頭部MRAのちょっとした工夫(2)

頭部血管MRA 第2部

引き続き東海大学医学部付属病院 放射線技術科 高野晋です。
第2部では、脳神経外科の先生達に予想以上に喜ばれた撮像を紹介します。

脳動脈瘤コイル塞栓術後の経過観察

ご存知の方も多いかと思いますが、俳優兼ミュージシャンの星野源さんは、若くしてクモ膜下出血になり破裂脳動脈瘤をコイル塞栓されました。今ではすっかり元気ですが、そんな星野さんも定期的に頭部MRAを撮像しているはずです。なぜ、コイル塞栓術後の経過観察が必要なのでしょう。

それは、コイルを充填した脳動脈瘤のネック部分の血流残存を確認するためです。今回は、この経過観察に特化したTOF MRAについてお話しします(『コイルシーケンス』と呼ばせていただきます)。

SILENT MRAがなくても大丈夫!

TOF MRAのTEは、Out-phaseに設定している施設が多いのではないでしょうか。つまり、1.5TならばTE : 6.9ms、 3.0TならばTE : 3.45msです。Out-phaseは、眼窩等の脂肪部分が含有している水と打ち消しあい、低信号になるため、MIPで観察する場合も脂肪が邪魔になりません。

しかし、コイルや頭蓋内ステントの磁化率アーチファクトを抑えるためなら、TEは短いに越したことはありません。その究極がSILENT MRA(GE社製)を代表とする3D radial samplingによるUTEです。SILENT MRAによるコイル塞栓術経過観察の有用性は多く報告があります。しかし、SILENT MRAは専用機が必要であり、汎用機で利用することができません。

さらに、血流信号描出のためのプリパレーションパルスとしてASLを使用しており、撮像に約10分程度時間がかかります。今回紹介するコイルシーケンスは、 汎用機で撮像可能であり、追加撮像として範囲を絞ることで2分程度で検査できます。

コイルシーケンス

当院で使用しているコイルシーケンスの撮影条件はこちらです(Fig.1)。

Fig.1 コイルシーケンス 撮影条件

TEを短くするため、以下の3つの手順を行なっています。

① TEを最短の設定にする。
② FOVを100mmに小さくし、面内分解能を通常のTOF MRAと同等にする。(位相方向のオーバーサンプリングを忘れずに)
③ Flow compensation(FC)をオフにする

FCは血流の位相を揃え高信号にするため、通常のTOF MRAには重要なパラメーターです。しかし、FCは読み取り傾斜磁場(Gx)が延長するため、 TEが長くなってしまいます。

もともとTEを短くし位相分散を抑えているこのシーケンスは、FCの恩恵は少なくなり、TEが延長するデメリットの方が大きいので、オフにします。

コイルシーケンスの実力

コイルシーケンスを用いた臨床例を示します。

Fig.2は、 coil compactionによりIC-PCのコイル内流入が認められ、再塞栓術をした症例です。

Fig.2 コイルシーケンスを用いた臨床例

コイルの隙間を縫って血液流入している様子が観察できます。

Fig.3は、クリップが隣接している別のA-com動脈瘤にコイル塞栓術をした症例です。

Fig.3 コイルシーケンスを用いた臨床例(2)

クリップの磁化率アーチファクトが大きく、通常のTOF MRAでは評価困難ですが、コイルシーケンスでは信号欠損することなくコイル部分の血管を描出できています。

この症例は、脳神経外科の先生が「患者さんを間違えたかと思った」と驚いていました。Fig.4は、頭蓋内ステント(「Enterprise Ⅱ」コッドマン社製)を併用した内頸動脈C3領域の塞栓術です。

Fig.4 コイルシーケンスを用いた臨床例(3)

通常のTOF MRAでは信号欠損してしまうステント部分もコイルシーケンスではネックの残存流入も観察できます。最近ではステントアシスト下での塞栓術も増えましたが、ステント内腔評価にもコイルシーケンスは対応できます。

血腫にはサブトラを!

コイル塞栓術後に入院した患者さんの中には、予後があまり良くない方もいます。そのような患者さんは血腫がひかないことが多いため、TOF MRAのT1Wコントラストで血腫が高信号になり邪魔!という事態に多々遭遇します。

この場合は、『コイルシーケンス』に『血管を抜いたコイルシーケンス』をサブトラするという方法が非常に有効です。血管を抜くといっても、たいしたことはしていません。

スラブの尾側にもSaturation pulseを設定し、流入する動脈血を飽和させるだけです(Fig.5)。

Fig.5 サブトラ コイルシーケンス

こちらはBasilar topの動脈瘤に対しコイル塞栓術を行った症例です。BA−左SCAに頭蓋内ステント(「LVIS Jr」テルモ社製)が入っています。

コイルシーケンスのみでは、血腫が邪魔してコイル-ステント部の評価が困難だったため、血管を抜いたコイルシーケンスをサブトラしました(Fig.6)。

Fig.6 サブトラ コイルシーケンスを用いた臨床例(1)

サブトラ用に追加したため撮像時間は2分延長しましたが、血腫に邪魔されることなくステント部分とコイルのネック部分(coil compactionしている)が診断できました(Fig.7)。

Fig.7 サブトラ コイルシーケンスを用いた臨床例(2)

バンド幅は、こだわらないの?

バンド幅を広くすると磁化率アーチファクトが減ります。しかし、TEに比べてその効果は小さく、逆にSNRの低下が目立ちます。ゆえに、コイルシーケンスにおいてバンド幅はあまりこだわらなくても大丈夫です。

最後に

MRAの魅力は、非侵襲かつ非造影で撮影できることです。「このMRAがあれば、この人は血管造影でフォローする必要は無くなった。素晴らしい事だよ。」これは、コイルシーケンスを磨いている段階で、ある患者さんを撮影した時に脳神経外科の先生が言ってくれた言葉です。非常に嬉しかった記憶があります。

普段何気無く撮影している検査も、ちょっと工夫すれば、臨床的価値がぐっと上がる場合があるんだなと学べた瞬間でした。
今回の記事が、皆様の参考になり、少しでも役立てば幸いです。

ライター紹介

東海大学医学部付属病院 高野 晋(タカノ ススム)
技師歴10年目 MRI歴4年目。良き上司・先輩・後輩に囲まれながら、MRIと楽しく過ごしています。
難解なことが沢山ありますが、たまにアハ体験することがあり、その瞬間は快感です.趣味はけん玉です。
けん玉は、日本が誇る伝統的な玩具ですが、いまや世界中にプレーヤーがおり、海外ブランドやプロチームも存在します。
様々な技の組み合わせで、新しい技が開発できるところが、 MRIのシーケンスに似ていると思っています。

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