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日立の3T MRI 「TRILLIUM OVAL」ってどんな装置? ~上腹部領域における特徴~
- 2018/2/28
- Other Writers, 創意工夫, 富士フイルム(旧日立)
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初めに
TRILLIUM OVALは日立製作所で初となる、3T MRIとしてリリースされました。導入されている施設はまだ少なく、当院が全国で9号機目です。「日立の3Tって実際どうなの?」と思っておられる方は、結構多いのではないでしょうか? 今回は、OVALの紹介と3Tが苦手とする領域である、上腹部について書きたいと思います。
OVALの特徴
最大の特徴はガントリボアが楕円(OVAL)であること。ボア径は74 cm×65 cmと左右に広くなっており、肩など磁場中心での撮像が難しい部位も楽にポジショニングできます。
一般的にガントリボアを大きくするためには、①静磁場コイルを大きくする、②傾斜磁場コイルを薄くするのどちらかですが、それぞれデメリットがあります。下図で示すように前者(①)では磁場均一性が下がりますし、後者(②)では傾斜磁場効率や線形性に悪影響がでるのです。
OVALでは静磁場コイルの大きさは変更せずに、傾斜磁場コイルの左右だけを薄くしているので、傾斜磁場の性能を維持しつつガントリボアのワイド化が図れています。
B1 mapの不均一はどうか?
3Tでは、肝臓などの比較的大きくて均一な臓器を撮像すると、輝度ムラが目立ちやすいと言われています。当院は3T装置しかないので輝度ムラは避けられない敵です。近年の3T装置は多チャンネル送信によりB1 mapの不均一を抑制していますが、この装置では、4ch 4port送信システムを搭載しています(他メーカーでは2ch 2portや2ch 4port)。また、パターン変調送信ではなく、毎回、撮像前にB1mapデータを収集(下図左)してRF変調(RFパルスの位相と振幅を調節し均一な励起を行う)しているのでスキャン毎に最適化された送信ができます。データ収集時間も数秒なので、気になりません。1.5Tと比較して輝度ムラ遜色ありません(下図右)
上腹部撮影時のコイルは?
spine coilが特徴的で、両サイドに羽根の様なflex coilがあり、これを体幹部に巻き付け撮像できます。より効率的な信号収集をするための設計となっているそうです。(左図)
小児撮影時は上図のようにセッティングすることで、側面の信号も無駄なく収集することができます。立たせた両翼のflex coilにAnterior coilを載せることで、小児へのコイルの荷重も掛かりません。
TIGRE(タイガー)
上腹部の造影検査においては3D GRE法による脂肪抑制T1強調画像が広く用いられていますが、各装置メーカーでそれぞれに特徴のあるシーケンスが存在していると思います。(eTHRIVE、VIBE、LAVAなど) 日立はTIGRE(T1 RF-spoiled SARGE)というシーケンスがおすすめです。TIGREではk-spaceの中心から高周波領域に向かって放射状にデータが充填されます。
(動画) カーブを描きながら放射状に充填することで、高周波成分が疎になりすぎないように工夫されています。直線で放射状に分布するより、扇風機の羽のようにカーブさせた軌跡にすることで、高周波成分が密になるためです。またk-spaceの中心から充填するため、脂肪抑制効果も良好です。
ダイナミック撮像時の造影コントラストもcartesianと比べて違いが見られます。cartesianでは、コントラストに影響を強く与える、低周波成分を充填する一定の時間が存在します。一方、TIGREでは低周波成分を充填する一定の時間がなく、撮像時間すべてが造影コントラストに影響を与えます。(下図)
cartesianでは腫瘍の濃染ピークに、造影コントラスト中心の充填がバッチリ合った場合は良い造影コントラストを得られますが、タイミングがずれるとその代償は大きいです。例えば多血性HCCは造影剤が腹部大動脈に到達してから約15秒後に濃染ピークがあるとされていますが、それには個人差があることが言われています。TIGREでは多少タイミングがずれてもその影響は平均化されるため、大きな失敗が少ないといえます。
上記画像はCTとTIGREの動脈優位相の画像ですが、CTで分かりにくい淡い染まりもしっかり描出されていることが分かります。
TIGREと他装置シーケンス
他装置メーカーでも放射状にk-spaceを充填するシーケンスがあり、各シーケンスをまとめると下図のようになります。
一口にradialシーケンスと言っても様々で、3D VANEやStar VIBEなどでは、常にk空間中心部分のデータを取得するため,積算効果によるアーチファクト低減効果が見込めますが、残念ながらTIGREではそれはありません。しかし、息止め不良によるモーションアーチファクトには次項の「Navi TIGRE」が活躍します。
Navi TIGRE
横隔膜ナビゲータを使用してフリーブレスでTIGREを撮像するアプリケーションです。このシーケンスではデータ収集と横隔膜のモニタリングを同時に行いながら自由呼吸下で撮像が可能なため、呼気時のみのDATAをk-spaceに充填することができます(下図)。
吸気時のデータは省きながら撮像しているため、撮像時間は表記の約2〜3倍必要となりますが、動きの影響を抑制することが可能です。高分解能肝細胞相や小児の肝細胞相撮像時に有用です。(下図)
最後に
当院では肝臓EOB・MRCPなどは、ほぼ全て日立3Tで施行しています。日立の3Tは触れるパラメータも多く検討のやりがいがあって楽しいです。今後、日立ユーザーが増えて、より発展していけるとうれしく思います。
ライター紹介
広島大学病院 神岡尚吾と申します。技師歴は4年、MRI歴は3年になります。MRI歴は浅いですが、MRIの臨床業務と勉強は楽しくやりがいを感じています。この記事投稿が皆様方との交流のきっかけになれば幸いです。
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