SIGNA甲子園2021 銀賞 芳珠記念病院 別所貴仁さま おめでとうございます!!
MRIfan.net編集委員かつSIGNA甲子園2021実行委員長を務めさせて頂きました、森山脳神経センター病院の堀大樹です。
SIGNA甲子園2021で銀賞を受賞されました芳珠記念病院の別所さまに演題の解説記事をご投稿頂きましたので紹介したいと思います!
では、別所さまの記事をお楽しみください。
はじめに
特発性正常圧水頭症(iNPH)は、脳室拡大を来す先行疾患がなく、認知障害、歩行障害、尿失禁のいずれかの徴候を有し、「脳室拡大があるが髄液圧は正常範囲内で髄液シャント術により症状改善が得られるもの」と定義されています。髄液シャント術が有効かを選択するために、髄液の流れの観察が重要となります。
脳脊髄液(CSF)の循環動態を可視化する方法としては、Canon社のTime-SLIP法が広く知られています。Time-SLIP法は、背景信号全体を抑制しラベリングパルスをかけ、TIを変化させることでCSFの循環動態の評価を行います。しかし他メーカーの装置では、TIを変化させながら撮像を行うことができなかったり、TIの設定範囲などに制限がかかるため、同じように撮像することができません。
従来のCSFの循環動態を観察する方法としては2D-PC法が知られていますが、静脈の信号が目立ってコントラストがつきすぎてしまい、形態情報がわかりにくいという欠点があります。そこで、GEの装置でもCSF Flow Imagingを撮りたいという想いから、今回SIGNA甲子園2021で銀賞を授賞した「CSFの拍動の様子を画像化する方法」を紹介します。
CSF Flow Imaging撮像の工夫
シーケンスは 脈波同期併用SSFSE(single shot fast spin echo)T2WI Multi-Phaseを用います。
図1に示すように、中脳水道~第4脳室にSATパルスをかけて背景信号を抑制することで、中脳水道を流れるCSFの観察ができます。また、第3脳室にSATパルスをかけてややオブリークで撮像することで、モンロー孔の交通の評価と中脳水道から第3脳室内への逆向きのFlowを観察できます。
図1
撮像ポイントのまとめを図2に示します。
図2
CSFは心拍や呼吸の影響を受けるため、脈波同期併用でTrigger Delayを変化させて、20 Phaseでシネ画像を撮像しました。撮像時間を短縮させるために、RR Intervalを調整してTR = 3000 ms程度になるよう設定すると、1分くらいで撮像できます(3秒 × 20 Phase)。もちろんPhase数を減らせばさらに時間短縮が可能です!
さらに、Fast Recovery(FR)を使用することで、T2コントラストを維持しながら撮像時間の短縮を図っています。ご存じの通り、FR法では180°パルスでエコーを収集した後に、-90°パルスで横磁化を強制的にZ軸に戻して縦磁化を回復させるので、T2の短い組織では小さい縦磁化にしかならないのですが、T2の長い組織では大きな縦磁化になるため、FSEよりT2依存性の高い自由水が強調されます。また、回復していたT2の短い組織の縦磁化が-90°パルスによって強制的に抑制されるので、脳実質のコントラストは低下しますが、CSFと脳実質のコントラストは上昇します。
また、T2減衰によるブラーリングのアーチファクトを抑制するため ASSET 2.0 を使用し、位相エンコード数を減らして、バンド幅を広めに設定しています。
TEを150 msとやや長めに設定して、T2緩和の影響が少ないCSFを強調しました。「ギリギリCentricオーダーになるやや長めのTE」というのがポイントです。コンソール上では表示されないのですが、GE装置では設定したTEによって、k空間の充填方法がReverse linearとLinearのどちらかに自動で切り替わります。
Single shotシーケンスのk空間の充填方法はハーフフーリエ法が用いられ、k空間の約6割を埋めます。k空間の端の高周波成分が分解能に影響すると言われていますが、Centricオーダーのように強いエコー信号でk空間の中心を埋めた方が画像はシャープになるので、「ギリギリCentricオーダーになるやや長めのTE」を選択しました。
臨床画像①
DESHとはくも膜下腔の不均衡な拡大を伴う水頭症のことであり、特発性正常圧水頭症の大半を占め、DESH所見を有する症例はシャント術の効果が期待できると言われています。
図3に示すように、CSFがMonro孔から第3脳室内に、さらに中脳水道へと流れた直後に、中脳水道から第3脳室内への逆向きの大きなFlowが生じていることが、本手法によってわかりました。これは吸収障害によりマジャンディ孔、ルシュカ孔が拡大し、くも膜下腔の圧が高まっているためだと考えられます。
図3
臨床画像②
図4は、左小脳血管芽腫による非交通性水頭症の症例です。T2強調Axial画像にて、血管芽腫が第4脳室を圧排していることがわかります。
CSF撮像をすると、中脳水道へのFlowはほとんど観察できませんが、第3脳室開窓術後なので、橋前槽にCSFのFlowが認められます。また、第3脳室底からの逆向きのFlowも観察できています。
図4
画像評価
本手法によって、中脳水道から第3脳室内への逆向きのFlowもしっかりと可視化できており、CSFの動きは単純な一方向性の流れ(bulk flow)ではなく、脳室とくも膜下腔のスペースをCSFが拍動(to-and-fro)で動いていることがわかる画像を得ることができました。
正常圧水頭症の診断は症状と形態情報がメインですが、髄液動態の評価が新しいアプローチとなる可能性があると考えられます。また、強いCSFのFlowは頭蓋内の圧が高くなり脳の障害が強いことを意味するので、シャント手術が有効である可能性が高いと思われます。
まとめ
脈波同期併用SSFSEのMulti-Phase を用いて、T2強調による脳脊髄液の高信号化とSATパルスを利用して髄液動態の可視化が可能となりました。
水頭症患者の髄液障害の有無やシャント術の適応評価や開窓術の術後評価に有用であると考えられます。
今回考案した手法ですが、Fast recovery single shot FSE heavy T2 Weighted CSF Flow Imagingなので、頭文字を取り、Fresh T2W CSF Flow Imagingと名付けました。Freshには新しいという意味もあり、この手法が脳脊髄液動態の解明につながれば幸いと思います。
ライター紹介
医療法人社団 和楽仁 芳珠記念病院の別所貴仁です。技師歴15年、MRI歴13年です。CTや血管造影を含むマルチモダリティ担当なので、MRI専従ではありませんが、投稿の機会を与えてくださりありがとうございます。
MRIは未知に溢れていて、苦しくもあり、楽しくもあります。MRIを通じて、医学の未知を既知に変えて、いきたいと思います。
コメント
トラックバックは利用できません。
コメント (0)
この記事へのコメントはありません。