- Home
- 安全管理ーMRI編ー 事故を起こさないために
安全管理ーMRI編ー 事故を起こさないために
- 2016/3/15
- BLOG, Other Writers, 安全情報
- コメントを書く
【これはMRI創意工夫懇話会(2017年2月17日)に行われたミニレクチャーの一部をMRIfan.net用に書き起こしてもらったものです】
自己紹介
国家公務員共済組合連合会 平塚共済病院の内山 祐一(うちやま ゆういち)です。技師になってそろそろ20年になろうとしています。現在はシーメンスの1.5Tおよび3T装置を使用しています。日々、試行錯誤しながらMRI画像と向き合っていますが、思うような画像が出来たときの喜びは何とも言えないものです。
これからも最新のMRI技術に遅れをとらないように努力していこうかなと思っています。ただ最近、歳のせいもあるのかお酒の抜けが悪く、二日酔いでの勤務が多くなってきたような感じがする今日この頃です。
今回の話題
本日は2題で、(1) 当院における実際に起こしてしまった吸着事故についてのことと今後事故を起こさないための取り組み、および (2) 近年MRI対応となったペースメーカに対する運用方法について記載したいと思います。
また、MRI検査を安全に行うために注意しなければならないことを記載したいと思います。
(1) 吸着事故
●発生件数
このグラフは、縦軸に吸着事故発生件数、横軸にMRI機器搬入からの使用年数を示しています。機器導入から日が浅いところで事故の割合が多いのはMR担当スタッフはもとより、一般職員もその危険性への認識不足が背景にあると思います。また5年後、10年後にも事故件数が再増加しています。この要因としてはMRI検査への日常業務からの慣れが挙げられます。また近年、「低磁場装置から高磁場装置への切り替えに伴って以前までは問題の無かった磁性体でも吸着してしまった」との事故報告が挙げられていますので注意が必要です。
●発生件数
下のグラフは、原因となった人の職種別件数です。看護師が事故に関与する割合が約半数を占めています。看護師は患者さんに付き添いますから、これに関連して事故が生じるわけです。次に清掃業者(15%)が続きます。
なお、最近は看護助手が患者搬送をおこなう施設も増えているようで、これによる事故の潜在的リスクが上昇してきています。このため当院においては看護助手への安全管理講習会も行っています。
吸着事故の背景
吸着事故について当院の事例を踏まえてお話ししたいと思います。なぜ事故が起きてしまったか原因を調査していくと、最終関門を担っているはずの、MRI担当技師の確認不足(持ち込み物のチェックミス)に行き着くことが多いです。
MRI検査での事故は被検者の人命を奪いかねない可能性と吸着物によるMRI機器破損による多額の修理代という2つの大きな問題を抱えておりますので、各施設等で定められている検査運用マニュアルに従って遂行していくことが非常に重要だと思います。
修理代の比較
吸着事故が発生した場合、クエンチボタンを押す押さないでどれだけ復旧にかかる費用が変わるのでしょうか。
クエンチさせずに特殊ツールで磁性体を取り除く場合、費用は〜50万円程度です。これに対して、クエンチボタンを押すと、ヘリウム代として500万円ほど多くかかることは認識すべきでしょう。慌てずに状況を確認し、クエンチボタンを押すことには十分注意したいところです。
さらに破損など生じていると、合計で数千万円の復旧費用がかかります。
当院における事故事例
1.5T/3Tともに事故を起こしてしまいました。
図1(3TMRI)は生体モニターのバッテリーの吸着
図2(1.5TMRI)は酸素ボンベホルダーによる吸着
やはり、当院においても1.5TMRIでは問題の無かった生体モニターが3TMRIでは吸着してしまったことになります。被検者が装着する医療器具、インプラントは取り外すことが大原則です。それでも検査を行わなければならない時の為に、その安全性/危険性について熟知し、そのための最新の情報を常に入手する必要があると思います。
MRI対応医療用具
下図のように、「テープを巻いているものはMRI室に搬入して良い」というルールを決め、これをMRI室内で使うようにしています。
チェックシートの運用
当院では、吸着事故を踏まえて、危険物持ち込みを起こさないためにチェックシートを運用しています。検査室入室前には必ず、口頭指さし確認および目視確認を徹底しており、この方法を取ってからは1件も吸着事故は起きていません。これは医療事故をおこさない一つの手段にすぎませんので気を抜かず、しっかり確認をおこなっていきたいと考えています。
(2) MRI対応ペースメーカー
従来、植え込み型心臓ペースメーカーに対するMRI検査は原則禁忌でした。近年特定の条件下においてMRI検査が可能となる条件付きMRI対応ペースメーカーが販売され、当院でもMRI検査が実施されています。検査におけるペースメーカー植え込み患者の識別と安全確保、およびスムーズな運用を目的としてマニュアル作成をおこないました。
MRI検査にあたり、循環器医師、臨床工学技士、放射線技師の条件付きMRI対応カード、手帳の確認がなされ、MRI装置の磁場強度 撮像条件設定の確認および生体モニターによる確認すべてが実施された場合のみ検査を行っています。複雑な条件下での検査となりますので十分注意が必要になります。
ワークフロー
RIS画面の検査コメントに条件付き対応ペースメーカの型式を記載し、患者情報の共有化を図っています。
まとめ
MRI関連医療事故が発生した際には、患者・使用者に深刻なダメージを与えるリスクがあります。
また、装置復旧にも相当な時間、コストが発生します。
吸着は確実に防ぐことが出来るため、院内安全管理講習会等含め注意喚起をしっかり行っていただきますようお願いします。
Chief Editor’s comments
内山さん、MRI吸着事故に関して具体的な内容をお知らせいただきありがとうございました。とくにクエンチさせた時の費用などは、企業によって異なり、またコストについてはあまり表に出さないものですから、こうやって大体の額が示された意義は大きいと思います。
MRI室へ持ち込んで良い椅子などについてですが、「黄色に黒のテープ」は、通常「注意」を示すものですから、「MRI室に持ち込んではいけない」という意味にも取れてしまうと思います。このため、一般的にOKを示す色(青や緑)の背景に「MRI室持ち込み可」などと大書したビニール被覆用紙を貼ったほうが良いかもしれませんね。このあたりは大変難しいところだと思いますので、皆さんの情報交換をお願いいたします。
コメント
トラックバックは利用できません。
コメント (0)
この記事へのコメントはありません。