0.55Tの難しさと面白さ

はじめに

岡山大学病院の松下です。2024年1月、当院に1台のMRI装置が導入されました。静磁場強度は0.55T。80cmのボア径に0.7Lの液体ヘリウムと、非常に特徴的な装置です。
今回は、そんな低磁場装置を使用する上での難しさと、それを上回る面白さについてご紹介致します。

コントラストとSNRのトレードオフ

3.0T装置が登場した頃、頭部T1強調画像において、1.5Tと比較してマルチスライスでは良好なコントラストが得られにくいという課題がありました。つまり、低磁場装置の方が良好なコントラストを得やすい、という直感的な期待が持てますが、実際には異なる結果をもたらしました。
Fig.2にTRの延長に伴う信号強度変化とコントラスト変化について0.55Tと1.5Tの比較を提示します。TRが延長するほど信号強度が上昇していくことは既知の概念となりますが、白質/灰白質コントラストについてはTR=400ms付近を境に1.5Tよりも低下していくことが分かります。低磁場になることで、組織のT1値が短縮され、特に白質においてはTR=1000msあたりで既にプラトーに移行する傾向が認められ、結果として白質/灰白質のコントラストが1.5Tよりも低下したと考えられます。
以上より、SNRの低い0.55Tにおいて、SNRを上昇させるために多少なりともTRを延長したいところではありますが、0.55Tで1.5Tと同等以上の頭部T1コントラストを得るためには、TRを最短に設定する、もしくは400msまでに抑えることが重要となります。

T2強調画像におけるTRの考え方

T2強調画像で適切なコントラストを取得する場合、高磁場であるほどTRの延長が必要となります。それはすなわち、低磁場であればTRは短くても良い、という考え方もできます。
Fig.3にTRの変化に伴う信号強度及びコントラストの変化を提示します。信号強度に関しては、これまで必要とされてきたTR=3000〜4000msにおいて既にプラトーに達していることが認められ、画像コントラストにおいては、いずれのTRにおいても1.5Tよりも良好なコントラストが得られました。特に脳脊髄液とのコントラストについては、TR=1000msで1.5TにおけるTR=3000〜4000ms相当のコントラストが得られていることが分かります。すなわち、TRの延長とともに多少なりとも信号強度の上昇が認められるものの、画像コントラストに関してはTRが短くても十分なT2コントラストを得ることが可能となり、T2強調画像を撮像する上で新しい可能性が期待されます。

磁化率アーチファクトを最小限に

空気や金属による磁化率アーチファクトの発生は静磁場強度に依存し、0.55Tにおいてアーチファクトを最小限に抑えられることは、低磁場装置で撮像するメリットの一つとなります。
Fig.4に人工関節置換術後の画像を提示します。左側は1.5Tで撮像した画像で、VAT（View Angle Tilting）を50%に設定しています。右側は、0.55Tで撮像した画像で、VATは使用していません。撮像条件も併せて参照していただけるとお分かりのとおり、0.55Tでは、1.5TでVATを使用した場合と同程度以上に磁化率アーチファクトの影響が抑えられることが分かります。0.55Tだからこそ観察できる領域の一つであると言えます。

Fig.4 インプラント挿入患者の画像比較(左: 1.5 T、右: 0.55 T)

SMSの出番

SMS（Simultaneous Multi Slice）の登場により、拡散強調画像はその恩恵を多く受けることができますが、それ以外のシーケンスについては、TRを短縮できるシーケンスが限られること、SARの制限がかかりやすいこと、などを理由として活用方法の拡張が難しい面がありました。ですが、0.55Tにおいては、前述したようにTRが短くてもT2コントラストを得ることができる、SARの制限をほとんど受けない、とSMSを使用する上での制限を回避することができます。TRが短縮されることで撮像時間も短縮され、弱点とされるSNRの改善に時間を費やすことができますので、臨床におけるSMSの活躍の場が増えることが期待されます。

0.55Tの可能性

0.55Tの登場は、これまでの低磁場装置とは一線を画し、種々のアプリケーションが足りないスペックを補うことで臨床での活用の幅を拡げる可能性を秘めています。また、使いこなすためには、T1値の短縮をはじめとするMRIの原理の再考が必須となることを実感しています。
0.55Tにおける挙動を明確にしていくことで、臨床面ではこれまで画像化できなかったものが観察できるようになり、MRIという学問を学ぶ上では、より深く学ぶことができます。今後も、さまざまな情報を発信できればと思います。