3.0T装置における横断DWIBSの紹介

はじめに

皆さま、はじめまして。横浜南共済病院の南 広哲と申します。横浜南共済病院は神奈川県横浜市にある565床の病院です。

当院は「地域社会に貢献する病院として、患者中心の質の高い医療提供に努めます」という病院理念のもと、横浜南部地区における地域医療の中核的な役割を担う病院です。スポーツ整形外科には横浜DeNAベイスターズのチームドクターが在籍しています。

【DWIBS導入の経緯】

当院では平成27年4月に3T MRI装置Discovery750w(DV25)を導入しました。従来はDWIBSを撮影するために専用のスライダーを使用する必要がありましたが、本装置ではDWIBSに適したcoilが使用でき、より簡便にDWIBSの撮影が可能となりました。

本装置の導入に伴い、放射線科医からDWIBSの依頼があり、撮影の運びとなりました。

【DWIBS撮影条件】

放射線科医からの依頼を受け、まず撮影条件の検討を行いました。

当時1.5Tで主流であると思われたCoronal断面で撮影を試みましたが、3T装置であるため歪みが改善しきれず、Axial断面での撮影に方針を切り替えました。Axial断面での撮影においても歪みや展開不良のアーチファクト、脂肪抑制法や撮影時間等が課題となったため、撮像条件を検討しました。

現在の撮影条件については図1に示します。特にFOV60cmにてphaseFOV0.5とASSET factor2.0を併用することで、歪みが無く、体型に関わらず展開不良アーチファクトの抑制された撮影が可能となっています。(図2)

【脂肪抑制法】

脂肪抑制法として、DWIBSは均一な脂肪抑制を目的としたSTIR DWIを前提としています。追加脂肪抑制としてのSSRF(水励起法)は高い脂肪抑制効果をもたらしますが、頚部・胸部領域では磁場不均一にによる水励起不良や病変欠損事例(図3)も経験したことから使用しておらず、腹部・骨盤部領域でのみ、必要に応じて使用しています。


図3.SSRF併用による肝臓メタの欠損事例(脂肪抑制;STIRのみ(左),STIR+SSRF(右))

【当院のDWIBSルーチン】

放射線科医師の指示に基づき、現在の撮像シーケンスとしては、

Localizer/DWIBS Head(Axial)/DWIBS Chest(Axial)/DWIBS Abdomen(Axial)/DWIBS Pelvis(Axial)/T1WI Head(Axial)/T1WI Chest(Axial)/T1WI Abdomen(Axial)/T1WI Pelvis(Axial)

を撮影しています。

検査所要時間は、ポジショニング5分・DWIBS撮影15分・T1WI撮影10分で、総検査時間は30~40分程度です。

後処理でFusionを行うため、DWIBSとT1WIは各stationで同一スライスを撮影します。Fusion画像は撮影時の座標に基づき、TIWIの画像上にDWIBS(カラー表示)を載せたもの提出していますが、撮影条件の改善に伴い、構造物同士の位置が正確に重ね合わされたFusionが実現できています。(図4)

図4.Fusion画像(DWI AxialとT1WI AxialのFusion.肺野レベル(左),上腹部レベル(右))

【3T装置における特色】

3T装置によるDWIBSは1.5T装置に比較し、磁場強度に伴う共鳴周波数や磁化率変化等の違いにより歪みが強く発生する点、脂肪抑制効果が得られにくい印象があります。

しかし、撮影自体は専用coil(図5)を使用するため比較的簡便です。

今後3T MRI装置を導入する施設が増えていく中、歪みや脂肪抑制不良を克服することで、3T MRI装置によるDWIBSはさらに価値を持つのではと考えています。

図5.DWIBS専用coil
Head Array coil(A),Body AA coil(B),Lower limb coil(C)を組み合わせて使用します。

【放射線科医師からの評価】

当院の放射線科医師からは、リンパ節がおおむね高信号となる点で特異度が低いものの、解剖と機能の両方を一度に撮像できる点、分解能が高い点、PETと同等の陽性描出率を有している点で有用であるとの意見を頂いています。

また、骨シンチグラフィでは薬剤の高集積が数年間継続しますが(骨生成の働きが継続するため)、DWIによる高信号は癌細胞が無くなれば消失するため、フォローアップとしての有用性に優れると言えます。

