Multiband / Simultaneous Multi-Slice

Multiband (MB)/Simultaneous Multi-Slice (SMS)とは

Multiband (MB)とは複数の異なる周波数のRFパルスを同時に印加することで、「複数のスライスを同時励起・同時収集」する技術です。

この技術により、スライス方向の高速撮像が可能となります。

MB技術の歴史は古く、1991年に発表されたPhase Offset Multiplanar (POMP)(GE)など以前から存在し、POMPでは異なる周波数のRFパルスを合成する際に位相をシフトさせることで、1つの画像内に位置をずらして複数のスライスを収集しています(fig.1)。

fig.1 Phase Offset Multiplanar (POMP) 法

しかし、POMPではその原理から広い受信バンド幅が必要となるためにSNRが低く、同時励起も2-3スライスが限界(現在のMBではDWIで2-4スライス、fMRIでは8-12スライスの同時励起が臨床で用いる精度で可能)であり、複数の異なる周波数のRFパルスを重ね合わせているため、RFパルスのピーク電圧の制限や、比吸収率(SAR)の制限などの問題も存在し、普及は限定的でした。

現在のMBではVariable-rate Selective Excitation (VERSE)やPower Independent of the Number of Slices (PINS) といったRFパルスのピーク電圧を抑える技術を併用することで、この問題点を克服しています。

さて、近年のMBの普及には、多チャンネルコイルの開発とControlled Aliasing In Parallel Imaging Results In Higher Acceleration (CAIPIRINHA)(Siemens)などに代表されるParallel Imaging(PI) 技術の進歩により、PIとMBの併用時の画像分離精度の向上が大きな影響を与えたと考えられます。

PIを併用したMBでは、POMPのように元から分離した画像を取得するのではなく、重なった画像を各コイルの感度差を利用して分離しています。

ところが、現代のコイルはz軸方向のコイルエレメントが少なく感度差が小さいため、そのままでは特に近接したスライスでは画像の分離が困難でした。

この問題をMBにおけるCAIPIRINHAでは、同時に励起されたスライスを位相エンコード方向内で制御しながらシフトすることで、再構成時の画像の重なりが回避され、接近したスライスでも分離することが可能となりました(fig.2)。

fig.2 MBに応用されているControlled Aliasing In Parallel Imaging Results In Higher Acceleration (CAIPIRINHA)

MB-EPIについて

現時点で最もMBの恩恵を受けており、実用化・普及しているのがEPIへの応用(MB-EPI)です。

EPIはMRIの高速撮像技術としては完成されており、撮像の高速化がこれ以上困難に思えましたが、MBによりスライス方向の高速化が可能となりました。

これにより、fMRIやDynamic susceptibility contrast (DSC)-Perfusionの時間分解能向上やサンプリング数増加による統計検出力の改善撮像時間延長を抑えての高分解能化、高分解能撮像による歪み低減などが可能となります。

また、今まではその撮像時間の長さから応用範囲が限られていたDiffusion Kurtosis Imaging (DKI)やOrientation Dispersion and Density Imaging (NODDI)などの解析に必要となるMulti-shell diffusion MRI (複数のb値のDWI)も臨床で現実的な時間(5-7分)で撮像可能となります。

MBのFSE/TSE応用について

近年ではEPIだけではなくFSE/TSEにもMBを応用しようという試みがされており、撮像時間短縮や高分解能化において、小児の膝撮像への有用性は既に報告されています。

しかし、MB-FSE/TSEでは従来法よりMT効果の影響をより受けることで、T1WIの画像コントラストが変化するということが報告されており、注意が必要です。

この「MT効果の影響をより受ける」という点は解決すべき問題点でもありますが、利点として応用するという考え方もあります。

その1つとして、造影後の頭部領域におけるT1WIで、脳実質と造影された組織とのコントラストを上げる利点として報告されています(fig.3)。

fig.3 SMS-TSE 造影効果

MBの未来は

MBは、「撮像時間の長さ」というMRIの長年の問題点に一石を投じる技術です。
今後の展望として、昨今話題となっているcompressed sensing(CS)技術との併用(頭部ダイナミック造影MRAについては既に論文化されている)、AI技術との併用などにより、更なる撮像の高速化などが可能となれば更に普及すると考えられます。

ライター紹介

村田渉
2016年4月より順天堂大学大学院 医学研究科 博士課程に在籍。同時期より順天堂大学医学部附属順天堂医院放射線部で診療放射線技師として勤務。
趣味は音楽が大好きで色々なジャンルの曲を聴いています。そのためカラオケにも頻繫に行きますし、音楽フェスにもよく参加します。
毎日MRIに携われる環境にいられることに感謝しながら、日々の業務をこなすことに甘んじることなく、臨床やMRIについて研鑽して患者の皆様へ貢献したいです。

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