Crazy Abbreviated MRI!

みなさんはAbbreviated MRI(あぶりびえーてっどMRI [発音(abbreviate)],短縮MRI、省略MRI)という名前を聞いたことがあると思います。AB-MRIとも称されます。

独のクール(Kuhl)教授が提唱したもので、造影MRIの早期相と、造影前画像をサブトラクションし、これをMIPで観察する方法です。造影MRIを検診に持ち込むために、短時間での検診方法として工夫されたものです。ここで言う「短時間」が、「検査も読影も短時間(で済む)」というところがエポックメイキングです。

このAB-MRIで提唱した手法には、以下の重要なポイントがあります。

1)アナフィラキシーショックの危険があり、コストが高いことから、生涯乳がんリスクが高い人(例:> 25%)に限って行う。

2)読影時間を短縮するために、MIP画像で閲覧する(⇒有所見のときに限り元画像も見る)

3)どんな機種でもうまくいくように、サブトラクションする(Kuhl先生のものは脂肪抑制なしのシークエンスで行う)

Crazy Abbreviated MRI

ところが3)について、サブトラしないでも良いと考えている放射線科医がいて、それも教育的なところで発表していると聞き、ものすごく驚いています。

このページを読んだ人は、そんなおバカなことは決して考えないでください。

「脂肪抑制をきちんとすればサブトラしなくても良い」は超無責任

「脂肪抑制をきちんとすればサブトラしなくても良い」といった意見がありますが、これはとても無責任です。Kuhl先生は、どんな機種でもなるべく同じように評価できるように、サブトラを提唱しているのです。全体安全を考えるとき、自分の施設だけは良(ければい)いと思うのは間違いですし、そもそも、どんなに優れた装置でも、CHESSで、完璧な脂肪抑制が、全例ですみずみまで得られること、は難しいです。

証拠を見せましょう。撮像装置はシーメンス Skyra 3.0T。
造影後早期相。とてもキレイに撮影されています。

それではMIP画像はどうでしょうか。そのままMIPして示します。どう思いますか。

↑ 上記の画像で、なにも感じないなら、正直失格です。MRI自由自在の、p.84〜88とか、p.93〜94、98〜99などを読んで下さい。

・・・では次にサブトラを示します。

サブトラするとこんなに違う

上段がサブトラなし、下段がサブトラのMIP画像です。

↓は、拡大像。左:早期相(MIP) vs 右:早期ー造影前のサブトラ(MIP)

説明の必要もないぐらい明白な差があります。造影されている血管や小結節が、残存脂肪信号により見えません。こういったことを生じるので、サブトラしなくてはならないのです。 なお、ここまでなら誰でも分かることと思います。もうひとつ、大胸筋の信号も低減できているのは気づきましたか。こういうことに気づくのも、制度設計する人に必要な、大切なセンスなのです。「脂肪抑制」と固定観念で考えるのはマズイ訳です。つまり、当たり前ですけれど、画像がすべて。画像を隅まで見て、病変を描出するためにどうしたら良いかを一生懸命考える。そして、画像だけでもダメ。目的を考えて、その達成のためにバランスを考えるこことが要求されます。

ちなみに「元画像見ればいいんじゃない?」と考えた人は、AB-MRIの意味がまったく分かっていません。それは単なる精査の造影MRIです。

大量の患者を閲覧するためのスクリーニングとして成立させるために、「読影効率を考えMIPで読む」というのがAB-MRIの重要なコンセプトなのです。「MIPで異常がなければそれで終わり」「MIPで見て異常があるなら元画像を見てレポートする」というアプローチ手法であることを再度認識してください。目的があって、それにふさわしい方法を選択することが肝要です。

臨床的コストを分かっているか

ちなみに、サブトラするのは後処理ですから、余分な時間がかかりますよ確かに。

でも今はほとんど自動でできるぐらいのことですから、「技師さんの負担を軽減するために」といったような説明はまったく的を射ていません。つまり、「技師さんの負担経験」と「画像で失われるもの」がうまくバランスされているとは言えません。「サブトラなくしたら何分早く帰れるのか」と聞きたい。

サブトラを自分でしたことすらない放射線科医が増えてきている現況にも危機感を覚えています。

ミスレジストレーションをどうやって回避するのか

ちなみに、サブトラは、当然ミスレジを生じる懸念があります。これが起こらないようにするのが技師の腕の見せどころ。きちんと経験を踏めば、きちんと回避できます。

それでも100%は狙えないかもしれない。このためKuhl先生のところでは、1分ぐらいで軽くロックできる板を使っています(リンク)。こういったことを重要と考えて開発までするのが優れた医師だと私は思います(ちなみにこのまま精密生検まで持っていけます=板で抑えてあれば)。

「動いちゃうかもしれないよね」⇒「じゃあサブトラしなくていいよ」という負のスパイラルに落ちないようにぜひみなさん、レベルを高く保ってください。

なお、ミスレジの原因が平行移動程度なら、それが生じてしまった症例に限って特別な後処理もできますね。例外的な事象は例外的な対処でいくという制度設計も合理的だと思います。

以下は参考です

なぜKuhl先生が脂肪抑制しないのか

Kuhl先生によれば、(1) 脂肪抑制すれば、同じ撮像時間であればスライス厚が厚くなる、また (2) 脂肪抑制は機種を選ぶ、といったことを理由に挙げています。前項に書いた圧迫ができているならばこの方法はとても合理的な解決法と言えるでしょう。

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tarorin東海大学工学部 医用生体工学科 教授

投稿者プロフィール

MRIの撮像・フィルム焼き・患者導入に従事していた経験を活かし、企・技・医の中間の立ち位置を大切にしています。モットーは研究結果を中立的に判断すること、皆で研究成果を愉しむことです。

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