MRCPの画質改善 〜 Cine サブトラクションを用いた臓器の動き解析の効果〜

呼吸同期撮影のブレで困った・・・

胆管胆道系が高分解能で撮影できる「呼吸同期3D-MRCP」や「マルチスライス法(MS)で撮影するT2WI」などは撮影時間が長いため、呼吸同期不良でボケ画像になった時のショックは大きいものです。横隔膜呼吸同期Navigator Echo(以下NVと略します)を使っているのにうまくいかないなーと思っていませんか?

そこでCineを利用して失敗を減らせないか?と考えた方法をご紹介させて頂きます。

NVでは横隔膜にROIを設定し、リアルタイムにモニターする手法で呼吸同期法に用います(Fig.1)。
pencil beamによる励起パルスで横隔膜と肺野の軌跡をモニターし、縦軸は横隔膜の高さ、横軸は時間を表示しています(Fig.2)。

注目するのはNavigator Echoのリファレンス画面

NVモニターを拡大しました(Fig.3)。

NVリファレンスとは本Scan前150msごとに15s間、横隔膜の動きをプロットしたものです。

メーカーによる若干の違いはありますが、学習したリファレンスをもとに、横隔膜頂上から設定した数値内に横隔膜が入れば、データ収集開始のtriggerがかかります(trigger point)。

フィリップスの場合、本Scan中に赤いpointが青いライン(この場合、横隔膜頂上から5mm下に設定)を越えるとデータ収集が開始されます。

このNVリファレンスからは、 ①呼吸回数(ピークの数)と、 ②最大呼気でのプラトー時間(臓器が動いていない時間) の2つを観察できます。

「動きのない時相」を把握しにくい・・・・

NVリファレンスから患者さんの呼吸状態を観察できるものの、「動きのない時相」を把握しにくい!

そこでおすすめしたいのがCine撮影です。 検査の位置決め画像に30sだけ追加すると、呼吸状態を定量することができます。

自由呼吸で横隔膜のT1WI cine coronal(Fig.4)を1phase 200ms、撮影時間30sとなるようDynamicを行います(Fig.5)。

簡単な後処理で動きを強調

このDynamic全ての画像を最大呼気の1画像でサブトラクションをすると、臓器の動きを強調したCine(Cineサブ)を作成できます(Fig.6)。

Cineサブを観察すると、吸気と呼気で臓器の位置がかなりずれていることがわかります。

1phaseが200msですから、【横隔膜や臓器が動かないPhase番号】 ✕ 200msで、臓器の動きの影響が少ない、いわばプラトーに達した時相をCineサブから視覚的に計測することができます。

Cineサブを定量して動きを抑える!

さらにCineサブを定量的に解析し、条件を変更すれば動きを抑制できます。

NVのROIでは、最大呼気から設定した高さに横隔膜が到達することでデータ収集が開始します。

そこでFig.7、Fig.8のように、最大呼気からtrigger pointに設定している横隔膜の高さにROIを設定しDynamic curveを作成します。

このROI内に呼気で肝臓上縁が入れば信号が上昇し、吸気で下がれば信号が低下するDynamic curveになります(Fig.9)。30sで6ピークありますので1cycleが5sの呼吸とわかります。 次にDynamic curveから平均的なcurveを選択します。例えばFig.10では吸気(上り坂)は5ポイント、プラトーなポイントは5ポイント、呼気(下り坂)は6ポイントぶんの時間がかかっている事がわかります。このため、動きの影響が少ない時相(プラトーの継続時間)は5ポイント✕200ms=1sと定量できます。

ベローズ波形ではわかりにくいことが、Dynamic Curve作成で分かる。

ここによく似た2つのベローズ波形があります(Fig.11)。この2つを比べても、プラトーの継続時間はわかりませんし、とても似ていて視覚的にも区別がつきません。

しかしCineを撮像してDynamic Curveを作成しますと、aとbの患者さんの呼吸で、呼吸周期は4s程度と同じなのに、プラトー(青矢印)の継続時間に違いがあることに気づきます(Fig.12)。

aの場合プラトーの継続時間は3ポイント✕200ms=600ms、bは8ポイントありますので1600ms程度と計算できます。

NVを使うMS(Multi-slice)モード T2WIの場合、呼吸1cycleのデータ収集をaは600ms、bは1600msとなるようにsliceのpackageを調整して撮像すれば呼吸の動きが抑制できます。