【DWIBS検査が有用だった症例】

実際に経験した中でインパクトのある症例を図6に提示します。当患者は全身倦怠感の訴えから救急受診され、緊急で単純CTが施行されたのち、MRIにてDWIBSを施行した例です。図の青丸の高信号は単純CTの読影にて指摘のあった転移巣、赤丸の高信号は直後に撮影したDWIBSの読影で新たに指摘された転移巣です。この後、読影医と単純CT画像を見返しましたが、単純CTでは指摘することができない転移巣を明瞭に描出していたことを確認し、DWIBSの有用性を再認識した一例となりました。

【自己紹介】

国家公務員共済組合連合会 横浜南共済病院 南 広哲(ミナミ ヒロアキ)

技師歴9年目、MRIを経験して早3年が経過しました。当初は戸惑うばかりでしたが、少しずつ理解できることが増える中で、非常に面白い分野であることを今まさに実感しています。

Chief Editor’s Comments

放射線科医と相談しながら、臨床の場で使っていこうという継続的な努力に敬意を評します。表面の脂肪抑制が不良な状態には改善の余地があると思いますので、ぜひこれからも頑張ってください。SSRFのような選択励起(あるいはSSGRのような技術)は、B1不均一の影響を受けますので、画像をみて判断できるのはとても大切なことだと思います。

実際の読影では、DWIBSが撮れればそれで善しではなく、T1WI(IP/OP)、STIR、T2WI、thick slice のMR-hydrographyなどとの組み合わせも重要です。これらの点について、医師・技師の二人三脚で、十分なトレーニングをぜひ積んでいっていただけると良いと思います。

ひとたび臨床の場に導入できると、がんの患者さんの経過観察において、とても有用で、かつ身体にやさしい選択肢ができます。現場で情熱を持って導入に向けてがんばってくださる技師さんには、心より敬意を評します。自分たちががんになるときが、男は63%、女は45%の確率で、やってきます。そのときに「自分ならどうしてもらいたいか」と考えると、やはりDWIBSは、そこに選択肢として存在して欲しいですよね。私は造影CTを2回受けたことがありますが、その経験からは、「自分が担癌患者になったら、毎回受けるのはさすがに嫌だなぁ」というのが偽らざる感想です。

もちろん患者になったらPET検査は受けます。ただ、そのときに、平均で3mSvしか被曝しなくても、前立腺や子宮には2倍、また膀胱には10倍(30mSv〜40mSv)の局所被曝をすることも、僕らはその事実を知った上で受けたいと思います()。

・・・・

この場を借りて皆さんにご連絡です。いま、DWIBSを用いて全身の検診をしている施設が見られますが、院内に放射線科医がいないところで、臨床経験が乏しいままで検診を無責任に始めるところがあることにとても心配しています。少なくとも3年程度、また件数では年50件程度の経験は必要です。

遠隔読影会社が読影を担当しているところもあるのですが、レポートを見ると、画質への言及や改善の必要性を全く述べずに、「(異常が)写っていない」とだけ述べているものに、稀ならず遭遇します。これは当然といえば当然で、遠隔画像診断会社は「そこに写っているかどうか」を指摘すればそれで責任を果たしたと考えるからです。実際に臨床導入した施設は実感できると思いますが、「パラメータコピーだけ行って、いきなり始めること」また「画質の向上についてのフィードバックを行わないで検診をすること」これらは非常に危険です。

検診は、繰り返し患者さんが病院に来る外来(臨床)とは全く違います。一度「癌がありません」と伝えると、その受診者はがんがないと思い込んでしまい、不幸な結果を招くこともあります。NPVを高めるためには、十分な臨床経験と、フィードバック(結果の把握)、反省、改良などを組み合わせて行うことが大切です。特に画質のチェックができない状態(監督者がいない状態)でこれを強行するのは危険ですので、その点をぜひご勘案いただき、謙虚に進んでいただければと思います。

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Takahashi Mitsuyuki国家公務員共済組合連合会横浜栄共済病院放射線技術科

投稿者プロフィール

診療放射線技師歴はなんと37年となりました。技師人生も最終章ですね。現在は病院の技師長職を行っています。お昼の食事交代にMRI業務をおこなっています。まだまだ現役ばりばりばりです(笑)。宜しくお願いします。

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