BodyDWI update – 【超重要】Siemensでの実験結果

皆さんこんにちは。高原です。来年2月13日土曜日の第4回BodyDWI研究会(大阪)に向けて準備をしています。当番世話人中西克之先生のアイデアで、夕方には「プロトコール無制限一本勝負」という、聞いたことのないスゴイ企画があります。これは各施設の技師さんがプロトコールを発表してお互いにあれこれいじり倒すという実に大阪らしい設定で、相当ホットなディスカッションが行われることと思います。

BodyDWI研究会の大きな目標は、今年〜来年にかけて、フィリップスだけでなく、各社のDWIBS撮像(およびその他の画像の組み合わせ)をきちんと設定することです。このために大分頑張っています。

先週の、能代山本医師会病院と、昨晩のメディカルスキャニング溜池山王で、Avanto 1.5Tを使用してさまざまな実験を繰り返し、ようやく、Siemens装置における落とし所が見えてきました。このためここに書いておきます。実験に際しては、能代の畠山さん、メディカルスキャニングの笠原さん、また足利日赤からわざわざ情熱を持って来てくれた中室さん、倉沢先生、さらにシーメンスの渡辺陽さんほかに大変お世話になりました。

能代の皆さん

スクリーンショット 2015-11-06 13.13.53

溜池山王。業務が終わった後、22:30の撮影。
足利日赤のみなさんも参加。このあとクルマで足利まで帰られました。その熱意に脱帽。スクリーンショット 2015-11-06 13.12.38

ここからメッチャ長いです。また主にテキストベースですが許してください。それでもまずみなさんと共有したいです!

 

Image Intensity Correction

これについては知っている人もだいぶ多いでしょう。シーメンス装置では、この、コイル受信信号の感度を上げるオプションがあります。通常は1に設定されていますが、DWIBS撮像の場合はまずは10で行ってください。この操作は、撮像パラメーターとして事前にセットできる機種と、それが不可の機種があります。しかし不可の機種であっても、後処理が可能です。

後処理可能なことからもわかるように、これは実際に感度が上がるのではありません。しかし、「ダイナミックレンジが広くなる」ような効果があります。Windowが非常に合わせやすくなるので、必ず行うことをお薦めします。

なお、Siemensの場合、各ステーションの画像をmergeするときに、各々のWindowを独立調整できません。これがPhilips のMobiViewとの大きな違いで、私は極めて不満です。なぜならば、頭頸部の部分はH&Nコイルで撮像し、ここだけ感度が高いために、他のところとWindowがあわなくなってしまうのです。しかし、この現象は、頸部のところのImage Intensity Correctionを5で撮像し、他は10といった組み合わせをすることでかなり解消できます。

b=(50,1000)の組み合わせがS/Nを低くしている

Siemensの腹部DWIは、多くがb=50,1000の組み合わせで撮像されていると思います。これは、以前のStudyが元になっていて、肝臓などのmetaの発見にはこれは有用です。ところがこのアプローチを、(時間がかかる)WB-DWIにそのまま運用していることに昨晩気付きました。

b=(50,1000)の取得はS/N上ものすごく損をしているのです。これは直ちに、b=(0,1000)に直すべきです。理由を以下に述べます。

b=0でないすべてのDWIは、通常は3軸撮影していますね。だから1回加算といっても、実際には3回撮影しているわけです。いま、b=(50,1000)を2NEXで撮像するという場合は、b=50に対して3軸✕2回、b=1000に対しても3軸✕2回、ですから都合12回励起することになります。これ、実に撮像時間の50%を、WB-DWIではほとんど使いもしないb=50に割り当てていることになるのです。

これをb=(0,1000)の組み合わせにしたらどうでしょう。この場合は、2NEXならば、b=0で2回、b=1000で6回撮影します。ですから合計では8回励起ですね。

