はじめに
MRIを愛する皆さん、こんにちは!
本サイトに初投稿をさせて頂く、大垣市民病院の小川定信と申します。宜しくお願いします!
さて、日本でGd-EOB-DTPA(以下EOB)が使用可能となり、かなりの月日が経ちました。当院には熱心な消化器科医がおりまして、約9年!膨大な数の肝MRI(EOB使用)を施行してまいりました。EOBの発表当初は、腫瘍の質的診断を中心とした研究が多数行われ、当院でも肝細胞癌の新たな診断基準が設置され、日々の診療に勤しんでおります。
EOB-MRIによる肝の性状評価について
今回は、EOBを用いて肝腫瘍の「診断」を目的とするのではなく、肝の「性状評価」をMR-エラスト(MRE)と合わせて試みましたので報告致します。
EOBを用いたMRI(EOB-MRI)では、thin-sliceの肝細胞造影相を撮像し、それを元画像とした肝の3D画像を作成し、視覚的に変性の度合いをスコア化したものと、MREでは一定のルールの下で計測された値(Kpa)を利用し、それぞれと肝障害度を示す指標であるChild-Pugh分類と比較してみました。尚、3Dの検討は虎の門病院消化器科の斉藤聡先生のご報告を参考にさせて頂きました。
今回対象としたのは、呼吸停止が良好で過度の鉄沈着を伴わず、適切に検査が施行できた26名(男10:女16、平均年齢69.1歳)です。それぞれの背景肝疾患は、C型肝炎17例、B型肝炎1例、アルコール性肝炎1例、非A非Bが7例でした。また、Child-Pugh分類はAが22例、Bが4例でした。
それでは当院でのEOB-MRIの検査内容、撮像条件をご紹介します。
まずEOB-MRIの検査内容です(図1)。
図1
当院では、MREもthin-slice 肝細胞造影相もルーチンの一環として施行しており、EOB-MRIに要する検査時間は、20~25分です。その後3D画像処理、一次読影まで入れると、1人の患者に対し45~60分の時間がかかります。1検査30分枠なので、本studyを行う装置は二人で業務を遂行しています。次に撮像条件をお示しします。(図2)
図2
MRI装置はGEヘルスケア・ジャパン株式会社製 Discovery MR750W、ワークステーションは富士フィルムメディカル株式会社製 VINCENTを使用しています。
MREの撮像方法
MRE、肝細胞造影相ともに特別なことはしていませんが、MREでのDriver Amplitudeは患者体型に応じて変化させています。と、いうよりも、今回は割愛しますがMREはセッティングや計測位置により値が上下しますので、この辺りを留意しています。今回の評価方法ですが、3D画像は①肝表面の状態、②肝辺縁の状態、③肋骨圧痕の有無について視覚的にscore化(0~2)に分類し (図3)、①+②+③を変性scoreとして評価しました。
図3
肝表面は凹凸なく平坦なものを0、歪のあるものを1、結節状を2としました。肝辺縁はシャープなものを0、腫大により鈍化が見られる場合は、その程度によって1もしくは2と分類しました。通常肝右葉は肋骨と接している箇所に軽度の凹みが生じています。このため、肋骨圧痕が明瞭に確認できるものを0、何とか確認できるものを1、確認できないものを2としました。3Dはこの変性scoreに加え、肝の右葉と左葉の体積比も検討してみました。
それでは結果を説明していきます。
図4
図5
図4は変性scoreをChild-Pugh分類の関係を示したものです。P値が0.001453と、Child AがBに比し優位に変性scoreが高いという結果でありました。図5は右葉/左葉の体積比とChild-Pugh分類の関係を示したもので、こちらもP値0.00855と優位差を認め、Child AがBに比し体積比が高い、つまり肝障害が進むと右葉が小さくなるか左葉が大きくなる、という結果でした。ウィルス性肝炎が、慢性肝炎から肝硬変へと進行する際、多くの肝細胞が消滅・再生を繰り返すことで、肝実質の小葉構造が破壊され線維化や変形を来し肝機能が低下する、という定説を、EOB-MRIの3Dは反映していることが分かりました。
図6
図6は良好な3D画像が得られなかった例です。EOBの取り込みが不十分な場合は肝表面のトレースが適切に行えない場合が多いです。こういうケースは3Dを作成し、変性の状態を報告すべきではありません。また、心臓と接している部分(→)は、心拍動の影響で部分的に画像が劣化することがあります。この部分は外して評価をする必要があります。
図7
図7にMREとChild-Pugh分類の関係を示します。やはり優位にChild Bは肝硬度が高くなるという結果でした。MREも3D同様間の性状評価をする上で、非常に有用なツールであると言えます。
それでは代表的な例をご紹介します。
図8 症例提示1
図8はアルコール性肝障害ですが、Child-Pugh A(score5)と肝障害が軽微な方。形状の変性はなく、肝硬度も2.3Kpaと低値を示しました。体積比は4.74でした。
図9 症例提示2
図9はB型慢性肝炎で、Child-Pugh Aですが、score6と症例1よりは肝障害が進んだ方。こちらは軽度の腫大のため肋骨圧痕の不明瞭化や肝辺縁部の鈍化が認められます。また、症例1に比べ肝表面が若干不整になっているのが分かると思います。変性score3で、肝硬度は3.9Kpa、体積比は2.35と、左葉の占める割合が増加していました。
図10 症例提示3
図10は非A非Bの肝硬変症例で、Chilp-Pugh Bの方。肝表面は結節状で、肋骨圧痕は消失しています。変性score6、肝硬度は5.9Kpaを示し、体積比も1.65と最も低値でした。
3DといえばCTというのが定説ですが、EOBが肝細胞に取り込まれるという性質を利用して、MRIでの肝3Dは十分臨床応用できる!という結果でした。何百例という3Dを作成して思うことは、かなりの「センス」が必要、ということです。ワークステーションが行う肝表面のオートトレース以降は3D作成者のセンスの見せ所です。もちろん根気も必要ですが、ノイズと肝実質の識別や元画像からいかに脳内で正しく3D画像を構築できるか、が画像の良し悪しや、処理時間の短縮を決定します。MREも肝の線維化診断に有用とも報告も多く見られます。本来は肝生検で診断することも、EOB-MRIやMREに置き換えることが可能であれば患者さんの負担も軽減するので、今後も今回のツールの再現性や質の向上を図りたいと思います!
ライター紹介
ライター紹介
大垣市民病院 機能診断室 小川定信
当院は各モダリティの専門性が高く、長い周期のローテーションはあるものの、ほぼ検査室は固定されています。私も、レントゲン→CT→超音波を経て今のMRIを担当し、10年が経ちました。当直業務以外、MRIばかり撮っています。知識が偏るというデメリットはあるものの、担当するモデリティへの愛情や同じ検査室のスタッフ同士の親交も深く、とても良い環境で仕事をさせて頂いています。
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