新装置を導入したら救急からの緊急MRI依頼が増えた!
当院では13年使用した国内メーカー1.5T装置からのreplaceで、2013年3月にGE社製Optima 450W(1.5T装置)を導入しました。3次救急病院という背景もあり、動きに強いPROPELLER法は納入前から非常に魅力的でした。そして納入後、各診療科の医師にもその凄さがはっきりと認識されるところとなり、特に救急科からの依頼件数が、日に日に増えていきました。
それまで救急MRIといえば脳卒中を中心とした頭部MRIや脊椎MRIがほとんどでしたが、MRCPや、X線単純写真で骨折のハッキリしない四肢MRIなど、バラエティに富んだ、しかし時には難しいオーダーの撮影依頼がたくさん来るようになりました(泣)。受け手の技師の立場からすると、「エーッそれは無理」と感じることも正直ありますから、現場は大変です! しかし一方、技師の腕の見せどころとも言えます。
「骨折の緊急MRI」・・・どうしよう
骨折の有無を評価するにはT1強調画像と脂肪抑制T2強調画像は必須です。四肢は磁場の不均一の影響を受けやすいため、均一な脂肪抑制T2強調画像を得る目的で、当院では3ポイントDixon法であるIDEAL法を第一選択としています。しかしこのような患者さんは痛みが強く、動くことがしばしばあり、モーションアーチファクトを生じてしまいます。
動きに強い方法としてはPROPELLER法が挙げられますが、脂肪抑制法はCHESS法のみ選択可能であり、均一な脂肪抑制(=脂肪抑制ムラ)を得にくいという欠点があります。
つまり、IDEAL法では動きの影響を受け、PROPELLER法では脂肪抑制ムラがあるという点で、一長一短があったわけです。
そこでSTIR-PROPELLER法を得る工夫
なんとか工夫してできないか?と模索していたところ、既存シークエンスのT1-FLAIR PROPELLER法を変形することでSTIR-PROPELLER法が可能であるということがわかりました。T1-FLAIR法は、IRパルスを用いた水を抑制したT1強調画像です。通常はTI750msですが、ここをTI180ms程度に設定します。パラメータ-は動きに強くするために受信バンド幅を広く設定することと(BWを±62.5~83.3kHz/FOV)、受信コイルは感度領域を極力狭くしてover samplingを少なくすることにより(簡単に言えば、折り返らないようにする)実効BLADE幅を広くすることが重要です。下記にover sampling:1と2のk-spaceの充填方法を示します。実効BLADE幅を広くすることでも動きに強くします。
また動きの抑制向上を目的にETLを多めに設定するためにMT効果の影響が強くなるためにrefocus flip angleは130°程度にすることで影響を抑えています。
STIR-PROPELLER法の整形外科領域 臨床応用
STIR-PROPELLER法(画像左端)では他の画像と比較して、脂肪抑制効果は良好です。また、通常のFSEやIDEALに見られる腸管の蠕動運動のアーチファクトや血管のフローアーチファクトも目立ちません。◯で囲んであるところを見て下さい。
肘関節でも、STIR-PROPELLER法(画像左端)の脂肪抑制効果は良好であり、モーションアーチファクトも抑制されていることがわかります。
大腿骨頚部骨折疑いでの検査は、恥坐骨骨折など思わぬ所に病変がある場合が多いですが、脂肪抑制、モーションアーチファクト抑制が良好なSTIR-PROPELLERは非常に有効です。(画像右)
ご覧のような輪状靭帯・外側尺側側副靭帯損傷や橈骨遠位端骨折・舟状骨骨折な症例においても脂肪抑制効果、モーションアーチファクト抑制効果共に非常に良好でした。
最後に:反省と気付き
最近の装置は非常に性能が高く、撮像パラメータも導入時にはかなりカスタマイズされた状態ですから、一昔前のように撮像条件をイチから組むことが少なくなりました。今回のPROPELLERシークエンスも普通に考えればIR法のTIを変えるだけですから全く難しいものではなく、いわば当たり前のことです。
便利になり情報過多のこの時代においても創意工夫すること、そして基本を大事にしなければならないということを再確認しました。MRIにはまだまだ眠ったお宝が沢山隠れているはずです、みなさもん宝探しをやってみませんか!!
ライター紹介
国家公務員共済組合連合会 新別府病院 MRI歴29年の加藤 広士とMRI歴4年の阿比留 健太郎です。MRIって何年やっても次から次へ分からないことが出てきて奥の深さに驚かされています、だから楽しいんでしょうけど。趣味は?と聞かれたら迷わず「MRIです!」って答えます(笑)これからも明るく楽しく激しいMRIをもっとうに頑張りますので学会などで見かけたら声をかけてください。
加藤 広士
阿比留 健太郎
Chief Editor’s Comments
シークエンスには名前が与えられますが、これが「画一的な結果をもたらす名称」と考えると、今回の気付きはないのですね。その意味で、基本的な工夫ではありますがとても興味深く、楽しく拝読しました。
ちょうとMRCPの話が前振りにでてきますね。
MRCPというと「MRIを使った胆管膵管撮影」という画一的な画像に考えがちですが、「Long TEの、厚みの厚い、シングルスライスの、脂肪抑制T2強調画像」といった捉え方をすれば、厚みを変えたり、Cineで撮影できますね。ちょっと考えただけでも、
【MRCP=シングルショットで・Long TEの・スライス厚の厚い・T2強調画像】
- 唾液腺(Sialography)
- MRU(Cineでもできる)
- 腹水検出(肝硬変や腹膜播種のときに)
- 浮腫の検出(筋肉の浮腫の分布)
- 古くは片田和廣先生のSAS (Surface Anatomy Scan=脳表撮影)
といったバラエティが出てきます。こういったことは、以前はとてもよく利用されてきましたが、現在は、「ボタンピコ太郎」みたいな仕事になりがちです。DICOM画像のウィンドウ、最近ではすべての画像においていじらなくてはならないことが増えてきたなぁ(=技師が事前に調整せず、画像を全く見ていないことが、実は如実に分かる=名前を見るといつも同じ人)、と残念に思っています。
ここまで読み進んだ技師は、、、、そんなことはないですね!
相手から依頼を受けることは、ときにとても大変です。僕も現場で交通整理をしていた時代が長かったのでよ~く分かります。でも、患者さんと依頼元に感謝されてはじめて役立つ世界。ぜひ皆さん、持ち前のファイトと知識をフル活用して、頑張ってください。エールを送ります。
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