止血deviceも含めて、心臓カテーテル後のMRIの安全性について考えてみましょう。

はじめに

冠動脈ステント留置直後にMRIを安全に施行可能かということは、患者や医療従事者にとって重要な事項であり、しばしば議論になります。冠動脈ステント留置後のMRIに禁忌期間があるか文献的に検索してみました。

  • ステント留置後8週未満におけるMRIの安全性:
    • 複数の研究から、ステント植え込み後8週間以内にMRIを施行しても、MRIの磁場強度(1.5テスラまたは3.0テスラ)やステントの種類(ベアメタルステント(BMS)または薬剤溶出ステント(DES))にかかわらず、心イベントのリスクは増加しないことが示されています。1 2 5 6.
    • この期間内にMRIを実施しても、ステント血栓症、心筋梗塞、その他の心臓有害事象の発生率が増加しないことが示されています。2 3 4 7.
  • 超早期MRI(ステント留置後1~3日):
    • ステント留置後1~3日という早い時期にMRIを実施しても、急性血栓症の記録例はなく、追跡調査時の有害事象も最小限であり、安全であることが示されています。3 5.
  • 非MRI群との比較:
    • ステント留置直後にMRIを受けた患者と受けなかった患者を比較した研究では、ステントに関連した合併症の発生率に有意差はみられず、MRIが新たなリスクをもたらすものではないことが示唆されました。4 7.
  • 長期フォローアップ:
    • 長期追跡調査により、ステント植え込み後早期にMRIを実施しても、長期間にわたってステント血栓症や再狭窄を含む主要な有害心イベントのリスクが増加することはないことが示されています。6 7.

冠動脈ステントのみに着目しがちですが…

冠動脈ステント留置後8週間以内であっても、有害心イベントのリスクを増加させることなくMRIを安全に施行できることが示唆されます。これには非常に早期のMRI(植込み後1~3日)も含まれます。(2000年ごろは冠動脈ステント留置後 8週間MRI検査を控えるように添付文書の記載がありましたが、2016年の調査で、すべての冠動脈ステントからこの記載はなくなっています)。

ですが,止血deviceに注意してください!

心臓カテーテルの多くの割合を橈骨動脈アプローチとしている施設が多いです。8 9 10 11.
そのため、止血用デバイス「TRバンド」をお使いの施設が多いようです。

止血用デバイス「TRバンド」は、血管造影、その他の診断及び処置終了時に橈骨動脈部のカテーテル挿入部位を圧迫止血するために用いる器具です。

本品の逆止弁付き空気注入口の内部には金属(上図の黄色部、金属製スプリング)が含まれておりますが、本品については試験による MR安全性評価を実施していないため、本品を装着した状態でMR検査を実施しないようご注意ください。
一般的名称:止血用押圧器具 販売名:TRバンド 医療機器届出番号:13B1X00101000001

との注意がテルモ株式会社より出ています。

我々医療従事者は、すべての添付文書を両立する必要があります。
止血deviceにも注意しつつ、安全なMRIの提供を心がけましょう。

また、冠動脈ステントの添付文書が許可した範疇でのSARコントロールを遵守しましょう。

1 Schenk, C., Gebker, R., Berger, A., Pieske, B., Stehning, C., & Kelle, S. (2020). Review of safety reports of cardiac MR-imaging in patients with recently implanted coronary artery stents at various field strengths. Expert Review of Medical Devices, 18, 83 – 90. https://doi.org/10.1080/17434440.2021.1860017.

2 Gerber, T., Fasseas, P., Lennon, R., Valeti, V., Wood, C., Breen, J., & Berger, P. (2003). Clinical safety of magnetic resonance imaging early after coronary artery stent placement.. Journal of the American College of Cardiology, 42 7, 1295-8 . https://doi.org/10.1016/S0735-1097(03)00993-8.

3 Porto, I., Selvanayagam, J., Ashar, V., Neubauer, S., & Banning, A. (2005). Safety of magnetic resonance imaging one to three days after bare metal and drug-eluting stent implantation.. The American journal of cardiology, 96 3, 366-8 . https://doi.org/10.1016/J.AMJCARD.2005.03.077.

4 Kramer, C., Rogers, W., & Pakstis, D. (2000). Absence of adverse outcomes after magnetic resonance imaging early after stent placement for acute myocardial infarction: a preliminary study. Journal of cardiovascular magnetic resonance : official journal of the Society for Cardiovascular Magnetic Resonance, 2 4, 257-61 . https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11545124/.

5 Sinitsyn, V., Stukalova, O., Kupriianova, O., & Ternovoi, S. (2007). [Safety of magnetic resonance imaging after coronary stenting].. Kardiologiia, 47 6, 94-6 .https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18260886/

6 Kaya, M., Okyay, K., Yazıcı, H., Şen, N., Tavil, Y., Turkoglu, S., Timurkaynak, T., Ozdemir, M., Cemri, M., Yalçın, R., & Çengel, A. (2009). Long-term clinical effects of magnetic resonance imaging in patients with coronary artery stent implantation. Coronary Artery Disease, 20, 138-142. https://doi.org/10.1097/MCA.0b013e328322cd48.

7 Schroeder, A., Houlind, K., Pedersen, E., Thuesen, L., Nielsen, T., & Egeblad, H. (2000). Magnetic resonance imaging seems safe in patients with intracoronary stents.. Journal of cardiovascular magnetic resonance : official journal of the Society for Cardiovascular Magnetic Resonance, 2 1, 43-9 . https://doi.org/10.3109/10976640009148672.

8 Mintz, A., & Levy, M. (2016). Radial Artery Catheterization. Catheterization and Cardiovascular Interventions, 88. https://doi.org/10.1002/ccd.26877.

9 Kotowycz, M., & Džavík, V. (2012). Radial Artery Patency After Transradial Catheterization. Circulation: Cardiovascular Interventions, 5, 127–133. https://doi.org/10.1161/CIRCINTERVENTIONS.111.965871.

10 Rigattieri, S., Sciahbasi, A., Brilakis, E., Burzotta, F., Rathore, S., Pugliese, F., Ziakas, A., Zhou, Y., Guzmán, L., & Anderson, R. (2015). TCT-429 Radial versus Femoral Approach for Coronary Angiography and Intervention in Patients with CABG: Systematic Review and Meta-analysis. Journal of the American College of Cardiology, 66. https://doi.org/10.1016/J.JACC.2015.08.444.

11 Prakash, B., Mukhopadhyay, S., Singodia, P., & Shah, M. (2021). Radial Artery Pseudoaneurysm Following Cardiac Catheterization: A Case Report. Cureus, 13. https://doi.org/10.7759/cureus.19284.

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oct山形県立新庄病院 放射線部 診療放射線主査

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  1. 2019-1-12

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