T2-Reversed BPASによる椎骨動脈描出能の改善
はじめに
皆さんこんにちは。今回は椎骨動脈解離疑いの検査では欠かすことのできないBPAS(Basi-parallel anatomical scanning)撮像についての話題をお届けします。通常のBPASに関しては当サイトでも2回ほど紹介しているため、参考にご覧ください。
“BPAS (2): 椎骨動脈解離のMRI – 画像上の分類と経過について”
BPASの悩み
BPASではネガポジ反転により脳脊髄液は黒く、血管は白く写り、椎骨動脈から脳底動脈に至る箇所(V4)が良く観察することができます。しかし、椎骨動脈が頭蓋外に出る箇所(V3)では、脳脊髄液がないため周囲とのコントラストが悪く観察しづらくなっています。
椎骨動脈解離の好発部位は硬膜内のV4に生じることが最も多く1)、頚部においては遠位のV3で頚部回旋に関連する解離が生じやすいと言われています。2)
従来のBPASではV4の描出能とV3の描出能に差があり、好発部位の観察としては物足りない結果となってしまいます。
T2-Reversed BPASとは
そこで、今回ご紹介する手法が「T2-Reversed BPAS」です。T2 Reversed(以下、T2R)とは何かというと、Proton Density(以下、PD)強調像を白黒反転させた画像として知られています。通常のT2強調像の白黒反転に比べ、解剖構造の視認性向上に優れているとされています。
加えて、PD強調では血管のFlow voidが強いため、従来よりも血管内が黒く抜けやすく、視認性が良くなります。
これらの特性を利用し、T2強調像の白黒反転表示であるBPASをPD強調像に変えてみます。
Fig.2に2DのBPASを示します。dのT2R-BPASでは脳組織全体の信号が変わるため、血管の浮き出方が変わりますが、従来のBPASもT2R-BPASもV4における血管の視認性は大きく変わりません。
次にFig.3に3DのBPASを示します。薄いスライスで観察すると、T2R-BPASでは脳脊髄液と血管のコントラストが高くなっていることがわかります。
このとき、Refocus flip angle(以下、RFA)を低くしすぎるとSignal to Noise Ratio(以下、SNR)が悪くなり、かつ脳脊髄液と脳組織のコントラストも悪くなるため、ある程度大きくする必要があります。
RFAを大きくするとコントラストもつきますが、大きくしすぎてもblack-blood効果が弱まるため、中間のRFAを選択するとよいでしょう。
V3(黄矢頭)に注目してみると、T2強調像よりも周囲とのコントラストが高くなり良好に観察することができます。T2強調像では骨も筋肉も同様に高信号となっていますが、PD強調像では骨が高信号、筋肉は中程度の信号となっています。これに良好なFlow voidも相まるため、従来よりも良好なコントラストが得られることとなります。
さらに、PDはT2よりもSNRを確保しやすいため、最新の装置でなくても取り入れやすい利点があります。
明日からの臨床の1手に加えてみてはいかがでしょうか。
Reference
1)栗原紀子. 脳動脈解離のMRI診断. 仙台医療センター医学雑誌 2023; 13: 6-13.
2)Lee VH, et al. Incidence and outcome of cervical artery dissection: a population-based study. Neurology 2006; 67: 1809-12.
3) Sasaki M, et al. High-field MRI of the central nervous system: current approaches to clinical and microscopic imaging. Magn Reson Med Sci 2003; 2(3): 133–9.
ライター紹介
千葉大志(チバタイシ:市立角館総合病院 放射線科)
MRI歴は15年目となります。普段の日常臨床で出会う小さな疑問を追って研究しています。MRI画像の効果は患者さんへ届いてこそと思いますので、診療でどう使われるのか、医師はどう感じているのかなど、多角的で俯瞰した目線をいつも大事にしようと努力しています。
寝食を忘れてと言いますが、コーヒーと甘いものは忘れられないくらい癖になっています。学会で一緒にコーヒーブレイクしてくれる人募集してます。