脊髄刺激療法と条件付きMRI対応デバイスについて

脊髄刺激療法とは?

脊髄刺激療法(Spinal Cord Stimulation; SCS)とは、脊髄に微弱な電気を流すことで脊髄から脳への痛みの信号を軽減し、慢性の痛みを和らげる治療法です。個人差はありますが、痛みが術前の半分程度に低減されると言われてます。脊髄刺激療法は神経障害性疼痛に効果が高いのですが、中枢由来の疼痛である、リウマチやがん性疼痛などの侵害受容性疼痛、心因性疼痛には効果があまり期待できないと報告されてます。

リードの挿入にはプレート型のリードを外科的に(椎弓を切除して)硬膜外腔に留置する方法と、カテーテル型のリードを透視下で経皮的に挿入する方法の2通りがあります。目標とする脊椎レベルにリードを留置後、体外式神経刺激装置に接続してテスト刺激を施行し、疼痛患部に一致する刺激が得られたらリードを固定します。その後、試験期間(トライアル)として脊髄刺激が痛みの緩和に効果があるかどうかを検証します。効果があれば、脇腹などの皮下を切開して神経刺激装置(下図)を留置し、筋膜に固定して埋め込みます(本植え込み)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

適応

Good Indication

頚椎/腰椎術後における上下肢の神経障害性疼痛
複合性局所疼痛症候群
末梢神経障害性疼痛
末梢血管障害による疼痛
難治性の狭心症
外傷/放射線照射後の腕神経叢損傷


Intermediate Indication

断端術後疼痛(断端痛>幻肢痛)
脊椎術後の体幹部痛
開胸術後/帯状疱疹による肋間神経痛
脊髄損傷後疼痛


Poor Indication

脊髄由来でない中枢痛
脊髄後索機能が消失した脊髄損傷
会陰部痛及び肛門痛

Unresponsive Indication

完全脊髄断裂
非虚血性侵害受容性疼痛
神経根引き抜き損傷

全身MRI検査実施条件(メドトロニック社 条件付きMRI対応神経刺激システム”Sure SCAN”の場合)

  1. MRI検査を実施する施設の条件
    • 放射線科を標榜している
    • 1.5Tトンネル型(水平クローズドボア型)MR装置を有する
    • 日本磁気共鳴専門技術者(MRI専門技術者)又はそれに準ずる者が常時配置され、MR装置の精度及び安全を管理している
    • MRI検査の実施者は、製造販売業者が提供する研修を終了している
    • MRI検査実施について、検査実施施設で定めたマニュアルを備えている

    まず施設基準として「放射線科を標榜」が必須です。装置は1.5Tトンネル型限定で、オープン型や3T装置は不可となります。
    日本磁気共鳴専門技術者については、他の条件付き埋め込みデバイスと同様に、必須ではなく努力義務となってます。
    研修はメドトロニック社の医療従事者向けトレーニング&情報サイトで行います(所要時間30分程度、テストあり)。
    マニュアルはテンプレートデータをメドトロニック社から頂けますので、各施設の事情に応じて改変すると良いでしょう。

    2.MRI検査を行うための必須条件
    • 本品による治療法に習熟し、製造販売業者が提供する研修を修了した医師(以下、本治療法施行医師)が、事前に当該患者のMRI検査の安全性を確認する
    • 本治療法施行医師は、患者に対して、MRI検査を実施する医師及び技師に植込み患者手帳等(MRI検査の安全性を確認できる物)を提示するように指導する
    • MRI検査を実施する医師及び技師は、MRI検査の安全性が確認されていることを、植込み患者手帳等により確認する
    • MRI検査実施に際しては、検査実施施設で定めたMRI検査マニュアルを遵守する
    • MRI検査実施後は、本治療法施行医師が行う通常のフォローアップにおいて、機器に異常がないことを確認する

    患者さんは神経刺激装置のモデルに応じた手帳を持参します。
    製品によって、全身MRI撮影が可能、頭部MRI撮影のみ可能、MRI撮像不可の3パターンがあるので、あらかじめ用意した「MRI適合性確認」のフローチャートから確認する必要があります。またMRI対応な製品でも、撮影時はコントローラを操作して「MRI-CS」モードに設定します(検査終了後は直ちに通常モードに戻す)。

