Double IR法について ~キモは2つのTI~

WAIRとGAIR

 

図1

今回は、Double IR法(以下DIR)についてご紹介したいと思います。DIRは2回の反転回復パルスを用いたシーケンスです。このシーケンスの利点は、T1値の違う2つの組織を同時に抑制できることです。臨床でよく用いられるのは、脳脊髄液(CSF)と白質(WM)を同時に抑制し、灰白質(WM)のみを強調した画像です(図1左)。多発性硬化症(MS)、多系統委縮症(MSA)、脳腫瘍、微小脳梗塞などの診断に有用との報告があります。

inversion time (TI)値を変えれば、CSFとGMの2組織を同時に抑制することもできます(図1右)。CSFとWMを抑制した画像を”white matter attenuated IR”で「WAIR」CSFとGMを抑制した画像を”gray matter attenuated IR”で「GAIR」と呼んでいます。(図1はSagittal画像より作成したAxial画像です)

キモは2つのTI

 

図2

このシーケンスのキモは、何といっても抑制すべき2つの組織をきっちり消すために適切なTIを選択すること!ですね。DIRシーケンスにおけるT1回復曲線を図2に示します。適切な2つのTIを設定することが2つの組織の信号を同時に抑制するために必要であることは当然ですが、片方を動かせばもう片方の最適値が動きますので、この設定は意外に困難です。

至適TIは磁場強度、TR、TEなど他のパラメータでも変動しますので、まずベースとなるシーケンスを先に決めておきます。2D、3Dどちらでもいけますが、当院ではVISTAを併用した3Dシーケンスで撮像しています。利点は、thin slice化と、脳全体を一度で励起するためCSFを均一に抑制できることです。Sagittalで撮像し、AxialはMPRで作成しています。

当院での主なパラメータは、使用装置:Philips Achieva3.0T-X(R2.6)、TR=5500 ms、実効TE=241 ms (ETL= 80)、refocus control angle (RFA)= 60度、スライス厚= 0.9 mm (zip)、スライス枚数= 195枚などで、撮像時間4分51秒です。上記の設定で至適TIは、WAIRでTI1+2= 2650 ms、TI2= 480 ms、GAIRでTI1+2= 3120 ms、TI2= 750 msです。TI1+2と表記したのは、使用しているPhilips社製装置の入力TIが、IR delay = TI1+2、dual delay = TI2の2つのためです。表記はメーカーにより違いがあるかと思いますので、注意してください。私はボランティア画像による実測から至適TIを導きました。他には理論式から導く方法もありますが、最適値とはややずれがあるようです1)

セッティング次第で未知のコントラストも!?

 

図3

図4

臨床例です。多発性硬化症(MS)では病変が皮質下にあることがFLAIRに比べ明瞭です(図3矢印部)。多系統委縮症(MSA)では橋の十字サイン(hot cross bun sign)がT2WIに比べてより明瞭です(図4矢印部)。他にもどのような疾患で有用か、現在検討を行っています。またGAIRは現在適応疾患を探しています。これが思いつかなくて・・・ぜひ皆様からアドバイス頂けたらと思います。また海外の論文では乳房・膝などに応用した文献もあり、元八重洲クリニックの中村様(現フィリップス)はあえてRFAを上げてMRAに応用という卓越したアイデアを出されていましたね!パラメータのセッティング次第でどんなコントラストが作れるか、これからも研究のし甲斐がありそうなシーケンスです。

2組織の信号を同時に抑制することからSNRがやや悪く、面内分解能も上げにくいという課題はありますが、診断能の向上に一役買ってくれるシーケンスだと思います。頭部などの撮像の際は、是非活用してみてください!

  • DIRシーケンスは装置やバージョンにより、撮像に制限があります。

参考文献

1)Redpath TW, Smith FW. Technical note: use of a double inversion recovery pulse sequence to image selectively grey or white brain matter. Br J Radiol 1994; 67: 1258-1263.

 

【ライター紹介】

茂木

茂木 俊一(社団高仁会城西クリニック放射線科勤務)
平成27年10月より現勤務先に異動し、画像診断専門クリニックの一員として勉強の毎日です。また現在、群馬大学大学院医学系研究科放射線診断核医学分野の博士課程に在籍し、MRI関連の研究も行っています。趣味は音楽(ドラム)・ドライブ・そしてMRI!と言いたくて日々励んでいますが、まだまだです。皆さん是非ご指導よろしくお願いいたします!

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