高分解能 息止め3D_MRCP

皆様はじめまして。三重県立総合医療センターの寺林諒です。Gyro Cup 2024で発表したPatrasche(using pause scan and triggered heart rate scheme)という「pauseボタンと脈波同期」を利用した撮像方法について、ご紹介させて頂きます。

呼吸不良による画質低下

3D_MRCPを撮像する際は、呼吸同期を用いて呼気で撮像する事が一般的です。しかし、呼吸が不規則だとアーチファクトが出現する原因になります。息止めの3D_MRCPでも画像は得られますが、呼吸同期を使用した画像と比較すると、分解能が下がります。

分解能を保つために

呼吸同期を用いたMRCPの撮像条件で、そのまま息止め撮像しようとすると、長い時間の息止めが必要になり、現実的ではありません。しかし、それを可能にするのがpauseボタンと脈波同期です。

長い息止め時間は、pauseボタンを使用して、息止めを複数回に分割してしまえば、1回の息止めが短くなり、撮像可能な時間になります。しかし、そのままpauseボタンを使用してもスキャンが止まらず、最後までスキャンが進んでしまいます。また、息止めを複数回に分割する場合、患者さんに毎回同じ所で息止めをしてもらわないと、解剖学的な位置ズレが起きてしまいます。

これらを解消するために、脈波同期を併用して、gate&trackを使用出来るようにします。
脈波同期を使用しているので、TRは心拍によって設定されます。HR60でTR1000ms程度になるので、TRを2beatに設定します。これによって、pauseボタンを使用したときに2beat毎にscanを止めることが出来るようになります。

Fig.1は横隔膜のモニタ例になります。青線がGateで、赤い点が横隔膜の高さです。息止めをしたときに、赤い点(横隔膜の高さ)が青線(Gate)の間にあればデータを収集します。青線の外に赤い点がある場合、そのデータを省く事で、位置ズレの少ないデータを得る事が出来ます。また、trackはこの青線の間の赤い点の微妙なズレを補正する機能になります。これで息止めを複数回に分割しても、位置ズレの少ないデータを得る事が出来ます。

Fig.1 横隔膜のモニタ例

実際の撮像

あらかじめ患者さんにPPUを装着し、マイクを通してマニュアルで患者さんに息止めの合図をします。息止め後にscan startボタンを押すと、2beat事にスキャンしていきます。息止めが苦しくなってきた所で、pauseボタンを押してスキャンを止めて、マイクを通してマニュアルで息を楽にしてもらうように伝えます。これを繰り返していくと、息止めでも高分解能な3D_MRCPを撮像する事が出来ます。この方法の特徴は、スキャンのstartとpauseを技師側で決める事が出来ます。つまり、息止め時間と分割回数を自由に設定出来るので、患者さんの息止めに合わせて撮像する事が出来ます。また2beat毎にスキャンしているので、約2秒毎に横隔膜の位置を確認しながら撮像する事が出来ます。Fig.2はボランティアのMRCP画像です。このときの息止めはFig.1になります。

Fig.2 ボランティア画像

精度を上げる

鮮明な画像を得るためには、位置ズレを最小限に抑え、撮像位置の精度を上げる事が重要になります。つまり、Navigatorの設定が重要です。gating windowを小さくすると青線(Gate)の幅が小さくなり、より限定的にデータを収集します。また、Navigator lengthを小さくする事でNavigatorの頭尾方向が短くなり、横隔膜モニタの空気と横隔膜の境界を拡大して観察できるので、SNRが充分にあれば、横隔膜の位置を装置に認識させやすくなります。

Fig.3はCINEの加算画像です。加算画像としたのは、肺紋理を避けてNavigatorを設定する事で、横隔膜モニタの空気と横隔膜のコントラストが高くなり、Navigatorの精度を上げる事が出来るからです。また、CINEで可能な限り横隔膜の動く方向に平行、かつ横隔膜に対して垂直になるようにNavigatorを設定すると、横隔膜モニタの空気と横隔膜のコントラストが高くなり、さらに精度が上げる事が出来ます。

Fig.3 CINE加算画像

最後に

息止めは、人によって、少しずつ息を吸ったり吐いたり、中には、こっそり一回息を吸って止めていたり、息は止めているけど少しずつ横隔膜が動いているなど、様々な患者さんを観察する事があります。息止めをリアルタイムで観察する事は、あまりないと思います。自分の息止めの合図を見直す機会になるので、ボランティアで是非一度試してみてください。息止めの合図って意外と難しいですよ。

ライター紹介

三重県立総合医療センターの寺林諒です。

優しい方々に助けられながら、トライ&エラーを繰り返してきました。気が付けばMRIに従事して15年以上経ちます。今は少しでも何か改善出来ないか考えて、楽しんでいる毎日です。そんなMRIの楽しさを、たくさんの方々と共有できたらなぁと思っています。

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Tachikawa Yoshihiko唐津赤十字病院 医療技術部 放射線課

投稿者プロフィール

MRIの魅力に完全に沼っています。
新しいアイディアを生むために、先人の方々の創意工夫から学んだ知識と想像力を活かし、固定概念に捉われすぎないように心がけています。今後もMRIを通じて出会う方々との繋がりを大切にしながら、皆様にとって少しでも有益な情報を発信していけるように精進いたします。

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