はじめに
皆さんご存知の通り、Gd-EOB-DTPAは2つの有用性を持っています。一つは従来のガドリニウム造影剤と同じくDynamic撮像により血流動態を把握できること、そしてもう一つは静注後15~20分程度で肝細胞造影相を得られることです。肝細胞造影相は、Gd-EOB-DTPAが正常な肝細胞に特異的に取り込まれ、正常肝の信号が上昇した相を指します。多少のpitfallは存在しますが、肝細胞造影相において信号が上昇しない領域には“正常な肝細胞がない”≒“病変がある”ことになるため、高信号な正常肝の中から低信号の病変を探すことができるのです。
EOB排泄経路の信号に着目
上記のように、肝細胞造影相では正常な肝細胞が存在しない領域を探すことができますが、それ以外にも肝臓自体の信号上昇の程度を利用(肝機能が良い患者さんほど沢山のGd-EOB-DTPAを取り込んでより信号が上昇)して肝機能を推定する手法が多数報告されました。(Relative enhancement of the liver(=肝臓に対する相対造影比), Quantitative liver-spleen contrast ratio(=定量的な肝臓脾臓コントラスト比)等)
静注されたEOBはその約6割が尿中から、残りの約4割が肝細胞に取り込まれた後、胆道系を介して糞中に排泄されます。我々は正常な肝細胞への取り込みだけでなく、この排泄経路の信号に着目し、肝機能との相関を調べてみました。
Fig.1)肝機能障害及び肝腫瘤性病変が疑われた139例を*Child-pugh分類、**MELD score、***APRIにおいて、それぞれ肝障害度別に2群に分離。
Fig.2)肝前区域、脾臓、脊柱起立筋、左右肝管、総肝管、胆嚢管、総胆管にROIを設定し、胆道系信号を脊柱起立筋で除したSIRをそれぞれ算出。
(Fig.3)胆嚢管及び総胆管のSIRが、Child-pugh、MELD score、APRIの全てに対して有意な相関を示した。
(Fig.4)MELD scoreの上昇(肝機能の低下)に伴う胆嚢管のSIRの低下が視覚的にも明らかである。
肝細胞造影相における胆道系排泄経路(胆嚢管と総胆管)の信号強度が低い場合は何らかの肝障害が疑われるため、是非着目してください。当院の放射線科医師からも、読影時に胆嚢管や総胆管の信号強度を気にするようになったと言われるようになりました。
*Noda Y, Goshima S, Kajita K et al.
Biliary tract enhancement in gadoxetic acid-enhanced MRI correlates with liver function biomarkers. Eur J Radiol. 2016 Nov;85(11):2001-2007.
より高精細な肝細胞造影相を目指して
肝細胞造影相は、脂肪抑制を併用した3D Gradient echo系のシーケンスを呼吸停止下にて撮像するのが一般的であり、呼吸停止がPoorな患者さんを除けば良好な画像を取得することが可能です。しかし、患者さんが呼吸を停止できる時間はせいぜい20秒程度であり、この時間の制約がシーケンスの自由度を制限します。例えば、より薄いスライス厚の画像を望んでも、当院の装置ではSlice Thickness/gap , 4mm/-2mmで90スライスが限度です。息止めを数回に分けてfusionすることも可能ですが、位置ズレが懸念されます。そこで、最近開発された3D Vane(*1)を用いて“自由呼吸下”で“高精細”な肝細胞造影相の取得に挑戦してみました。
(*1)3D Vane: 3D T1-Weighted turbo field echo with golden-angle radial stack-of-stars acquisition.
(Ingenia Cx 3.0T MRI, Philips)
比較したシーケンスは以下の6種類
- 3D Vane with Gate & Track. Scan time about 1.5~3min.
- 3D Vane with Track. Scan time about 1min.
- 3D Vane without Gate & Track. Scan time about 1min.
- Thin slice 3D Vane with Gate & Track. Scan time about 3~5min.
- eTHRIVE without breath hold. Scan time 20sec.
- eTHRIVE with breath hold. Scan time 20sec.
* Gate = 横隔膜Navigatorにて指定した範囲内に横隔膜が入った時のみデータを収集。
* Track = 横隔膜Navigatorにて横隔膜の動きを追従し、位置の補正を行う。
Fig.5) PCモニタ上では分かりにくいかもしれませんが4.のスライス厚 2mm、Gap -1mmの画像は非常に高精細です。
(Fig.6) 呼吸停止がPoorな症例では、自由呼吸下撮像のメリットが特に大きくなります。
3D VaneはTrackのみなら約1分、Gateを含めても約2~3分で、Motion artifactが非常に少ない全肝画像を自由呼吸下にて撮像できます。また、呼吸停止というScan timeの制限がないため、2mm厚 / -1mmGapでの全肝データの取得も可能です。さらに、一般的には111.25度とされるGolden angleではなく、設定条件毎に最適化された角度を用いるPseudo Golden angleの採用により、Radial scan特有のStreak artifactも大幅に軽減しています。肝細胞造影相は、EOBを注入してから15~20分程度待たなければなりません。Dynamic後にT2WI系やDWI等を撮像しても、まだまだ時間的に余裕があります。そこで、その時間を使って自由呼吸下撮像を活用してみてはどうでしょうか? Scanに数分を要するとしても、例えばEOB静注後17分程度から撮像を行えば、Room timeの延長もなく高精細な肝細胞造影相を得られるでしょう。数々の技術革新により、自由呼吸下における上腹部撮像の臨床応用が現実味を帯びてきました。呼吸停止という撮像時間の制約から解放された自由なシーケンス構築は、大きな可能性を秘めています。患者さんの呼吸停止能力にかかわらず、安定的に高精細な画像を得られるRadial scanの進化に今後も期待しています!
筆者紹介
放射線科医師と技師の仲が良く、月2回皆でサッカーしています(^^)/
当院には43名の放射線技師が在籍しており、夜間の緊急対応を含め
その多くがMRI検査に携わっています。皆いい人で楽しい病院です!
岐阜大学医学部附属病院
放射線部 MRI室主任 梶田公博
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