2023年4月13日から16日にかけて日本放射線技術学会総会が開催されました。この学会の一大イベントの一つである機器展示(ITEM)にて、SIEMENS MRIの最新情報レポートをします!
COVID-19も落ち着き始め、参加者も戻ってきたITEMは大勢の人で賑わっていました。
図1 SIEMENSブースとモックアップ展示されていたMAGNETOM Lumina 3.0T
Deep Resolve BoostとDeep Resolve Sharp
今年のSIEMENSのトピックは、「Deep Resolve Boost」と「Deep Resolve Sharp」です。Deep Leaning Boostテクニックは精度の高いノイズリダクションを行う事を目的として、画像ベースのみではなく、k-spaceベースのDeep Leaningも行い、常に画像とk-spaceをインタラクティブに比較しながら最適化しているそうです。さらに、教師画像にはPATありとPATなしの両方を学習させているとの事で、今までSIEMENSで用いられていたDeep Resolve GainよりもPATを高く設定した撮像が可能になったそうです!
図2 Deep Resolve Boostの概念図 (画像提供シーメンスヘルスケア株式会社)
画像ベースだけのDeep learningではただの画像フィルターになりかねないという、Deep Leaningの弱点をよく理解した構成だと感心しました。
次に、SIEMENSではSuper resolution技術と呼ばれるDeep Resolve Sharpです。これはDeep Learningを用いたHigh Resolution化技術です。具体的には、撮像したMR画像をチャネルと呼ばれる区域化を行い、チャネル毎に周囲のピクセルをコンボリューション処理する事で高分解能化する事ができます。一見画像フィルター処理のようにも感じますが、ここでもDeep Learningを用いて処理を行い、画像とk-spaceをクロスチェックしながら再構成を行うとのことでした。
図3 Deep Resolve Sharpの概念図 (画像提供シーメンスヘルスケア株式会社)
Deep Resolveの臨床応用
Deep Resolve Sharpは、マトリクス数を何倍にするか?という設定をして画像が再構成されます。例えば、Deep Resolve Sharpを2倍設定にしておけば、マトリスク数320のに設定した撮像であっても、撮像マトリクス数が160の場合と同等の短時間撮像が可能になるということです(分解能が2倍になる設定)。収集データが少なくてよいので、大幅な時間短縮が期待できます。もちろん今までと撮像時間を同等にして、より高分解能な画像を再構成するという使い方もあるため、検査の幅が広がりますね。
普通この様なコンボリューション処理を行うと、テクスチャー調と呼ばれるべた塗り絵のような質感が出ますが、今回見させて頂いた画像ではそのような印象は全くありませんでした。これもDeep Learningの恩恵ですね。しかし弱点としては、現段階では2DのTSEのみにしか適応されないそうです。もちろんシーケンス毎に適したアルゴリズムを順次開発中という事なので、HASTEやEPI系など、近いうちにいろいろなシーケンスに拡充する予定だそうです。楽しみです。
図4 Deep Resolve適用前後の臨床画像比較 (画像提供シーメンスヘルスケア株式会社)
そしてこのDeep Resolve技術は、後処理も可能です。つまり、撮像した画像にDeep Resolve処理を行い、望ましい画像ではなかった場合、元画像に戻せるということです。これは便利ですね。Deep Leaningが必ずしも良い画像を再構成するとは限らず、High signal、High Resolutionになってもコントラストが低下する可能性が考えられますからね。さらに、研究ベースで考えてもGoodですね。いろいろな処理を試して画像を比較検討できる。研究大好き人間としてはもの凄くありがたい機能です。
このDeep Resolve技術は、面内のParallel ImagingであるPATと多断面同時励起技術であるSMS(Simultaneous Multi-Slice)との相性も抜群に良いです。例えばDeep ResolveとSMSを併用して、スライス厚を1mmに設定、PAT3とSMS3を適用することで6倍速撮像シーケンスを作成し、Deep Resolveを使用する事で、息止めで肝臓全体を一度の息止めで撮像したり、2D HASTEにDeep Resolveを適用して、ノイズ低減による高速化と分解能向上によるブラーリング低減を図る事で、モーションアーチファクトが出現しやすい直腸撮像であったり、婦人科骨盤撮像にも有用です。肝臓全体撮像を分割息止めで撮像すると、患者さんの呼吸状態によっては撮像断面がずれてしまうミスレジストレーションも、一度の息止め撮像ならば起こりにくくなります。骨盤領域では腸管の蠕動によるモーションアーチファクトが画像ボケの原因になりますが、超短時間撮像が可能になったことで腫瘍も明瞭に検出できるようになります。今までもこのような超短時間撮像をアーチファクト出現時の「次の一手」として使用していた方もいると思いますが、信号値の低下や低分解能撮像を余儀なくされていました。しかしこれはDeep Resolveによって解決です。超短時間、良好な信号値、高分解能画像。これはもうルーチンとしてシーケンスに組み込めるレベルです。しかし、今回供覧して頂いた婦人科骨盤の画像では、よーく見ると若干水の信号が低下しているようにも見えたので、ルーチンに組み込む前に、微調整は必要かもしれません。
図5 婦人科骨盤の臨床画像 (画像提供シーメンスヘルスケア株式会社)
面内分解能を考えると2Dシーケンスが3Dシーケンスよりも優れています。従って、2DのシーケンスでありながらThin slice、Gap lessで3Dのような画像を短時間で得る事によって、超高分解能画像が実現され、臨床現場を悩ませることがあるPI-RADSガイドラインに則ったシーケンス作成の救いの船になりそうです。
GRASP-VIBEも推しの一つ
最後に供覧して頂いた画像は、去年のITEMでも紹介されていたGRASP (Golden-angle RAdial Sparse Parallel)-VIBEです。これは自由呼吸下で腹部のDynamic検査が可能となるシーケンスです。しかもダイナミック撮像なので、4Dイメージとしても観察可能である事から、子宮動脈塞栓術(UAE)前の血行動態評価で重要な子宮動脈の描出や、乳腺の造影検査において近年注目されている造影早期動脈相の多時相収集(ultrafast-DCE MRI)に非常に有効な素晴らしいシーケンスです。これは動きにも強く、時相毎にサブトラクションが可能で、今後いろいろな症例での報告が出てくることが楽しみです。
図6 GRASP-VIBEの臨床画像 (画像提供シーメンスヘルスケア株式会社)
SIEMENSの技術改良は凄かったです。素晴らしい解説と共に多くの臨床画像を供覧して下さったSIEMENSの皆さま、本当に有難う御座いました。
残念ながらITEMに参加出来なかった皆さんにこの興奮が少しでも伝わると良いです。
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