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★★GRE と各種Dixon によるin phase、out of phase での信号変化について
- 2025/11/7
- BLOG, Education, 撮像のワンポイントアドバイス
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★〜★★★までの難易度を設定し、MRIにおける基本的な注意点や撮像のポイントなどをまとめていくコンテンツです。初学者の方やローテーターの方など是非ご一読ください!
今回の「撮像のワンポイントアドバイス」の難易度は★★ふたつです。
YouTubeショート動画もご覧ください:https://www.youtube.com/shorts/L6loWgXxj1E?feature=share
山形県立中央病院の樋口裕平と申します。
今回は、MRI における「in phase」と「out of phase」画像について解説するとともに、撮像法の違いが信号値や診断結果に与える影響についてご紹介いたします。
皆さまのご施設では、これらの画像を撮像する際、どのような撮像法を使用していますか?
はじめに
MRI におけるin phase(同位相)画像および out of phase(逆位相)画像は、脂肪と水が同一ピクセル内に混在する組織において、信号の干渉による信号強度の変化を利用した重要な診断指標のひとつです。特に、肝腫瘍、副腎腺腫、骨髄病変などの脂肪含有組織の性状評価に広く応用されています。
本稿では、各種撮像法によって取得されるin phase / out of phase 画像における信号変化の違いに着目し、画像の定量評価における撮像法依存性の有無についてファントムを用いて検討しました。
in phase と out of phase とは
水と脂肪の共鳴周波数には 3.5 ppm の差があり、1.5T 装置ではこの差に基づくベクトル位相が約2.3ms で反転(out of phase)、約 4.6ms で一致(in phase)します(Fig.1)。このタイミングに合わせてTE を設定することで、in phase / out of phase 画像が取得されます。
ピクセル内に水と脂肪の両成分が存在する場合、out of phase では両者のベクトルが逆方向となり、信号が打ち消し合い、信号強度が低下します。これに対して、in phase では両成分が加算され、相対的に高信号となります。
in phase と out of phase を撮像する方法
in phase / out of phase 画像を取得する手法は、以下の 3 つに大別されます。
ⅰ. GRE Dual-echo 法:TE を 2 点設定し、in phase / out of phase 画像を直接取得
ⅱ. SE ベースのDixon 法:TE シフトを利用した水脂肪分離を応用
ⅲ. GRE ベースのDixon 法:3-point またはIDEAL 等、複数TE を用いた水脂肪画像再構成法
たとえば、以前私が使用していた SIEMENS 社MAGNETOM Avant 1.5T(VB19)では、以下のシーケンスが使用可能でした。
① GRE 法:基本的なin phase / out of phase 撮像
② TSE-Dixon 法:SE 法ベースのDixon 法
③ VIBE-Dixon 法:3D GRE 法ベースのDixon 法
これらの手法は、それぞれ空間分解能・脂肪抑制・撮像時間・定量精度において特性が異なり、対象臓器や診断目的に応じた適切な選択が必要です。
シーケンスの違いによる in phase と out of phase の信号値変化
in phase / out of phase 画像は、脂肪含有率の推定や脂肪内在の有無の評価に基づいた定量的診断に用いられることがあります。以下は代表的な報告例です。
SIin:in phaseの信号値 SIout:out of phaseの信号値
副腎腺腫:
信号減衰率= ((SIin – SIout) × 100) / SIin
信号減衰率が20%以上であれば、脂肪成分を有する腺腫の可能性が高い1)。
骨髄転移の除外診断:
信号比(SIR) = SIout / SIin
SIR が0.8 以上であれば、転移の可能性が高い2)
しかしながら、 このようなカットオフ値を報告した論文では、 異なった撮像法を使用している場合があり、臨床で適用する際には注意が必要です。
撮像法の違いによるin phase / out of phase 画像への影響を検証するため、水、サラダ油、イントラリポス輸液 10%、20%を使用したファントムを作成しました。
ここでイントラリポス輸液について、簡単に説明します。イントラリポス輸液は、術前・術後、急・慢性消化器疾患、消耗性疾患、火傷(熱傷)・外傷、長期にわたる意識不明状態時の栄養補給として使用され、有効成分として精製大豆油が入っています。10%と20%は、成分(ml)あたりの精製大豆油の割合になっています。
そのファントムをMAGNETOM Avant 1.5T(VB19)を使用して、①GER、②TSE-Dixon、③VIBE-Dixon の 3 種類の撮像法からin phase / out of phase 画像を取得しました。撮像条件がFig.2 で、得られた画像はFig.3 になります。
画像を比較すると、同じ素材でも撮像法により信号値の変化が異なることがわかります。次に、イントラリポス輸液 10%と20%を対象に SIR を算出しました(Fig.4)。
SIR は撮像法により差異が認められました。すなわち、同一の物理的条件下であっても、撮像法により定量指標(SIR や信号減衰率)が変動する可能性があることを示唆されました。
したがって、 異なった撮像法で算出したカットオフ値では、診断の一貫性を損なうリスクがあると考えられます。医師が参照している指標がどの撮像法で得られたものかを把握し、それと同等な撮像法を用いることが重要です。
最後に
今回の検討はファントムのみを対象としており、実際の臨床画像では検討していません。しかし、日常の撮像で「in phase / out of phase が撮れるから」という理由だけでシーケンスを選択した場合、診断に影響を及ぼす可能性があることが示唆されました。
MRI 担当者は、診断目的・評価指標・対象臓器に応じた適切なシーケンス選択と技術的理解が求められます。
本稿が、日々精度の高い画像提供に尽力されている皆さまの一助となれば幸いです。
参考文献
1) Haider MA et al. Radiology 2004.
2) Erly WK et al. : AJNR Am J Neuroradiol 2006.
自己紹介
山形県立中央病院 樋口 裕平(ヒグチ ユウヘイ)
“MRIって、よくわからないなぁ...でも、なぜか惹かれるんだよなぁ...“
――そう感じたあの日から、学べば学ぶほど深くなるMRIという“沼”。
診療で少しでも役立つ画像を提供できるよう、日々模索しています。
学会や懇親会等でお会いした際には、よろしくお願いいたします。
MR話+”SAKE”があると、最高です。

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