悩みを解消!TPT (T2 prep Pulse combined Turbo spin echo) MRCPの全貌
小樽市立病院の伊原陸です。
Philips主催のコンテストであるGyro Cup 2022で発表したシーケンスについて紹介させていただきます。MRCPは臨床で広く普及していますが、呼吸同期がうまくいかずmotion artifactに悩んだり、濃縮胆汁が描出されず困った経験はありませんか? そんな悩みを解消できると思います。
従来法の課題
一般的に、3D MRCPではTEが約600msのHeavy T2 TSEを用いて呼吸同期や横隔膜同期で撮像します。TEを長くすることは、水成分を強調するために不可欠ですが、データの収集時間であるshot durationが長くなるデメリットも伴います。このため呼気のタイミングで撮像するように同期していても、呼吸の影響を受けます。さらに、不安定な呼吸ではshotが吸気にもかかってしまい、motion artifactの原因となります。
新しい撮像法の導入
この問題を解決するために、shot durationを短くする手法を考えました。しかし、ただshot durationを短くすると、同時にTEが短縮し、Heavy T2 contrastが低下してしまいます。そこでpre pulseであるT2 prepを付加することで、この問題に対処しました。T2 prepは、T2値の短い組織を抑制し、印加時間に応じてT2 contrastの重み付けが可能な技術です。これにより、Heavy T2 contrastを維持したままshot durationを1/3程度まで短縮でき、不安定な呼吸にも対応できるようになりました。さらにTEが短縮したことによりblurringが改善され画像がシャープになるとともに、濃縮胆汁の描出も可能となります(T2 prep timeは100msに設定)。
当院で従来使用していたシーケンスと比べ、TEは519ms→141ms、shot durationは1005ms→362ms、TSE factorは140→60に短縮できました。
この撮像法を”TPT MRCP”と名付けました。
画質評価と視覚評価
しかし、TEを140msまで短縮して本当にHeavy T2 contrastが保たれるのか?と疑問に思われるかもしれません。従来法と比較したSNR、CR、CNRの評価では、TPT MRCPでもHeavy T2 contrastがしっかり保たれていることが確認できました。Motion artifactに関しても総胆管のprofile curveからsharpnessを評価したところ有意に高い値が得られました。 また、放射線科医2名による視覚評価では7つの項目に分けて評価し、従来法に比べて有意に優れた結果が得られ、臨床画像においても有用性が確認できました。さらに、TPT MRCPは息止め撮影にも応用可能です。従来はTEが長いため、長時間の息止めが必要な場合があり、患者さんにとって負担が大きいものでした。しかし、TEが短縮されているため、息止め時間も短くなります。もちろん1.5Tでも応用可能です。
Parameter設定時の注意点
Philipsの装置ではTSEとT2 prepの併用ができません。そこで通常はblack blood効果を目的としたiMSDE (improved motion-sensitized driven-equilibrium) を利用します。iMSDEはT2 prepと同様のpre pulseに流体を位相分散させるために傾斜磁場を付加した信号抑制法です。傾斜磁場の強さを設定するparameterであるvencを0 cm/secに設定することで、T2 prepの効果だけを得ることが可能です。
おわりに
TPT MRCPは、これまでMRCP検査で悩まされていた課題を克服できるシーケンスだと思います。従来法のTSEにT2 prepを付加することで使用できるので、他のベンダーでも広く活用できる可能性があります。今後も、多くの技師さんや患者さんにとって有益なシーケンスとして活用されることを期待しています。少しでも皆様の参考になりましたら幸いです。
ライター紹介
小樽市立病院の伊原陸と申します。絶えず進化するMRIに魅了されています。職場の先輩や全国の優秀な方々に憧れ、日々奮闘中です。学会等でお会いした際には色々とお話しできると嬉しいです。
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