実際の撮像条件で昨晩Avantoに入れたところでは、5mm厚60枚gapless、TR:13000msぐらいの条件で3NEXで

b=(50,1000)なら3:59

b=(0,1000)では2:59

となり、撮像時間が3/4になったわけです(理論的には8/12=2/3になるはずですが、これはイロイロな制約があるのでしょう)。

このため、同じ撮像時間にするために、今度は4NEXで撮影でき、これで撮像時間はさきほどと同じ約4分となりました。これでうんとSNRが高くなります。

b=50が必要なところ(肝メタ)は、上腹部だけb=50を追加すれば良いのです。肝臓なら、(50,600)とかでも良いのですからこれは2分程度のスキャンでも良いのではないですか。

なお最新の機種では、b値ごとの加算回数を直接指定できますから、b=0のNEXを1にすることでさらに時間効率を高められます。DWIBSの基本戦略は、とにかくhigh bに時間的コストをかけることです(元画像をある程度良くして、その上で加算する)。この意味でDWIBS撮像におけるb=50は直ちに捨てたほうがよいでしょう。

Avantoなら、スライス数は30枚でなく60枚で

これは3Tでは不可ですが、Avantoであれば、スライス数(軸位断)は30枚でなく60枚ぐらい撮影してもなんにも問題ないことがわかりました。以下に考察を述べます。

Siemensユーザーの多くはいまAxialでの撮影において、1stationの上下幅を15〜18cmで撮影しているところが多いです。しかしこれは短すぎます。もっと長く30cm撮影してOKです(繰り返しますが3Tは上下が歪むのでNG)。

ちなみに、gapも実験をしてみましたが、[0% gap] と [30% gap] で、見た感じであまり大きな変化はありません。ですからconcatenation(スキャン分割数)1でもgaplessで撮影して大丈夫です。SiemensのMPR機能は、信じられないことに「Axialで撮影したデータのスライス厚とgapの合計の値」によって、何ら関係ない冠状断再構成のスライス厚が支配されてしまいます(例 6mmスライスで1.2mm gapなら、7.2mm以下の冠状断再構成画像を作成できない=本当ならAP方向のピクセルサイズによって支配されているはず)。ですからgaplessにすることにより、冠状断再構成の厚みも薄く(つまりより自由度が高く)なるメリットもでます。

さて、5mm厚で60枚で撮影すると、上下のカバーは30cmになります。WB-DWIでの撮像範囲(外耳孔〜鼠径部)は85cmぐらいが普通なので、90cmあれば3stationでカバーできます。ステーションごとのシミングの回数が、たとえば6回→3回と減りますから、その分、検査時間も短くできます。

●がんが “long T1 lesion” であることを忘れるな

みなさん、癌のT2値が長いことはもちろん知っていますね。だからこそT2WIで高信号を示してくれるわけです。でも、癌のT1が長いということにはあまり関心が払われない傾向があります。T1が長いということは、回復が遅いということです。だから癌を写したかったら、Satrurationを防ぐためになるべく長いTRを用いることが鉄則です。これまで長らくの間、「肝臓の腫瘍の描出のためには息ドメ撮影が必要だ」と言っていた(いまも言っているかも)グループが外国にいましたが、息ドメをすると、当然TRは短くなりますね。そうすると、T1の長いものはSaturation effectが生じます。いわば「選択的癌抑制画像」を作ることになるです。DWIBSは、いまTR>5000msで撮像することを推奨しています。

講演資料を以下に3枚貼っておくので、時間のあるときに見てください。

▼Long T1なので、TR=2000msを使うと86%しか回復しない。

スクリーンショット 2015-11-06 12.45.05

 

▼TR2000msで撮像すると、HCC(S6付近)と周囲実質のコントラストはとても低くなる。

スクリーンショット 2015-11-06 12.45.19

▼DWIBSシークエンスでは、たまたま多数のスライス撮影をしたことが功を奏して、長いTRが必要となり、期せずして癌を描出するのにとても役立った。

スクリーンショット 2015-11-06 12.45.47

スライス枚数を多くすることは、TRを長くすることにもつながります。ですから、コイル感度が及ぶ限り、また歪まない限り上下のスライス枚数は多い方がよいのです。さらにこれは、Station数を減らし、シミングの回数を減らすことにも繋がるのです。

なおSiemensでは、現時点では、TI値の間にマルチスライスで撮像する機能(PhilipsでいうところのAcquire during delay)の機能がないため、撮像時間の無駄を生じています。将来的にこの機能が入ると、さらに時間効率が良くなると思われます。

