古い装置でもあきらめない!?頭頚部MRA時短撮像

はじめに

皆様、こんにちは。金沢医科大学病院の平田と申します。今回は我々の施設で行っているMRAの短時間撮像についてご紹介したいと思います。我々が使用している装置は2009年導入のMAGNETOM Trio 3Tとかなりご老体で、MR界隈ではもう常識!?のDeep Learning Reconstruction(DLR)やCompressed Sensing(CS)等はもちろん使用できません(使える施設が大変羨ましいです…)。シーメンスの古い機種での一工夫としてご覧いただければと思います。

頚動脈や脳血管の撮像には3D-TOFが第一選択と思われますが、当院の装置では3分半程度かけて撮像しています。緊急検査で頚部MRAを追加したいが、時間的に厳しい場合が多々あります。そこで、我々がおこなっているのは腹部検査等で使用されるDixon-VIBEをMRAに応用する方法です(Dixon-VIBE MRA)。
この方法はとても簡単で、Dixon-VIBEをTransverseに設定し頭部側にSATを印可するだけです。画像はIn-phase、Opp-phase、Water image、Fat imageの4つが自動で再構成されます。「Water image」をMIP処理することでMRA画像を得ることができます。我々の施設では頚部MRAは1mmスライスの3slabの3D-TOF(3m20s)をルーチンとしていますが、時短MRAとして3D-TOFと同範囲・同一スライス厚のDixon-VIBE MRAを47secで撮像しています。CAS後の症例をFig.1に掲示します。1/4以下の撮像時間で3スラブTOFと同等の画像が得られていることがわかります。ステント部分の描出も問題ありません。

Fig1.3D-TOFとDixon-VIBE MRA(CAS後)

パラメータ設定のポイント

時短に伴ってトレードオフが伴うのがMRIの宿命ですが、工夫のポイントとしてフリップ角」「TE」「Asymmetric Echo(AE)」の3つを紹介させていただきます。

3D-TOF法では撮像範囲を複数のスラブに分割するマルチスラブ法と、スラブ内でフリップ角を変化させるTONE 法(tilted optimized non-saturated excitation)を併用して血管起始部から末梢まで描出能向上を図っています。おそらく一般的な3T装置では2~3スラブ、TRは20ms程度、フリップ角は20°程度を使用していることが多いのではないでしょうか?Dixon-VIBE MRAでは上記2手法は使用できません。また、時短撮像が目的なのでTRは最短値(4.3ms)を使用しています。したがって起始部から末梢までバランスよく描出するにはフリップ角の設定が重要となります。当院ではボランティアによる検証の結果、3D-TOFと同等の撮像範囲で「最短TRでフリップ角8°程度」が最適との結論に至りました。ボランティア検討の結果をFig.2に示します。

TEは空間分解能や受診バンド幅(BW)、グラディエントモード等のパラメータ調整で1.3/2.5ms、2.5/3.7ms…と複数の組み合わせが選択可能です。AEは収集エコー前半を打ち切ってTE短縮を図るテクニックでOff・Weak・Strongの3種があります。TrioのDixon-VibeではAEが強制的に適用されます。TEとAEの組み合わせによってトランケーションやブラーリングの増大、およびコントラスト変化など画質に影響を及ぼします1)。TEとAEの組み合わせによる画像の違いを示します。図の上下がAEの違い、左右がTEの違いとなります(Fig.3)。1.3/2.5msと比べると、2.5/3.7msでは皮下脂肪や筋肉信号が高いことがわかります。これはMIP時には不都合となります。AE強度に着目すると、StrongではWeakに比べて画像のブラーリングが目立つことがわかります。1.3/2.5ms使用時はかなりBWを上げる必要がありSNRの面で若干不利となります。ただ、血流信号の位相分散やステント等の磁化率の影響を低減する観点から、BWは広域でTEも短い方が有利と言えます。以上より「TEは1.3/2.5ms、AE強度はWeak」が最適と判断しました。

Fig2.Dixon-VIBE MRAのボランティア画像および血管部位別信号強度
Fig3.TEとAEの組み合わせによる画像の違い

最後に…

先日遭遇した小児てんかん疑いの症例のご紹介をしたいと思います。TOFで右内頚動脈に狭窄様所見があります。スラブの繋ぎ目の影響を疑いDixon-VIBE MRAを追加撮像しました。こちらでも同部位に欠損が見られましたので、これは実際に狭窄している症例?と思ったのですが、MRA以外に全く所見が見られなかったのが気にかかりました(Fig4)。

Fig4.小児てんかん疑い症例

念のためDixon-VIBE MRAの元画像(Opp-Phase)を確認したところ、まったく狭窄が無いことが判明しました(Fig5)。当院では頭頚部の造影後3D撮像にもDixon-VIBEを多用していますが、Dixon計算エラーの経験はありませんでした。この症例はおそらく、屈曲部での乱流とスラブの境目が複合的に影響して血管内部で位相分散を起こしたものと予想されます。Dixon-VIBE MRAではWater画像以外あまり見る習慣がなかったことと、頭部では計算エラーは起こらないと高を括っていた自分にとっては、反省とともに大変勉強になった症例でした。本手法が皆様の日々の診療に少しでもお役に立てれば幸いです。最後までお読み頂きありがとうございました。

Fig5.Dixon-VIBE MRA(opp phase)

参考文献

1):山越一統、国府田哲弘,柴田欣也.2 point DIXON 法併用頭頚部高空間分解能 3T 3D-GRE imaging の検討、日磁医誌第36 巻2 号(2016)、p73-84

ライター紹介

金沢医科大学病院(カナザワイカダイガクビョウイン)、平田恵哉(ヒラタケイヤ)

金沢医科大学病院の平田恵哉です。当院もやっとAI搭載装置への更新が決まりましたが、16年共に歩んで来たTrioとお別れするのは何とも言えずさみしい気もします。最新装置を使いこなせるか少し心配ですが、若手メンバーと一丸となって頑張りたいと思います。

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吉村 祐樹岡山済生会総合病院 放射線技術科

投稿者プロフィール

DWIとパラメータをいじることが好きです。MRIという名のテレビゲームをひたすら毎日やっている感覚です。このゲームは一生クリアできそうにありませんが、真摯にMRIに向き合っていきたいと思います。

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