背景
皆さん、「FOCUS」はご存知でしょうか?「FOCUS」とは2D RF Excitationを利用した局所励起技術です。
撮像対象の任意の部分だけを励起し撮像領域とすることができますので、FOVを絞って撮像した際、その外側に被写体があったとしても画像の折り返しアーチファクトは起こりません。本法はDWIに併用することができ、子宮体癌や子宮頚癌の深達度の診断への有用性などが報告されています。
しかし、「FOCUS」はある程度のスペックの装置でないと搭載することができないため、搭載していない装置も少なくありません。実際に当院で使用していたSigna Excite HD Ver.12では使用することができませんでした。
そこで何とかして「FOCUS」のようなDWIの撮像をしたいと考えて編み出したのが「FOCUS-like DWI」です。
方法1
DWIは通常その歪みを抑制するためにparallel imagingを併用します。それによりk-spaceの位相サンプリングを間引くことができます。
例えば、parallel imagingのreduction factorを2.0とした場合、位相方向のk-space充填距離(Δk)は2倍に広がり、このΔkが広いほど歪みが小さくなります。(Fig.1)
しかし、本手法ではあえてparallel imagingを併用せず、その代わりに位相方向のFOVを周波数方向のFOVの半分としました。位相方向のFOVを半分とするとΔkは2倍に広がり、parallel imagingのreduction factorを2.0とした場合と同じk-spaceの充填法となります。
つまり、DWIの歪みを抑制した上に、位相方向のFOVを小さくし高分解能DWIを実現する下地ができるわけです。
方法2
方法1において位相方向のFOVを半分にしたことで、FOVの外側の被写体が折り返しアーチファクトとしてFOV内に描出されてしまいます。
そこで、この折り返しアーチファクトを防ぐためにsaturation pulseを位相方向のFOVの外側に印可します。
折り返しアーチファクトの素となる被写体の信号を抑制することで、アーチファクトの発生を抑制するわけです。(Fig.2)
症例
Fig.3に示す前立腺癌症例(b=2000s/mm2)では赤矢印の癌は容易に指摘できます。しかし黄矢印は確信をもって癌と指摘することが困難です。
それに対し、FOCUS-like DWIでは分解能が向上したことにより、黄矢印も癌であると考える確信度があがります。
Fig.4は腎梗塞の症例です。FOCUS-like DWIは本家「FOCUS」と同様に様々な断面で撮像可能です。
本症例では腎梗塞に陥った左腎臓にターゲットを絞って高分解能のDWIを撮像することで、容易に梗塞巣の範囲を把握することが可能になっています。
応用編
FOCUS-like DWIは位相方向のFOVを半分にすることでSNRが低下してしまうため、高いb値を設定することは困難です。
使用装置により異なりますが、当院のSigna Excite HD Ver.12での落としどころのb値は800 s/mm2でした。b=800 s/mm2は決して高い値とは言えず、特に前立腺のようなultra-high-b valueが推奨されるような臓器には適していません。またT2-shine-throughの影響も懸念されます。
そこでこれらの問題点を解決するために、お勧めするのが、computed-DWI(cDWI)の併用です。
Fig.3で示した前立腺癌症例にcDWIを併用しb-valueを大きくすることで正常前立腺と前立腺癌のコントラストが明らかに向上していることが分かります。(Fig5)
同様に、Fig.6の直腸癌症例では、b=800s/mm2では腫瘍以外の部分も高信号を示し、腫瘍と周囲との分離は不明瞭ですが、cDWIによりb=1500 s/mm2とすることで明瞭化しています。
まとめ
本手法は、比較的スペックの低い装置でも「FOCUS」のようなsmall FOVのDWIの撮像が可能とします。
分解能の良い画像が得られるため、小さな腫瘍の検出や腫瘍深達度の評価などがより正確になることが期待でき、追加撮像として有用であると考えられます。
ライター紹介
中 孝文(社会医療法人財団 石心会 川崎幸病院)
MRIに携わるようになって約17年目になります。当初はこれほど長く携わるとは思いませんでしたが、神奈川GE MRのユーザ会のメンバー、そして職場の仲間との貴重な出会いが現在まで私を支えてくれています。皆様のご協力のもと、今後も頑張っていきたいです。
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