    3. メドトロニック社製全身対応神経刺激システムに関する条件(一部省略)
    • 全身MRI対応(SureScan MRI)の構成品のみが使用されている
    • 神経刺激装置は、臀部、腹部又は側腹部(肋骨と骨盤との間の側面及び背面)に植込まれている
    • リード先端部は、脊髄硬膜外腔に留置されている
    • アダプタ(神経刺激装置とリードをつなぐ導線)が使用されていない
    • 患者の体内に、以前植込まれた脊髄刺激用の構成品(リード、エクステンション、アダプタ又はそれらの一部)が残存していない
    4. メドトロニック社製全身MRI対応神経刺激システムでの撮像条件
    • 1.5Tのトンネル型(水平方向クローズドボア型)、最大空間勾配19T/mのMR装置である
      (なお、「最大空間勾配」とは静磁場の空間的な勾配の最大値を意味しており、「最大空間傾斜」等MRIメーカによって呼び方が異なる)
    • 高周波(RF)周波数は約64MHzである
    • RF送信用コイルには送受信型全身用クワドラチャコイル(ガントリ内蔵)、または送受信型頭用クワドラチャコイルを使用する(受信用コイルには制限なし)
    • 傾斜磁場強度:一軸あたりの最大傾斜磁場スルーレートが200T/m/s以下である
    • SAR:通常操作モード(頭部SAR:2W/kg以下、全身SAR:2.0W/kg以下)の設定である
    • SARが正しく算出されるよう、MRIコンソールに患者の正確な体重を入力する
    • 患者の体位は腹臥位又は仰臥位である
    • 撮像実施時間は連続した90分の間に通算で30分を超えない
      (なお、「撮像実施時間」とは「RF印加時間」を意味しており、セットアップの時間やイメージシーケンス中の時間は含まれない)
    • 患者の体温は38度を超えない
    • 毛布を使用しない
    • 患者の体重が40kgを上回る
    • MRI検査室入室前に、「MRI-CSモード」または「MRIモード」を起動する(刺激装置の出力を止める)
    • MRI検査中は可能な限り鎮静をかけず、患者のモニタリングを行い、不快感・予期せぬ刺激・発熱などを患者がMRI検査実施担当者に報告できるようにする。患者が問いかけに反応しなかったり、問題を訴えたりした場合には、直ちにMRI検査を中止する

    おわりに – よもやま話

    脊髄刺激療法は日本では1982年に承認を受け、1992年より保険適用となった、それなりに歴史の長い治療法です。ただし従来の神経刺激装置は、MRI撮影が不可であったり、電池切れにより2〜5年くらいのスパンで「取り出し~再埋め込み」が必要でした。しかし、今回紹介した”Sure Scan”シリーズでは全身MRI撮影が一定条件の下で可能になり、バッテリーは外部からコイルを使って充電できるようになりました。

    電流の流し方(プログラム)には様々なパターンが用意されており、患者さんの状態に応じて最適なプログラムを設定できます。充電サイクルは2週間に1回だったり毎日だったりと、プログラムによってかなり違うとのことですが、バッテリーは10年間でたったの5%程度しか劣化しないそうです。もしかすると、バッテリー交換は不要かもしれません。

    気になるお値段ですが、本体とコントローラなど付属品一式が200万円、リードが1本20万円(通常は2本使用することが多い)となっています。ただしすべて保険適用なので安心です。痛みが完全になくなるわけではないそうですが、電流の強弱を患者さん自身でコントロールできるので、その時の状態に応じて対応できるのも素晴らしいです。

    最後にメドトロニック社の公式サイトのURLを貼り付けておきます。興味のある方、これから導入予定の方はぜひぜひご覧ください。

    脊髄刺激療法(SPINAL CORD STIMULATION, SCS)とは?

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Fumio Ishimori医療法人聖麗会 聖麗メモリアル病院 放射線科

投稿者プロフィール

茨城県北の脳外科専門病院にMR専従技師として勤務しています。昨年、8年ぶりに勤務先のGE製MR装置がバージョンアップされ、Deep Learning画像再構成(Air Recon DL)が使えるようになりました。また最近は、都内の脳外科クリニックに月2回ペースで勤務するようになり、キヤノンユーザーにもなりました。いまだに覚えることがたくさんありすぎて困ってます。猫を多頭飼いしてます。

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