また当院の上腹部DWIは自由呼吸で撮影していますが、横隔膜の動きが大きくプラトーが短い患者さんでは病変の輪郭がボケることがあります。この場合は呼吸同期DWIを追加しています。

Fig.13の患者さんは臓器の上下移動が3cm程度と大きく、呼吸1cycleが3sとやや短いため自由呼吸で病変の輪郭がボケています。動きに強いDWIですがデータ収集をプラトーな時間に設定することで輪郭のボケない画像を撮影することができます。

もっと正確にタイミングを合わせる!

呼気がゆっくりな患者さん(Fig.14)で3D MRCPがよくボケないでしょうか? 原因はNVのtrigger pointでデータ収集が始まったとしても、まだ呼気中で臓器が停止していないからです。フィリップス装置では、trigger pointからdelay timeを設定する機能があります(trigger delay)。この機能を設定することで動きをさらに抑制することが可能です。

CineサブのDynamic Curve(Fig.14右)から動きが抑制できるプラトーまで6ポイントあり、データ収集のdelay timeを1.2sにするとボケがない良好なMRCPが撮影できます(Fig.15)。 最後に、わずか30sの撮影から動きを強調させたCineサブを作り、簡単な後処理をすることでDynamic Curveを作成、そして臓器の動き、横隔膜のプラトー時間、データ収集のタイミングを解析する方法をご紹介しました。これにより呼吸同期を用いた撮影の失敗を減らすことができると思います。 呼吸同期に悩んでいる方、是非試してみてください。

ライター紹介

山口県済生会山口総合病院 品川 卓範(シナガワ タカノリ) です。 かれこれ20年MRIをやっています。コツコツためた知識でパラメータをカチカチいじることに日々幸せを感じています。 これからもまだまだ奥深いMRIで試行錯誤を繰り返しながら、診断の一助となる様な画像を作りつつ、充実したMRI Lifeを楽しみたいと思います。

Chief editor’s comments

Cine Subtraction

Cine Subtractionを用いて、動きのない時相を視覚的に把握し、MRCPなどの呼吸同期撮影に役立てるという、短時間で効果のある方法を使用しています。私の経験でも、MRCPがブレてしまうと、検査残り時間がタイトになり困りますので、使う頻度が高く、有用な工夫だと思います。手前味噌になりますが、イレウスの画像診断においてもCine Subtractionは重要です。品川さんの応用も含め、いろいろな臨床応用ができると思いますので、みなさん工夫してみてください。(動画は頭出しをしてあります=8m07s)

 

元原稿(http://teleradiology.jp/MRI/07_info/CineMRIandLowbDWIforSBO.html

なお品川さんの例では、呼気が1phase目になる特殊な場合以外は大丈夫なはずですが、イレウスの動画撮影の場合は、1枚目はいわゆるカミナリエフェクト(1枚めが高信号になってしまう、2枚目以降はsaturationの影響を受ける)のため、マスク像にするphase番号は、2枚目以降が望ましいです。(動画では、1phase目を引くと説明していますが、説明を簡単にするためで、実際には2枚目をphase1として解説を行っています)

TRON

なお、Navigator Echoを用いた呼吸動機は、(1) Gating windowの幅 (2) Tracking の2つの機能から成り立っています。前者はアクセプトする上下の幅の調節で、後者は上下のズレを補正する機能ですね。Gating Windowを開けてすべてアクセプトしても、Traking(上下方向の位置補正)のみでうまくいくはず、というのがDWIの撮像理論なので、TRacking Only Navigator Echo (TRON)という方法も考えられています(和文PDF(堀江朋彦)英語論文(Invesitigative Radiology2010)

 

 

 

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Takahashi Mitsuyuki国家公務員共済組合連合会横浜栄共済病院放射線技術科

投稿者プロフィール

診療放射線技師歴はなんと37年となりました。技師人生も最終章ですね。現在は病院の技師長職を行っています。お昼の食事交代にMRI業務をおこなっています。まだまだ現役ばりばりばりです(笑)。宜しくお願いします。

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