はじめに
体格の良い患者さんの体幹部のMRI検査では、受信コイルの感度が体の深部まで到達せず、画像の中央部分の粒状性が悪化することがあります。そのため、シーケンスのパラメータを調整し、SNRを改善させる必要があります。しかし、SNRと撮像時間はトレードオフの関係にあるため、検査時間を圧迫しすぎないよう、パラメータの調整は慎重に行わなければなりません。最近では深層学習を利用した再構成でSNRを改善させる方法も実装されつつありますが、このような最新のアプリケーションを導入している施設はまだ多くないと思います。
コイルを「縦向きに」2つ配置する
この課題に対処するために、受信コイルを「縦向きに」2つ配置することが有用です(図1)。体幹部用の受信コイルは長手方向を静磁場に対して垂直に配置することが一般的ですが、Siemens社製のMRIでは「Tim(Total imaging matrix)」と呼ばれる受信コイルを比較的自由に配置できるシステムが構築されているため、コイルの長手方向を静磁場に平行(縦向き)に配置することも可能で、さらに縦向きに2枚配置することもできます。
以前行ったファントム実験の結果を以下に提示します。MRI装置はMAGNETOM Skyra 3.0T、受信コイルには18ch Body Array Coilと32ch Spine Coilを使用しました。体格の良い患者さんを模擬するため、メンテナンス用のBody Loader L500という比較的大きなファントムの上に18ch Body Array Coilを載せ、このファントムの中に自作水ファントムを配置し、水ファントムのSNRマップを差分マップ法で作成しました。コイルの配置方法は(a)コイルの長手方向を静磁場に対して垂直(横1枚)、(b)(a)を2枚(横2枚)、(c)提案するコイルの長手方向を静磁場に平行2枚配置(縦2枚)です(図2)。MRCPを想定し、シーケンスはSPACEを使用しました。シーケンスの詳細を表1に示します。
結果
図3に各コイル配置方法で撮像した画像の中央スライスのSNRマップを示します。提案法である(c)は他の2つの手法と比較してSNRが高い(赤い)領域が多いことがわかります。受信コイルを縦向きに2つ配置したことで左右方向の感度を改善させ、さらに使用するコイルエレメント数が増加することでパラレルイメージングのg-factorが低減したことが推測されます。そのためSNRが上昇したと考えられます。
まとめ
息止め検査のような撮像時間を延長することが困難な場合に、この手法は非常に有用だと考えています。体格の良い患者さんの体幹部の検査のみならず、巨大な卵巣腫瘍の検査でも効果を発揮します。2点だけ注意点を挙げると、受信コイルの固定が難しい点、前後左右から患者さんをコイルで挟むことになるため、通常のコイル配置よりも窮屈になってしまう点です。注意点を踏まえて、もし適応できそうな検査の場合はコイルを2枚縦に配置してみてください。
最後に今回の記事を執筆するにあたり実験データを共有していただきました岡山済生会総合病院の吉村祐樹さんと大西英治さんに深くお礼を申し上げます。
ライター紹介
川崎医療福祉大学の杉本昂平です。母校の教員になり、臨床から離れて教育と研究に奮闘しております。
RADっていいとも 素敵な仲間とのペンリレー (39)
杉本昂平 https://mrifan.net/radiitomo/14330
コメント
トラックバックは利用できません。
コメント (0)
この記事へのコメントはありません。