心臓MRI検査の現状
心臓MRI検査はone stop shopとも呼ばれ、対象疾患や検査目的に応じた多様な撮像法が存在することは皆さんもご存知で、日々の臨床の中で活用されていることと思います。
ただ、多くの病院でその多様な撮像法を全て使用しているところは少数で、心筋虚血や心筋viability評価を中心としたLate gadolinium enhancement (LGE)とCine、T2 Black Blood (BB)の検査が多くを占めているのではないでしょうか。
当院でもその例にもれず全体の8割はそうなっている現状です。ただ、当院の特色として挙げられるのはWhole Heart Coronary (WHC) – MRAが全体の2割ほど占めている点であると思います。主な理由としては、腎機能低下や透析、高心拍や心拍コントロール不可、放射線被ばく回避、カルシウムスコア高値、息止め困難な場合などで、循環器医師に選択していただいていることが理由であると思います。そのため、症例数には恵まれているのですが、検査が難しい症例も多く悪戦苦闘しています(笑)
WHC-MRAの撮像原理
WHC– MRAは少しの慣れが必要な検査でもあります。PHILIPSでは「Cine 100 phase」と呼ばれる高時間分解能のCineを四腔長軸像(4ch)にて撮像し、冠動脈が静止している時間を探して、R波からのtrigger delay(R波検知後の待ち時間)とshot duration (実撮像時間)を決定します。
実際の症例ではNavigator(呼吸同期)の採択率も考慮しながら実際の撮像時間が、現実的な時間となるよう他のパラメーターも含めて設定する必要があります。これができるようになれば、特に難しい検査ではありません。
ある検査の画像
いつものようにWHC– MRAを撮像していたある日、プランニング画面で以下の画像がでてきました。ただ、その時の私は特に何も意識することなく、普段通り下図のように設定し撮像しました。
冠動脈静止時間も比較的長く、呼吸同期も問題なく60%の取得率で問題ない画像が取得できたと感じたのですが、得られた画像を見ると愕然としてしまいます。
モーションアーチファクトと見られるghostが多く発生し画像の劣化を招いています。MPR処理してみるとblurringも発生しており、狭窄に見える箇所もあります。
当院で通常使用しているシーケンスは、呼吸の影響を少なくするために位相方向はAPではなくRLにして撮影しています。通常豊胸手術をしている場合、AP方向に注意する必要があるのですが、この方の場合は左右に下垂しておりRL方向に影響してくること。
磁化率の影響で右上腕の脂肪抑制が不均一で、余計にモーションアーチファクトを助長していることが画像より推察できます。
そこで位相方向をA→Pに変更します。
創意工夫すると
さらに、シリコンの強い信号があるため、相対的に冠動脈の信号値が低下しているようにも感じたために、短軸方向から矢状断方向に変更し、シリコンがFOVに入らないように、どうしても避けれない箇所はsaturation pulseにて抑制しました。
得られた画像をみると、やはり位相方向をA→Pに変更したことにより、胸壁側のモーションアーチファクトが多少見られます。
しかし、MPR処理してみると画像の改善が明らかです。最初の画像で見えた狭窄もアーチファクトによる偽狭窄であったことが分かります。
Whole Heart Coronary – MRAも基本に戻れ!
WHC– MRAは基本的に短軸像が良いとされており、ほとんどの症例では実際にそうです。ただし盲目的に検査をするのではなく時には、疑問を感じながら撮像することを忘れてはいけないと感じさせる症例でした。
ライター紹介
東京警察病院 古河勇樹(ふるかわゆうき)
紹介文はこちら
コメント
トラックバックは利用できません。
コメント (0)
この記事へのコメントはありません。