◆ヘリウムレスの新型装置(Blue Seal)
PhilipsのMRIは、ISMRMでコンセプトを発表した、ヘリウムレスの新型装置の実機展示がなされていました。
従来の装置では以下のように、通常は1500Lのヘリウムを必要とします。
ヘリウムは需要の増大と供給不安があり、価格は10年前の少なくとも2倍以上になっているようです。
仮に単価を2500円〜3000円/Lとすると、375〜450万円程度かかることになります。もし病院原因でクエンチさせたら、これに作業代金が入るので、損失は大きいですね。
新型装置では、これがわずかに7Lになるそうです↓
これができるのは、コイルの材質に「ニオブチタン」というきわめて熱伝導性が良いものを使うため、Heが通る細いチューブを、コイルの間に這わせることで、コイル全体を超伝導可能な温度まで冷却できるとのこと。
かつ、完全シール(完全ゼロボイル)になるので、再充填がまったく不要になるわけです。
当然、緊急排出用のクエンチパイプが要らないということになりますので、病院内に配管を通す必要がなくなります。また1トン近くも軽くなるため、ビル内の高い階に導入できる可能性が高まります。
さらにMRI室内に酸素濃度計を設置する必要もなくなります(ヘリウムが大量にMRI室内に爆発的に漏れると、酸素がなくなるため、MRI室内には酸素濃度計が具備されている)。これは画期的ですね。
更に、超電導状態を停止させるのは、ふつうは数日かかりますが、AIコントロールで上手に温度を上げるので、一日以下で作業ができるとのこと。病院はダウンタイムを嫌います(その間は患者さんが撮影できない)ので、経営的にもメリットがあることになります。
実機はこのようで、上に突出している部分(ヘリウムのコンプレッサーやクエンチパイプを入れる)がありません。
↓ このような仕組みを “BlueSeal” と呼んでいるようです。
◆ 便利・快適装備
指でタッチして撮影する部位をisocenterに持っていけたり、ガントリ側面に生体モニタが具備されていたりします。
これは、iPhoneの3D顔認証のように、光学カメラで胸壁の位置を見て呼吸モニタができる機能(VitalEye)
自動で呼吸の動きを検知して、このように呼吸同期ができます。
(Axialだけだとわからない(どうにでも表示できる)ので、スライスは厚いけれどCoronal MPRして品質を見せているDisplay = 偉い!!)
内部に入るときは、鏡で外のディスプレイを見ることができ、閉所恐怖の人でも受けやすくなっています(In-bore experience)
また、形状記憶のマットレスを装備して、スキャン中に背中が痛くないようになりました。
◆Release 5.6ソフトウエア
説明をしてくださった勝又さん。とても情熱を持って仕事をしてくださる方で、皆が信頼しています。
今年はRelease 5.6ソフトウエアが発表になりました。非常に沢山ありますので、かいつまんでリストします。
- Spiral Brain: SEとFFEシーケンスに対してSpiral状にk-spaceを充填することで高速撮像を可能とする技術。主に造影後のT1W-SEにおいて血管からのフローアチファクトの低減や3D-Inflowの高速化に持ちいられる。
- IRIS-ZOOM: ZOOM DWIにおいて位相エンコード方向をmulti-shot化することで歪みを低減する技術。
- bFFE-XD: Phase cyclingを用いてバンディングアーチファクトを抑制する技術
- Diffusion XD TSE: SPLICEというSpin EchoとStimulated Echoの両方の信号を受信する技術を用いることで従来よりも高信号のDiffusion TSE画像を取得できる。
- k-t SENSE: 従来の時間軸をUndersamplingを行うk-t BLASTに対し、コイル感度分布を用いることで更なる画質を得ることができる。主に心臓のシネ画像やPerfusion画像に用いられる。
- Cardiac ZOOM: 励起パルスと再収束パルスを直交して印加することで局所的に選択することが可能な技術。位相エンコード方向のFOVを絞ることが可能。主に心臓のBlack Blood撮像で用いられる。
- Retrospective EPI: EPIやTFE-EPIシーケンスにおいてもRetrospective triggeringが可能となり、比較的撮像時間の長い4D Qflowの撮像時間短縮の目的で用いられる。
- 3D non-selective: 3D撮像においてBlock RF pulseを用いることでスライス選択を行わず励起する技術。RF pulseの印加時間が非常に短くなることからTRとTEを短縮することが可能となり撮像時間の短縮や磁化率アーチファクトの低減に繋がる。主に冠動脈撮像(Coronal収集)に用いられる。
- 2k DTI: 最大1024の異なるb-factor、b-directions、最大2048のdiffusion vectorsを設定することが可能となった。主にMulti-shell DTIなどに用いられる。
- Advanced gradient duration: Diffusion gradient durationを最小値や最大値、もしくは任意に設定することが可能となる。主に研究目的として用いられる。
- sLASER: MRSにおいてケミカルシフトによる位置ズレを低減し、より精度の高い信号を取得する技術。
- VAPOR: MRSで重要なWater suppressionの技術で、新しいRF pulseと最適化されたT1-recovery delay timeを用いることで、従来法よりも水信号を堅固に抑制することが可能となる。
- MEGA: MRSにおいて他の代謝物からのスペクトル重複を除去することで、GABAなどのJ-coupling 代謝物の定量化を可能とする技術。
iQon CT
CTのほうは、もう革命的にすごい「すべての症例にSpectral CTで撮影できる」iQonCTには変更がないとのこと。CTとしてハイエンドで価格が高いにも関わらず、日本でも20程度の施設に導入されたそうです。
その結果、RSNAでもこんなにたくさんの日本からの発表があるとのこと。これはすごいと思いました。
いろいろなレポートが世界からでていて、診断までの時間が34%少なくなり、経過観察の(他のモダリティのスキャンが減るなどして)453ドル/回の医療費の削減ができたり、25%の追加スキャンがなくなったりという効果があるそうです。Philipsのサイトに、片平和博先生などが登場するiQuon Case Studyがありますが、あれを見ていると確かにそうだろうなぁと思います。
↓世界のサイトから、20%のCT再検査が減った、30%以上他のモダリティの検査が減った、診断の確信度が上がった、などの報告がなされています。
そのほか、Calcium suppressionが好評とのこと。まるでSTIR画像のような絵が得られていますね。
以上でフィリップスブースの報告を終わります。
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