はじめに
私のお話は、2020年12月に行われた“Signa甲子園2020 on the web”で発表した「汎用型Breath-hold 3D MRCP」の内容です。
MRCP検査の際、皆さんはどのような事を考えていますか?
GE-MRIでは、一般的に呼吸同期併用3D FRFSEを用いて3D MRCP撮像を行います。
私は今回の演題を考える際に、
①アーチファクトが出た場合、それはなぜ現れたのか?
②そのアーチファクトを解消するためにはどうしたらいいのか?
ということを考えました。
疑問点からヒントを探す
Fig. 1 3D MRCP cases with poor respiratory synchronization.
Fig. 1の左に示す症例は、見ただけで「はぁー、呼吸同期不良だな…」とガックリします。
一方、右の症例は、胆管と膵頭部はブレなく撮像を出来ています。しかし、膵体部-尾部はブレを生じています。この症例は部分的にブレが生じており、呼吸同期不良だけの問題でしょうか?
Fig. 2 2D Fiesta cine imaging of the abdominal cavity.
Fig. 2に、安静時自然呼吸下におけるvolunteerの腹腔内cine imagingを示します。
この動画では、呼吸と別ベクトル・別タイミングで周囲の消化管が蠕動運動しています。
安静時自然呼吸下という条件は、人間の体の中で副交感神経が亢進され、消化管蠕動は活発になります。Fig. 1の右の症例では、膵体部から膵尾部にかけて胃が近接しており、呼吸同期撮像中に胃の蠕動運動が原因で、部分的なブレを生じたと考えました。
そこで、これらのヒントを踏まえ、Artifact解消に取り組みました。
呼吸同期検査をする際、Hyper SENSE等の圧縮センシング技術を用いると高速化が可能です。しかし、使用しているMRI systemのversionが低い場合は、このような高速撮像techniqueを使用できません。頭を抱えるポイントです。
Fig. 3 MRCP imaging with breath-holding 3D FRFSE.
そこで今回、私がSigna甲子園にエントリーした汎用型Breath-hold 3D MRCPをFig. 3に示します。
左の画像は比較的新しい装置である1.5Tesla MRI Signa Explorer SV25.3で撮像した画像で、右の2つの画像は古い装置の1.5Tesla MRI Signa HDxt Version16で撮像した画像です。
この演題のミソは、Version(新旧)に関係なく良好な画像が撮像出来るということです。
創意工夫① Breath-holdを深く考える
“Breath hold:息止め”は、MRCPにとって大きなメリットをもたらします。
targetとなる胆道系や膵管は、常に蠕動している胃や十二指腸に挟まれています。そのため撮像時間が長くなると、蠕動運動の影響で、胆道系や膵管の描出はpoorとなります。Breath-hold撮像は短時間であるため、蠕動運動の影響は受けません。さらに、安静時自然呼吸下での呼吸同期撮像と相反して、息止め(息ごらえ)は、バルサルバ効果の影響で交感神経が刺激され、消化管蠕動は抑制されます。
創意工夫② 使うsequenceはいつものMRCP
過去のSigna甲子園演題には、Cubeを用いたMRCPなど秀逸な演題が多数、報告されています。
今回は呼吸同期併用3D FRFSEと同様のコントラストを用いたいため、呼吸同期併用3D FRFSEの撮像条件を基に撮像条件をアレンジしました。撮像条件をtable.1に示します。
創意工夫③ ポイントは4つ
本手法のポイントは4つです。
1つ目は、Respiratory gatingの✔(チェックマーク)を外します。これは当然ですね。
2つ目は、ETLの設定です。ETL設定は総撮像時間に関係します。そのため、ETL値はどのくらいが妥当か検討しました。Volunteer studyの結果をFig. 4に示します。
Fig. 4 Comparison of setting ETL values at breath-holding 3D FRFSE.
ETLを上げると、1shotの時間は伸びますが、撮像時間は短くなります。しかしながら、上げすぎるとTEが延長し、SNRは低下します。Fig. 4より、ETLを150と設定します。
3つ目は、parallel imaging(PI)の設定です。GE-MRIではARC、ASSET、Hyper SENSEがあります。
Fig. 5 Comparison of setting Parallel Imaging at breath-holding 3D FRFSE.
Fig. 5より、PIの種類は画質へ大幅な影響はありません。そのため、PIは何でもOKです!!時間短縮のためにfactor設定はMaxです。
本手法は低いversionの装置でも3D MRCPが撮れ、ASSETを用いることができれば撮像可能です!!
4つ目は、FOVでSNRを調整します。PIをASSETに設定している場合はリップアーチファクト回避のためにFOVは36~38cmとします。
臨床症例
1例、衝撃的だった症例をFig. 6に提示します。
Fig. 6 Comparison of each technique at 3D MRCP imaging.
左下のFRFSE w/ respiratory gatingは、呼吸同期不良及び消化管蠕動の影響を受け、全体の描出はpoor です。また、右上のT2-Cube w/ breath holdは、Cube特有のblurやslice厚が厚いことによるpartial volume効果の影響を受け、膵頭部の描出はイマイチです。
しかし、本手法にて撮像した左上のFRFSE w/ breath holdは、胆道系はもちろんのこと膵頭部~膵尾部の膵管までsharpに描出できています。それに加え、副膵管主体の膵管解剖により十二指腸開口部に2本のductが明瞭に見えます。これはERCPの際、とても重要な情報となりました。本手法は、当院の消化器内科医から好評でした。
おわりに
膵臓病変はsilent killerと呼ばれ、早期発見は患者の予後に関係します。
呼吸同期併用3DMRCPにて、胆道系がブレなく撮れていても膵管描出がpoorな場合、再度呼吸同期で撮像しても膵管描出はpoorになる確率は高いです。
MRCPは呼吸による上下運動以外に、消化管蠕動の別ベクトル・別タイミングの動きが影響していることに留意し、息止めMRCPの引き出しを用意しておくことをお勧めします。
ライター紹介
皆さん、こんにちは。
東海大学医学部付属大磯病院の大塚勇平(おおつか ゆうへい)と申します。
MRI検査に従事して10年のまだまだ若手(?)のGE-MRIユーザーです。
ぜひ、名前と顔だけでも覚えてください。
GE MR Userの祭典”Signa甲子園”に魅了され、我々は3年連続の出場を果たし、本選出場と上位入賞を貪欲に目指す、言わば「賞レース技師」です。笑
現地開催の会は少ないかと思いますが、研究会や学会などで見かけた際は、気軽にお声かけ下さい!
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