はじめに
当院では2009年4月よりGE社製Signa HDxt 3T(Ver.15)一台での運用を始めました。(2014年からは検査数増加等のニーズに対応すべく、PHILIPS社製1.5T装置を追加導入しました)。今でこそ珍しくなくなりましたが、当時大学病院や放射線検査関連クリニックを除き、3T MRIのみで運用している総合病院は数える程しかありませんでした。今回2009年に導入された3T MRIで経験したアーチファクトを中心に紹介します。
どうしても避けることができなかった ”拡散強調画像のアーチファクト”
画質に影響を与える因子としては、1) 静磁場(B0)不均一による磁化率の影響、2) RF(B1)不均一による誘電率及び導電率の影響が挙げられます。その中でどうしても避けることが出来なかったのが拡散強調画像における”画像歪み”と”脂肪抑制ムラ”でした。特に胸部や乳房MRIにおいて、これらの現象は顕著に出現することがあり対処に苦しみました 。
散強調画像 (DWI) に用いられるecho planar imaging (EPI) におけるケミカルシフト及び歪みは同様の原因で生じ、またDWIによる歪みは”eddy current”に起因する共鳴周波数の変化量によって大きくなるとされています 1)。
これらよりEPIを用いたDWIにおける画像歪みは,共鳴周波数の変化量にケミカルシフトを加算したものと定義されます。よって周波数方向のmatrixもしくは位相方向のFOV (Phase FOV)を調整することである程度の歪み改善が可能ですが、根本的な解決には至っておりません。一方磁場不均一が原因による脂肪抑制ムラは、脂肪抑制方法を工夫(SPECIAL、STIR、SSRF)することで脂肪抑制ムラを防ぐことができますが、当院の装置ではChemical Saturation(chem sat)しか付加することができず為す術がありませんでした。
B1不均一を改善させた楕円送信技術 ”EllipTx”
RF波の浸透力は磁場強度により異なる。1.5T MRIよりも共鳴周波数の高い3T MRI (128MHz)では、RFが深部まで浸透せず(誘電効果・定常波効果)感度ムラが生じ、特に体幹部領域においてその影響が大きいとされます。 ユーザーによるパラメータ調整では改善することができず、このRF不均一による感度ムラを解消する手段として、”誘電パッド”と称される塩化マンガンを加えたパッドを目的部位に載せて撮影するという方法がありました。RFの送信技術については、EllipTxと呼ばれるRF送信技術が搭載されました。 EllipTx は、RFを体幹部の形に近い楕円状で送信することにより、RF送信の均一性を改善します。
骨盤部TOF-MRAにおいてその効果を確認することができました。EllipTX導入前ではRF不均一送信による感度ムラが顕著でしたが、EllipTX導入後は改善されました 。
歯列矯正器具に有用であった ” 3D Inhance Velocity”
体内インプラントの中で困ったのが、 ”歯列矯正器具”によるTOF-MRAの描出不良でした。これは通常のTOFでは回避しようがないため、” 3D Inhance Velocity”と呼ばれる3D PC MRA変法を用いて回避していました。この撮影法では静止部分と流れの部分を識別するために、大きさが同じバイポーラグラディエントを正と負の方向にかけており、磁性体による位相のずれが補正され、血管が描出されたと推察しています(実際のところどうなのでしょうか・・・)、しかしこの撮像法では撮影時間の延長を伴うため、TOF法に比べ分解能を低下させるしかありませんでした。
最後に
3T MRI一台での運用時代を振り返り、改めて感じたのが”予習”の重要性です。多量腹水や巨大嚢胞などについては予め情報を得ておくことで、主治医には腹水等が原因で画質に大きな影響を及ぼす可能性や他のモダリティでの検査変更を進言することが出来ました。また1.5T MRI装置と比較すると、撮影条件がとてもシビアであることを痛感します。撮影パラメータを熟知した上で検査を行わなければ、良い画像を出すことは難しいでしょう。その点に関しては、3T MRI装置と向き合ってきた5年間の中で一番の収穫だったと感じています。
参考文献
高橋光幸,他. 拡散強調画像における歪みの検討.日放技学誌: Vol. 65 (2009) No. 11 P 1494-1501
ライター紹介
箕面市立病院 放射線部 山城 尊靖
Radっていいともを是非見てください。こちら
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