5 Tであるため、First echoを4.6 msec、Echo spaceを2.3 msecに設定しました。加算するエコー数を増やせばSNRも向上しますが、TEが長くなるにつれて信号値も徐々に低下するため、撮像時間との兼ね合いも含めて調整するのが良いかと思います。FRACTUREの撮像では、1.5Tの場合in phaseのみでの撮像でも3〜4 echoesとすることが多いため、in phase + opposed phaseでは収集するエコー数は5としました。さらに、MR装置側かWS側でsmoothingの後処理を追加すると、適度にノイズが減って作成がしやすくなります。

図5. in phase加算によるVR(上段)と、in + opposed phase加算によるVR画像(下段)

後処理とワークステーション(WS)側での工夫

頚椎の場合はカッティング機能だけでも比較的短時間でVR処理が可能です。ただし、CT画像とは信号値が異なるため、CT用のテンプレートを流用してもうまくカラー表示できません。FRACTURE用に閾値設定や色調処理などを調整してテンプレート保存した方が良いでしょう。

その他の注意点としては、ウインドウ調整による白黒反転ではなく、信号値そのものをマイナスに反転してWSで処理することです。MRI装置側で重みづけ減算を行うことで、WS側でも信号値が反転されます。Philips装置でしたら、Cumulation画像をimage algebraでA−Bの処理(Bは×2)となります。
この作業が不要なWSもあるかもしれませんが、当院で使用しているVINCENTではこの一工夫が必要でした。WSでVR表示がうまくいかない場合はお試しください。

その他のパラメータ調整

面内分解能や皮質骨と海綿骨のコントラストが重要視される場合は、オリジナルの手法であるin phaseのみの画像加算が有効です。その場合、WFSを小さくしたりFlybackをYesにするなど、ケミカルシフトの影響を小さくすることで画像加算時のボケが抑えられます。また、MPR作成をするのであればiso voxelに設定することも多いと思います。

しかしVR作成が目的の場合は、これらの調整が必須とは限りません。当院ではWFS; 0.3、Flyback; No、Voxel; 1 mm×1 mm×2 mm (gap; -1)で撮像しています。OPLLの描出を向上させるにはFAは小さい方が有利ですが、VRにするとCSFの信号はそれほど目立たなくなるので、FAは10°で撮像しています。TRはshortestにすれば撮像時間も短くなりますが、筋肉と脂肪の信号をフラットにするためTR 30 msecとしています。撮像時間は枚数にもよりますがCoronal収集で3分半〜4分程度です。

当院では上記のような設定ですが、この辺りのパラメータは撮像時間やSNRなどのバランスを見ながら、施設ごとに調整をして良い部分かと思います。

おわりに

今回、FRACTUREを用いた頚椎術前VR画像について書かせて頂きました。CTの画像でVR作成するのとは少し勝手が違いますが、in phaseとopposed phaseを同時に撮像して加算するだけでVRの作成しやすさが随分変わります。
当院でもまだ始まったばかりの撮像であり、年齢や疾患、体格などでも描出能は多少変わるため、今後撮像条件の変更があるかもしれません。他部位へ適応するには再検討が必要かと思いますが、こちらの記事が少しでも皆様のお役に立ちますと幸いです。

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Tobita Mariko

投稿者プロフィール

脳外科専門病院での勤務経験から、臨床では頭部領域が一番好きになりました。MRIは勉強すればするほど奥が深く、面白さが増すと同時にエキスパートへの道のりは長いなあとも感じます。臨床的にわからないことは原理的アプローチで少しでも解決に近づけるよう、先輩方に教えを請いながら、毎日頑張っています。

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