①はじめに
はじめまして、横浜新都市脳神経外科病院の平久保です。当院は施設名の通り脳に特化した医療施設であり、脳の分野では他施設に負けないモチベーションのもと業務に励んでおります。
今回、当院で取り組んでいる急性期脳梗塞(Acute Ischemic Stroke以下AIS)患者に対して行う『No SAT Time of flight法』のご紹介をさせていただきます。
②背景
本題に入る前に、AISの治療に対してここ10年で行える治療が大きく変わりました。発症4.5時間以内に行える経静脈的血栓溶解法(t-PA)、原則8時間以内に行える血栓回収療法。予後は時間との勝負とも言えるこれらの治療を行う前に、画像診断の第1選択をCT かMRIで各施設分かれるところですが、当院はMRI装置を3台有していることからMRI ファーストで取り組んでいます。多い時では血栓回収療法は15回/月を超えることもあります。
③Time of flight法の固定概念をやめる
AIS患者は再開通が30分遅れると予後が10%悪くなるとの報告もあります。
お正月の箱根駅伝で、とある大学が1秒を削り出せと腕に書いてタスキをつないでいました。当院でも各部署1分を削りだす努力をチームでしている中、MRIの撮影時間を短くしたいと試行錯誤しているところ生まれたのが表題のNo SAT TOF法です。
学生の時から、教科書では末梢側にサチュレーションパルスを印加し動脈だけを描出するように撮影する、と脳に刷り込まれているTOF法。
実際、このサチュレーションパルスをなくすことで設定できる最短TRはかなり短くできます(最短TRは3T<1.5T)。また、理論上TRが短いと静止部組織の信号は低下し、血流の信号は高く見えます。
静脈は消えませんが静脈も思っているほど邪魔をしません。これはTRが最短のため遅い血流は飽和し、描出されないのだと思います。
ぜひ皆さん、まずは装置のサチュレーションをOFFにして最短TRがどれほど下がるのかだけでも試してみてください。
④No sat TOFのインパクト
ここから本題になります。サチュレーションパルスを外して得られたインパクトは衝撃でした。
(Fig.1 No SAT time of flight MRA:上記)
まず、驚いたのは思っている以上の画像(Fig.1)が得られた事、そして撮影時間の短さです。
TOF法で1分30秒を切るのは、圧縮センシング等の最新のアプリケーションを搭載している装置をもってしても、なかなか難しいのではないでしょうか? 静脈は描出されますが、トリミングすれば気になりません。
AISに対して様々な時短MRAを試み、PC法を選択している御施設もあるかと思います。ただ、術後の画像フォローのMRAはTOFなので、術前、術後で見た目の変わらないTOFで撮像できるメリットは医師だけでなく、患者や家族に画像供覧いただく際も好評を得ています。以下に臨床応用の画像(Fig.2)を提示します。
(Fig.2 Comparison before and after thrombus recovery:上記)
⑤ここがポイント
この撮像ポイントはたった3つです。
1つ目は、前述したサチュレーションパルスを外す。
2つ目は、外したことによって設定できる最短TRに設定する。(装置によってはBandwidthを少し広くしただけでTRがさらに短くなることもあるようです。)
3つ目は、上記によりTRが短くなったため、最適なFAとTone rampを設定する必要があります。
そこでFAの適正角度は何度なのか? Volunteer studyにて検討しました。
以下のFig3.にコントラスト比(CR)の評価、Fig4.に視覚的評価の結果を示します。
(Fig3. Comparison of flip angle and tone ramp change at set angle by CR:上記)
FA11°以降、末梢血管や後方循環などの細い血管のCRは減少しています。
(Fig4. Comparison of flip angle and tone ramp change at set angle by visual evaluation:上記)
視覚評価でも抹消の描出が一番良いのはFA11°でした。
FA11°においてTone rampを可変してもCRでは大きな違いはありませんでしたが、Slabのつなぎ目が目立たなくなるのは視覚的に70%でした。
この検討はMAGNETOM Skyra 3.0Tでの検討で、結果とし最短TR10msのとき、最適FAはFA11°です。
他の装置でもこの数字の関係性は同じになります。
つまり、3つ目のポイントは、3T、1.5Tどちらの装置であってもFAは最短TRと同数程度、または(最短TR+1)くらいが最適です。
例えば、1.5Tの装置で最短TRが13msに設定できたら、FAは13~14°が最適になります。
このポイントさえ守れば各施設、どの装置でも撮像できます。
ramped pulseは各装置にて適宜調整してください。
⑥さらに応用も可能
AISに対してだけでなく、そのほかの臨床にも応用できます。その一つがクモ膜下出血などの出血後の患者に対するTOF法です。
皆さんご存じの通り、血腫はオキシヘモグロビンが1週間程度でメトヘモグロビンに変化し、TOF像では高信号になります。そこで、この撮像から動脈流入側にサチュレーションパルスを印加したTOF(MASK像)を引き算することで、血腫が除去されたMRAを撮像することが可能です。
(Fig.5 Hematoma removal by subtraction:上記)
Fig.5で示した画像は引き算した画像ですが、白黒反転することで引き算画像だと一目でわかるよう、当院ではルール決めしています。また、MASK像はあくまでも引き算用ですので、Phase resolusionを下げて時間短縮をしています。
当院ではこの手法で、血管攣縮(スパズム)期にも血管をしっかり評価できる画像を撮像しています。
臨床では体動が問題になるかと思いますが、Total 2:30程度ですので『次の一手』としては非常に有用ではないかと思っています。
おまけの話(SIEMENS装置におけるXAバージョン編)
SIEMENSユーザーであると最新のXAバージョンではどうなるのか気になるところではないでしょうか?
今回の条件にGRAPPA:2ではなくCompressed Sensingを併用するとどうなるか?
実際に、CS4設定で最短TR(9.4)に設定し撮像すると…なんと58sec!!
1分切れちゃうんです。1分かからないTOF-MRAってすごいですよね。
アプリケーションが進化してもおそらくこの撮像は変わらず重宝すると思っています。
おわりに
この撮像を半年間ほどAISに対して行ってきて、もう一つわかってきたことがあります。
中大脳動脈のような主幹動脈が閉塞している患者は、MIP像ですぐ「閉塞している」と判断できます。閉塞しているのですが、TOF原画像では末梢血管だけが描出されることがあるのです。サチュレーションパルスを外しているので、頭側から降りてくる側副血行路を描出している所見であり、一般的にそのような症例は予後が良いとされます。側副血行路の有無の判断も追加撮像をせず情報が得られるのです。これに気づいたときは思わずテンションが上がりました。
なかなか時間が短くならないTOF法。それを今回No SAT TOF法で実現し、AIS患者に対する当院のMRI撮像時間はTotal 10minを切りました。ぜひ、皆さんもNo SAT TOF法を試してみてください。
ライター紹介
皆さんこんにちは。
横浜新都市脳神経外科病院の平久保拓(ひらくぼ たく)と申します。
MRI歴は6年になります。
ずっと無趣味だった私が手にした趣味は野菜作り!家庭菜園歴は5年になります。
MRIは勉強するほど難しく、なんでも聞いてくださいなんて言えませんが、野菜の事なら何でも聞いてください。野菜の話なら朝まで話せますので、コロナ禍が過ぎお酒を交わすことがありましたらぜひMRIと野菜の話をしましょう。
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