Chief Editor’s comments
心電図同期と脈波同期の違いは、一般的には、「脈波同期のほうが装着が簡単」「しかし心電図同期のほうがトリガからの(とくに早期)ディレイにおいてより信頼性が高い」といった認識をされていると思います。この投稿では、両者の違いに、もうひとつ重要な意味が ー とくに不整脈の認知において ー あることに気づいたもので、大変興味深く読みました。このような、日頃の業務での観察からなにかを気づくことはとても大切だと思います。ぜひお読みください。
最初に
皆様のご施設では下肢動脈の撮影はどう対応されていますか? 当院では、造影検査のオーダーはなく非造影検査でのオーダーが月に数件のペースで入ります。
多くの施設で非造影下肢動脈撮影に用いられているシーケンスは、「心電同期2D time-of-flight (TOF) 法」やfresh blood imaging (FBI) に代表される「心電図同期3D-TSE法」かと思います。この両手法、GRE法とSE法、2Dと3Dと用いているシーケンスが全く違うもののInflow効果を利用している点では同じです。心電同期2D-TOF法はInflow効果が大きい時相に合わせてDATAの収集を行い、心電図同期3D-TSE法ではInflow効果が大きい時相と小さい時相それぞれでDATAの収集を行いサブトラクションすることで動脈像を得ます。
つまり、心電図同期にて的確にInflow効果を捉えることが、重要となってくるのは皆様もご存知のことと思います。
許容範囲の設定
当院はTim(Total imaging Matrix)に代表される、全身コイルがなく装置内蔵のBody coilでの撮像のため心電同期2D TOF法を使用していますが、不整脈の有無に関係なくオーダーされるため、同期不良によるアーチファクトに苦労することがあります。
この不整脈の同期不良を回避するには、PHLIPSでは「R-R window」と「arrhythmia rejection」と呼ばれるパラメータにより心拍変動の許容値を設定し、不整脈のデータ収集を行わないことで対応します。
不整脈に気づくためには
しかし、この設定は心拍が一定でない場合や、頻発する不整脈に対応が難しく、何よりまず、きちんと不整脈に気づくことが最初のハードルとして存在します。
例えば、以下の同期心電図波形を見てください。
慣れている方であれば、心電図の同期が不良であることに気づくかもしれませんが、やや間隔が不整であるものの、一見きちんとR波を捉えているようにも見えます。
そのまま気づかず撮像すると、以下の画像がでてしまいました。
明らかな同期不良のアーチファクト
これが不整脈なのか、T波増大などのノイズを拾っているのかは判断が難しいところですが、いずれにせよ撮る前に気づく必要があります。
指尖脈波同期でのモニタリング
そこで、誰でも簡単に不整脈やノイズであることを見破るために考えたのが、指尖脈波同期でのモニタリングです。脈波は通過する血流の容積変化を表していますので、血流の変化≒Inflow効果の変化と考えることができると思います。正常例で見ますと、R波の後に脈波が現れるのが分かります。可能であれば足趾がより下肢動脈の血流変化を表していると言えますが、ケーブルの長さや感度の問題があれば、手指でも大きく問題とはなりません。
同期心電図をもう一度
もう一度、先ほどの同期心電図を見てみたいと思います。脈波同期を併用させてみると、Inflow効果のないR波であることが一目瞭然です。
赤丸のR波では脈波が出ているのが分かりますが、水色のR波では、ほとんど脈波が出ていないことが分かります。脈波モニタリングは撮像する前に気づくことができますし、撮像中のモニタリングでは、脈波をまたぐようにDATA収集を行っていない場合はInflow効果を捉えることができていないことが分かります。
R波でInflow変化のない時の対応方法
①脈波モニタリングで時々、R波でInflow変化のない時がある場合
脈波モニタリングより心電同期の「R-R window」と「arrhythmia rejection」の設定を考え、Inflow変化のない時にDATA収集をしないようにします。
②脈波モニタリングで頻繁に、R波でInflow変化のない時がある場合
まずは脈波同期の設定に切り替え、脈波の間隔を見ます。
■脈波の間隔が一定
設定HRを1/2脈波に設定し、脈波トリガー後の脈波でDATA収集をするようにします。2回の脈波で1回のDATA収集となりますので撮像時間は延長しますが、先ほどの心電図のような2段脈でも問題なく撮像が可能です。
■脈波の間隔が不定
これは同期不良改善における奥の手です。設定HRを変動する脈波の高い値に設定し、脈波トリガー毎に毎回短いDATA収集を繰り返します。撮像時間の延長が大きいので、範撮像囲、TR、Matrixなど設定を考える必要があります。
綺麗な画像撮影(脈波同期を利用)
不整脈やノイズが心電図波形にある場合、脈波同期をうまく利用して設定すると、綺麗な画像を得ることができます。
皆様も是非、脈波を使って不整脈を楽しんでください。
最後に自己紹介
東京警察病院 古河勇樹と申します。今年でMRI経験は6年となりました。
当院はローテーション制なので年に数ヶ月しか担当していませんが、MRIの魅力にどっぷりはまっています。勉強すればするほど無知の自分に気づき、それでもまた学びたくなるMRIに出会えたことに感謝です。
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