頭蓋内の血管壁イメージング

臨床的な意義  – lumenography vs 血管壁 imaging

脳血管病変の画像診断は従来MRA、CTA、DSAで行われています。これらはいずれも血管の内腔を描出する技術 (lumenography) です。これに対し、最近国内外で高分解能MRIによって種々の病変での頭蓋内血管の壁自体とその病態を描出する血管壁イメージングに関心が寄せられています。内腔の変化は血管壁の異常を間接的に表わしているのに対し、血管壁イメージングではそれを直接的に描出し、その本質に迫るものと言えます。

これまで検討されてきた撮像法

中大脳動脈や脳底動脈の本幹部の壁の厚さは0.2-0.3 mmです。その内部構造を完全に描出する空間分解能の撮像は現状ではかなり困難ですが、近接する血管内腔(血流)と周囲の髄液の信号を抑制し、極力高い空間分解能にしたスキャンによって脳血管の血管壁にコントラストを付けることが可能です。その際には当然SNRの維持や撮像時間も考慮されなければなりません。

これまでT1強調、T2強調、プロトン密度強調といった組織コントラストの各撮像法、さらに2Dと3Dでのデータ収集法が検討・報告されてきました。また最も重要な血流の信号の抑制方法としてSE法、presaturationパルスの印加、double inversion recovery pulseの利用などが報告されています。

最近のトレンド

最近の報告で主流になっているシーケンスは可変フリップ角を用いた3Dでの高速SE法、具体的にはVISTA (volume isotropic turbo spin-echo acquisition; Philips)、SPACE (sampling perfection with application-optimized contrasts by using different flip angle evolutions; Siemens)、Cube (GE)、MPV (multi planar voxel; 東芝)をベースにしたものです。これらでパラメータをT1強調型にした血流信号抑制= black-blood法の撮像が頻用されています。

またこのような撮像法がT1強調型であり、Gd造影剤投与後の画像で病変血管壁に異常増強効果が見られることも注目されています(造影血管壁イメージング)。

血管壁イメージングが有用な病態

1) 動脈解離

日常臨床で比較的遭遇する頻度が高く、椎骨脳底動脈系にしばしばみられます。T1強調型血管壁イメージングで解離を起こした部分は内腔が残存している場合、それと明瞭なコントラストで認められます。症例によってはflapならびに(それで真腔と分けられる)偽腔とが描出されます。解離で壁内血腫が生じた場合、経過を追うと直後には等信号を示し、比較的早期に高信号となってこれが持続する傾向です。また発症直後から、Gd造影剤投与で解離部分とその近傍に異常増強効果がしばしば見られ、診断をより確実にすることができます(図1。従来、動脈解離の診断ではMRAやDSAなどでの内腔の広狭不整(いわゆる “pearl and string sign”)が有名ですが、血管壁イメージングによって解離の状況をより詳細に判断することが可能です。

1 左椎骨動脈解離 46歳男性
発症後3日。3D-TOF法のMRA (A) で左の椎骨動脈の信号がなく、その遠位部には血栓の信号がわずかに見られる (矢印)。

↓造影血管壁イメージング (VISTA法、B) で左椎骨動脈壁のかなりに強い増強を認めるが(大矢印)、壁内血栓の部分はこれを欠く(小矢印)。

2) 動脈硬化性プラーク

頭蓋内の動脈硬化に起因するプラークは頸動脈同様に脂質、血栓性物質、細胞成分、結合組織からなり、大きくlipid corefibrous capからなります。頭蓋内のプラークは血管壁イメージングで壁の肥厚としてみられ、しばしば(全周性ではなく)偏在性にみられます(図2。これまでの中大脳動脈や脳底動脈での検討ではこれらから分岐する血管(中大脳動脈のM1からのレンズ核線条体動脈など)が出て行く部位の反対側にプラークが見られる傾向が指摘されていますが、中大脳動脈で梗塞の原因となったプラークは上壁寄りに多いとの報告もあります。また厚く、表面の不整なプラークが虚血発症のリスクが高い傾向があります。

2 左中大脳動脈のプラーク 86歳男性
左放線冠のラクナ梗塞の発症直後。M1の前下壁に軽度高信号のプラークがみられる(VISTA法、矢印)。

プラーク内のlipid coreはT1およびT2強調型のいずれの撮像法でも高信号を示さない傾向がありコレステロールを主体にした成分がT1短縮を来たしにくいことなどがその理由として推測されています。頭蓋内の動脈硬化性プラークにも造影血管壁イメージングで増強効果がみられ、レンズ核線条体動脈などの閉塞による梗塞の原因になったプラークは概ね一か月ほどの比較的急性期にしばしば増強効果を示します。一方、頸動脈と同様、頭蓋内でもプラーク内の出血が虚血発症の引き金になることが多く、これは(検査のタイミングにもよりますが)T1強調型のプラークイメージングで高信号を示します。

3) もやもや病

内頸動脈の末端部での閉塞や高度狭窄がもやもや病の本態ですが、これまでの報告ではこの部分の壁肥厚はあっても軽度な全周性で、外径は正常の内頸動脈に比べて小さいとされています(図3。また増強効果を示す頻度も低いとされています。ただしこういった所見はもやもや病の病期によっても変化する可能性があり、まだ十分解明されていません。

図3:もやもや病 32歳女性
↓3D-TOF法のMRA (A) で右側優位のもやもや病。

↓血管壁イメージング (VISTA法、B) で左右の内頸動脈の遠位部は細く壁が厚い。

4) 脳動脈瘤

血管壁イメージングが動脈瘤の有無の診断に用いられることはありませんが、未破裂動脈瘤の破裂の危険性の予知情報をもたらすと期待されています。動脈瘤が増大し破裂に至る前段階に壁の内部での炎症性変化の進行が生じると、造影血管壁イメージングがそれを増強効果として描出できる可能性があります。また破裂した動脈瘤では破裂部分を中心にした増強効果がみられます。

5) 血管炎や類縁疾患

血管炎の原因は多く、侵される血管も病態でさまざまですが、これまでの報告ではしばしば全周性で均等、平滑な壁の肥厚を認め、増強効果を示すとされています(図4。動脈硬化性のプラークとは壁肥厚の局在の違いによる鑑別が可能です。血管炎での増強効果は内膜の透過性亢進で造影剤が壁内に入るためと考えられています。血管炎とやや類似するものの別個の病態で臨床像や治療法にも違いがあるreversible vasoconstriction syndrome (RCVS、一過性の攣縮で、予後が良い) では血管壁の肥厚はあるが増強効果はみられないことがポイントになります。

図4 中枢神経限局性血管炎 (PACNS) 50歳女性
↓3D-TOF法のMRA (A) で両側の中大脳動脈や前大脳動脈の各所に不整がある。

↓造影血管壁イメージング (SPACE法、B) でそれらに増強効果がみられる(矢印)。

おわりに(技師さんたちへのメッセージ)

頭蓋内の血管壁イメージングは必ずしも撮像法に限定はなく、多くの装置で可能です。ここで記したような病態で、ルーチンのMRIやMRAにぜひ追加を考慮して脳血管障害の診療に役立てて頂ければと思います。

 

ライター紹介

土屋一洋(つちやかずひろ)  埼玉医大総合医療センター放射線科教授

放射線科医となって30余年。神経放射線領域を専門に、臨床、研究、教育、出版などに携わってきました。現在、川越の埼玉医大総合医療センターに勤務しています。呈示症例で協力頂いた東京逓信病院ならびに埼玉医大総合医療センターのMRI室の技師の皆さんにあらためて感謝申し上げます。

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