NATIVE-SPACEを応用した新しいMRAの手法!?「BASARA(バサラ)」

はじめに

今回初投稿させていただく事になりました横須賀市立市民病院 加々美 充 と申します、よろしくお願いいたします。SIEMENS社製 MAGNEOTM Skyra 3T (VD13A)を使用し、非造影MRAのアプリケーションであるNATIVE-SPACEを応用して、簡便・短時間・失敗の少ない新しいMRAの手法を考案しましたので紹介いたします。

非造影MRAについて

皆様は非造影下肢MRAのシーケンスは何を使用していますか?当院ではTOF(time of flight)法を使用しています。しかしTOF法は、屈曲部やスライス面に平行な動脈は描出不良になることがあります。そこで、「VRFA(Variable Flip angle)- 3D-TSE」を心電同期し、拡張期像(動静脈像)-収縮期像(静脈像)のサブトラクションをして動脈像を得る手法である「NATIVE-SPACE」(東芝社が開発したFBI法と類似の技術)を併用(追加撮影)します(Fig.1)。

Fig1. 通常のTOFに、NATIVE-SPACEを追加撮像し、うまく行った例

 

ところが、収縮期像で動脈のフローボイドを目指していても、その効果が不足すると、動脈信号が残存する事がありますね。この場合、「拡張期像の動脈信号」-「収縮期像の残存動脈信号」=「動脈信号の欠損像」となりサブトラクションエラーが発生し(Fig.2)、むしろ病変と紛らわしくなる事例が発生ます。条件を変更して欠損像の無い画像に改善したいところですが、再撮像に時間を要してしまいます。

Fig2. サブトラクションでむしろ信号低下が起きる例。収縮期にフローボイド効果が不良であると生じる。

 

サブトラクションをせず拡張期のみの画像に注目をしました!!

補足の撮像が失敗しては困ってしまいます。そこで解決策として、サブトラクションをせず拡張期像のみを撮像することを考えました。しかし、得られた拡張期像をMIP処理してみたところ、動静脈と背景とのコントラストが低く、うまくいきませんでした(Fig.3右)。また、この拡張期像は、サブトラクションで消える静脈が写っていることも問題でした。

Fig3. TOFとNATIVE-SPACE拡張期MIP像

 

さらに背景抑制のためにTEを延長してみました!!

そこで背景を抑制して血管が強調されるような手法はないか模索したところ、実効TEを延長し背景(筋肉等)の信号を落とす方法を思い付き、ちょっとHeavily T2 に設定変更して撮像してみました。すると背景信号が低下し、血管が強調される画像になりしました。さらに良いことに、静脈信号もあわせて低下しました(Fig.4)。

Fig4. NATIVE-SPACE 拡張期TE40msとTE160msのMIP像

 

誕生、背景抑制拡張期非差分動脈優位像:BASARA

ある程度安定して同様の画像を得られることが確認出来たので、背景信号の抑制効果とTEとの関係をもう少し掘り下げてみました。

まず、STIRで信号を抑制している骨(骨髄)程度まで筋肉(背景)の信号が低下するTEを求めたところ、Fig.5のように、実効TE140msで同等となることが確認できました。また筋肉と動脈、動脈と静脈のCRを、従来の設定値(実効TE40ms)と、今回の実効TE140msで比較しました (FIg,6) 。この結果、実効TEを延長する事により1.5倍程度上昇する事が分かりました。

Fig5. 実効TE延長による背景(筋肉)信号の抑制効果

Fig6. TE40msとTE140msにおける、動脈/静脈、動脈/筋肉 CR

得られた結果からこの手法を「背景抑制非差分拡張期動脈優位像」とそのまま名付けました。しかし長い上に言いにくいので英語で標記し、やや強引に略語にしました。

Background Suppression Diastolic Dominant Artery MRA Without Subtraction

BASARA」(バサラ)(Fig.7)

常識から逸脱した設定により生まれた新しい手法で、動脈が優位になり派手に見えるという意味も込められています。BASARAシーケンスの詳細なパラメータをFig.8に記します。

Fig7. 総腸骨動脈高度狭窄例、TOF(8分)に加えてBASARA(4分)を追加することにより、TOFでは描出不良の部分を把握できる。一方、BASARAでは静脈心号が残ってしまい、一部わかりにくくなっているが、これはTOFで静脈であることを確認できる。

Fig.8. BASARAの主要パラメータ。本法はTOFと異なり冠状断で撮像する。


BASARAの特徴

本法のメリットとしては次のようなものが挙げられます。

  1. サブトラクションをせず拡張期だけ撮像すればよいので、通常の半分の撮像時間で施行できること。
  2. 設定が簡便であること。
  3. サブトラクションエラーが無いこと。
  4. 突発的な体動や心電同期不良によるアーチファクトが少ないこと。

トリガーディレイを短く設定した方が簡便かつ正確なタイミングになるので、心拍数が速くない場合は指尖脈波同期、速い場合は心電同期を用います。また鎖骨下・胸部・腹部などのMRAとしても応用が可能です。実効TEの変更以外は特殊な設定やオプションは必要ないので他メーカーや異なる磁場強度でも設定は可能であると考えられます。
デメリットとしては以下のことが挙げられます。

  1. HeavilyT2であるため水信号が強調されること。
  2. 同様に、抑制されているとは言え、静脈信号が動脈に重なって表示されること。
  3. STIRを使用しているにも関わらずオフセンターの脂肪抑制ムラが生じていること。

これらは今後の検討課題として残されています。1に対しては、脊髄と膀胱はカット処理を施します。3に対しては、現状では体表をトリミングしています。
TE延長によって動脈が描出され静脈が描出されにくくなる理由は現在、考察中です。。。。(悩) 編集委員の先生方からは、動脈血と静脈血のT2値の違い、(冠状断でも生じる)動静脈の流速の違いに基づくInflow効果の違い、などの案をいただきました。

さいごに

BASARAは、動脈以外の信号が完全に消えず、余分な情報が混ざるので、シンプルで分かりやすいTOFには、この点で劣ります。つまり、TOFを行った上での次の一手(追加オプション)としての位置づけであり、現状ではTOFを代替できるほどではありません。しかしアンギオとの対比ではBASARAの方が病変の形態は近い画像になります。メリットとデメリットを踏まえ、興味を持たれた方はお試しいただければと思います。FBIが誕生して約20年、TSE(FSE)をベースとした非造影MRAのシーケンスは他に生まれませんでした。このBASARAという新しい手法が非造影MRAのさらなる発展に寄与出来ればと思います。

ライター紹介

地域医療振興協会 横須賀市立市民病院 加々美 充(カガミ ミツル)

技師歴17年目、MRI専従歴6年目ですがそれ以前は様々なモダリティを経験する機会がありました。その中でもMRIは原理やコントラストなどが複雑で難解であることから特に苦手なモダリティでしたが、周りの方々のおかげでやっと何とかなってきたような…?

 

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