今回はGyrocup2022で発表したLIPO-Only DWI(LION-DWI)というシーケンスに関して、考案するに至った背景と撮像のポイントまで説明させていただきます。
背景
3.0T装置において拡散強調画像を撮像する際は、SPIRやSPAIRなどのプリパルス型の脂肪抑制を一般的に用いると思います。脂肪抑制不良が起こった際は、ケミカルシフトを利用して脂肪抑制を行うSlice selection gradient reversal(SSGR、LIPO)を併用します。しかし、併用という選択をすると、プリパルスを用いていますのでSNRの低下やMT効果の増加、撮像時間の延長が起こってしまいます。そこで、LIPOのみで脂肪抑制を行うことができれば、これらの問題を解決できるのではないかと考え、シーケンス作成を試みました。私は、このLIPOのみで脂肪抑制を行う方法をLIPO-Only DWI 略して『LION-DWI』と名付けました。
LIPOの原理
図1にLIPOの概要を示します。LIPOは90°励起パルスに対して、180°再収束パルスの極性を反転させることで、スライス外にケミカルシフトを起こして脂肪信号を抑制する方法です。LIPOによる脂肪抑制効果はこのケミカルシフト量Dで決定され、Dが大きいほど効果は向上します。
LION-DWIの用途
まず最もおすすめしたい用途は、頭部に対するVolume-DWIです。臨床において脳幹や小脳の脳梗塞がある場合、疾患が小さいためthin sliceのDWIであるVolume-DWIが有用です。これにより小病変の検出感度を向上させ、axialだけではなく、coronal、sagittalなど多方向からの観察が可能となります。Volume-DWIはthin sliceであるためSNRが低く、病変検出能を担保するためには撮像時間の延長を伴います。ここでLION-DWIの出番です。図2に従来法およびLION-DWIの撮像条件と画像を示します。
LION-DWIの撮像時間1分の画像でも、SPAIR-DWIの撮像時間3分の画像と遜色のない画像が得られていることがわかります。
LION-DWIは頭部だけでなく他の部位にも応用可能です。例えば前立腺に対するDWI撮像では、b値を1500-2000s/mm2程度まで高く設定し、病変を検出することが求められます。よって、SNRの担保が課題になりますが、LION-DWIを用いることで、SPAIR-DWIの半分の撮像時間で同等の画質および定量値(ADC値)を担保することが可能です(図3)。
LION-DWIの注意点と対策
LIPOのみを使用して脂肪抑制を行うLION-DWIですが、使用している装置によって脂肪抑制不良によるアーチファクトが出現することがあります。その際は「B1 mode」というスライス選択傾斜磁場強度(Gz)を変更できるパラメータを調整することで改善することが可能です。図1の式において、Gzを低く設定することでケミカルシフト量Dが大きくなり、脂肪抑制不良によるアーチファクトの出現が抑えられます(図4)。
おわりに
LION-DWIは様々な部位に適応できるため、3.0T装置におけるDWIの画質改善に大きく貢献できるシーケンスです。最近では、PHILIPSだけでなくSIEMENSの装置でも使用可能(SSGR自由自在@SIEMENS https://mrifan.net/blog/17063)とのことで、今後もベンダーを超えて幅広く使用されることに期待したいです。
ライター紹介
東千葉メディカルセンターの村山大知(むらやま だいち)と申します。MRIの撮像シーケンスの構築など臨床現場で求められることを解決することが仕事のモチベーションです。 MRI LOVEの皆さんと一緒にMRIの楽しさを伝えていけたらと思います。
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