なお、コイル感度は、昨晩用いた溜池山王のAvantoでは、Automatic Coil Selectionで可能な受診コイル数が4であったため、上下長さ30cmのスキャンは上下端での感度不足を招きました。しかしこれを手動のCPモードに変更することで、コイル感度を上下に長く担保できることがわかりました。

Image CaptureとMPRの違い、画像保存時の注意

まずはこの症例を見てください。左肺尖部に、胸膜嵌入像を伴った不整形腫瘤(腺癌)を認めますね。

スクリーンショット 2015-11-06 12.55.18そして、この衝撃的なDWIBSの違いを見てください。同じ撮像装置(能代, Avanto 1.5T)で撮像したもの(というよりも同じデータから作成したもの)です。

スクリーンショット 2015-11-06 12.58.19

左側の画像。小さな腺癌がとても鮮明に描出されています。こんな小さなものでもしっかり映っていて頼もしい感じがします。ところが右側の画像は、もうとんでもなくボケています。

いったいどうしてこんな違いを生じてしまうのでしょう。左はImage Captureの「Thin MIP」を行って保存したもの。

スクリーンショット 2015-11-06 23.03.03
右は「MPR」機能を使ってThin MIPのマルチスライス画像を保存したものです。
スクリーンショット 2015-11-06 23.03.09
Siemensの人に聞いてみてすこしわかったのは、MPR保存時に、画面4分割のままで保存すると、画素数が少なく保存されていまうからのようです。下は能代で撮影しましたが、たしかにこの時は、4分割のままで画像を作成しました。

スクリーンショット 2015-11-06 22.58.09

ですから、MPRで保存するときは「保存時に画像を全画面表示して保存する」ことが重要なようです。こ〜れは思っても見なかった通し穴でした。ぜひみなさん励行をお願いします。でないと、せっかくの画像がボケボケだと思われてしまいますからね。

ちなみに実験をした結果では、溜池山王では、これほどの顕著な差異はでませんでした(しかしMPRでは、画像を小さくして表示し、保存するとやはり画像がぼける傾向はあります)。

Image Captureの1枚保存ならば、この現象はなぜかほとんどでません。小さく表示して保存したときと、大きく表示して保存したときは、若干差はあるけれどあまり変わりがないのです。この理由はわかりません。

また能代のほうでなぜこれほどまでの違いを生じるのかは未だ不明です。このため能代では、いま1枚ごとにCaptureを作りその後シリーズ化するという涙ぐましい努力を行っています。これはぜひ全国のユーザーさんの間で共有し、あるいはSiemensさんに頑張ってもらって早く改善されると良いと思います。

cDWIの利用を

これまで書いたようにするとかなり画像は良くなるのですが、それでもIngenia 1.5Tのルーチン画質とくらべてまだ同じにはなりません。
(下はIngenia 1.5Tの標準的撮像結果。4mm厚 / 直接冠状断撮影、撮影時間は4分/station)
スクリーンショット 2015-11-06 13.38.56Siemensの名誉のために言っておくと、Avantoはすでに10年選手ですから、比較は酷ですし、そのときこの全身撮影システムが実現できていたのはスゴイともいえます。しかし現時点で考えれば、もうすこしS/Nが良くないとならないと感じます。

そこで、上記条件でb=800とし、撮像時間5分程度で行うと相当な画質になり、「ウチのはすごいでしょう」と誇れるレベルになります。Siemensの装置の多くは、cDWIを自動作成できますから、b800で撮像して、1000に直してしまえば臨床的には良いのではないかと思います。このあたりはみなさんの今後の研究結果をぜひ拝見したいところです。

以上、非常に長かったですが、フレッシュなうちに書きました。Simens Userの皆さんがんばってください。

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tarorin東海大学工学部 医用生体工学科 教授

投稿者プロフィール

MRIの撮像・フィルム焼き・患者導入に従事していた経験を活かし、企・技・医の中間の立ち位置を大切にしています。モットーは研究結果を中立的に判断すること、皆で研究成果を愉しむことです。

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