MRIのクエンチが「爆発」と報道される

NHKでこんなニュースが流れています。

「横浜の医療施設で爆発か 作業員1人けが NHKニュース」

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150415/k10010049561000.html

スクリーンショット 2015-04-15 23.53.22

これはどう考えても、緊急停止ボタンを押したので、(設計通り)クエンチしたのですね。作業員が、腰のベルトをMRIにくっつかせてしまい、その上「緊急停止」ボタンを押してしまったようです。

爆発的にヘリウムが蒸発してクエンチ管から排出されるので、ドーンと音がします。白煙も煙突から爆発的にでますから、「爆発」と思ったのでしょう。しかしNHKさんも知らないで報道したようで、そのこと自体もびっくりしました。

以下は、クエンチを発生させた時の様子(YouTube)

しかし、液体ヘリウム1Lあたり今いくらだろう(注:密度が気体の700倍高い「液体」です)。1500円/Lとして、1000L失ったら150万円です。今はもっと高いかもしれません。再充填費用も含め、500万円ぐらいかかるかもしれません。それに、今はヘリウムが希少なので、納入までに長い時間がかかりますから、この病院ではしばらく撮影ができません。知らないとはいえ、とんでもないことをしてくれたものですね。「緊急停止ボタン」を素人が押すというのは、想定されていませんよね。

[用語解説] クエンチ

MRIを冷却している液体ヘリウムが何らかの原因で突然気化してしまうこと。ヘリウムはコンプレッサーにより常に加圧して液化しているが、何らかの原因で圧力が下がると、爆発的な気化が発生する。気化したヘリウムは、あらかじめ配管されている煙突(クエンチ管)から外部に排出される。このときドーンという大きな音がして、白煙が生じる(空気が冷却されて氷の粒ができる)ので、爆発と勘違いされることもある。MRI室内にもヘリウムが逆流し、真っ白になることもある。もしクエンチ管が詰まっていて、ヘリウムがMRI室内に逆流し充満すると酸欠を来たし危険なので、MR操作室には、撮影室の酸素モニタ(%表示)が設置されている。

超電導MRIは、「超電導磁石」によりきわめて強い磁場を発生している。電磁石には大電流を流す必要があるが、流し続けると途方も無い電力を必要とするので、液体ヘリウムで冷やして、超電導状態とすることで、外部からの電流供給なしにずっと強い磁場を発生することができる。このため24時間強い磁場が発生している。よくある勘違いとしては、例えば清掃作業員などが「MR装置はおやすみ」であると勘違いして掃除機を持込み、MRI装置に激しく吸引されて取れなくなる事故や、誤って酸素ボンベが持ち込まれる事故などを起こすことがある。

もし何らかの事故で、鉄製の椅子や消化器などが、MRI本体に吸着してしまった場合には、MRI装置から引き離すことができなくなる。このためやむなく液体ヘリウム気化させることにより超電導状態を解消し(磁場を落とす)、金属を引き剥がさざるを得なくなることもある。緊急の場合には「緊急停止ボタン」を押すことによりこれが実行される。ヘリウムは極めて高価で、かつ大量に使用しているので、一度MRI装置にクエンチを発生させると、何百万円もの損失がでる。また病院は(現在ヘリウムが入手しにくいので)暫くの間、撮影ができなくなる。このため、緊急停止ボタンは、責任のある者が行わなくてはならない。

[参考] 以前発生した、福島のMRI爆発事故 = クエンチ管がつまって発生した

福島いわき市でおきたMRI爆発事故について

実際のMR装置の内部構造

MRI爆発事故続報

当時の新聞切り抜きを、国際医療福祉大学の金場 敏憲(こんば としのり)教授からいただきました。貴重な資料をありがとうございました。
なおこのときは、クエンチ管が詰まってしまうという問題を生じていたところにヘリウムが気化したので、MRI自体がまさに「爆発」を起こした事故でした。

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tarorin

tarorin東海大学工学部 医用生体工学科 教授

投稿者プロフィール

MRIの撮像・フィルム焼き・患者導入に従事していた経験を活かし、企・技・医の中間の立ち位置を大切にしています。モットーは研究結果を中立的に判断すること、皆で研究成果を愉しむことです。

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