脳卒中診療に革命を与えるASL

Arterial Spin Labeling(ASL)

Arterial Spin Labeling(ASL)の基本原理は昔から提案されていた技術ですが、高磁場装置の普及、pseudo continuous ASL(pCASL)の開発、Coilの多チャンネル化によるSNR向上に伴い、近年広まりをみせているシーケンスです。

基本的な原理やシーケンスの種類は既出の福澤先生の記事(ルーチン検査に”ひと味”加える 〜使い方自在、三種のASL〜)をご参照いただければと思います。

ASLの大きな利点は、数あるperfusion imageの中で唯一、非侵襲的な撮像技術であることです。そのため、救急診療でも簡便に追加撮像でき、そのフォローアップにおいても積極的に使用することができます。

小樽市立病院では2014年にIngenia 3T(PHILIPS)が導入されてから脳神経外科救急搬送の全例にpCASLをルーチン化し、延べ5000例以上を撮像しました。そこで得られた経験の一旦をご紹介します。

主幹動脈閉塞型急性期脳梗塞 (DWIより早期に梗塞を診断し得た例)

主幹動脈(M1〜2)閉塞による急性期脳梗塞では血栓回収療法が適応されます。血栓回収療法は2014年に発症から8時間までの症例でその有用性が証明され、患者さんの予後は再開通を得るまでの時間で大きく変化します。5分毎に一人ずつ”自立した生活”を失うとされ、”Time is brain”がキーワードです。

元々、MRIではDWIによる高い脳梗塞の検出率(90%程度)を誇ります。しかし、その信号変化は細胞性浮腫を呈する発症から30分後からしか観測できません。

画像は発症から10分以内に撮像された症例です。ASLでのみ虚血を検出できています。もはやDWIでは”遅い”時代に突入したわけです。そして、DWIで検出できない数%の患者さんこそ元気に歩いて退院してもらうべき患者さんたちです。

現在では血栓回収療法はpenumbraがあれば発症から24時間まで有用とされており、AHA/ASAからのガイドラインでも発症6時間を超えるケースではperfusion imageの施行が強く推奨されています。

当院では上記疾患が疑われる症例ではDWI+ASLをまず撮像し、検査開始から3分以内にpenumbraの有無を確認、血栓回収術の適応を判定します。

この場合、1分17秒で撮像可能なASAP-ASL(Acute Stroke Assessment using rapid Pseudo-continuous – ASL)を用います。撮像断面を基底核だけに限局させて撮像時間を短縮し、Post Label Delay(PLD)は1232msです。

実は主幹動脈閉塞型急性期脳梗塞はA型大動脈解離により引き起こされる場合もあります。このような症例ではrtPA療法や血栓回収療法は禁忌です。

我々のチームでは、飽和効果により軟部組織抑制を行うMRAシーケンス(Simple T1-TFE)により大動脈のスクーリングも同時に行います。

それによりA型大動脈解離を検出できた症例です。冠状断 3mm×70slice、1分10秒で撮像可能です。アクセスルートの評価にも有用です。

血栓回収術の術前検査はCTに押されがちになっていますが、”ASLをどう使うか??””胸部のスクリーニングをどうするか??”、この2点が今後の急性期脳梗塞に対するMRIの突破口になるのではないでしょうか。

ASLでの鑑別診断

ASLは鑑別診断にも有用です。症例はJCS300、右共同偏視、右半身痙攣、四肢麻痺の症状で救急搬送された方です。

この方は当初、急性期脳梗塞疑いでしたが、ASLで過灌流が確認されてんかんと診断されました。検査開始から3分以内です。

CAS後の評価

内頚動脈狭窄の治療法である頸動脈ステント(CAS ; Carotid Artery Stenting)は近年広く普及しています。

慢性的な虚血により頭蓋内血管の末梢血管が拡張した状態で、CASを施行することにより血流が回復すると一時的に過灌流を呈する場合があり、血圧の管理や抗けいれん薬の投与を検討することがあります。

つまり、術後すぐに脳血流を把握できれば便利なわけです。そこでASLに期待がかかるわけですが、通常の頸動脈でのlabelingではステントによる局所磁場不均一によって脳血流がまるでないような画像になる場合があります。

そんな時はASAP-ASLを使うことでステントをかわすことができ血流情報を迅速に把握できます。

OTAL-Method

もう少し時間にゆとりのある症例では最適化した2phaseのASLを用います。(OTAL-Method ; Optimal Two phase Arterial spin Labeling – Method)
ISMRMの勧告ではPLDは被験者の年齢によって使い分けるよう記述されていますが、実臨床においては煩雑な作業となります。

そのため、当院ではPLD1200、2200msとして2phaseのASLで全脳をスクリーニングします。およそ90%の患者さんで充分に脳実質の灌流状態の観察が可能です。

また、ASLは他の灌流画像と違い時間軸を全く持ちません。そのため2phase撮像で少しでも時間軸情報を付加するのは重要です。

急性静脈性疾患の推定

静脈性病変は通常の検査での検出は難しく、最終的にDSAにて診断されることが多いかと思います。急性静脈性病変ではASLで灌流異常を呈する場合があり、これはラベリングされた血液がwash outできない状態、つまりクリアランス不良を反映した状態と考察しています。

パターンとしては灌流上昇の範囲が1200ms ≦ 2200msとなる場合です。ASLで異常があり、”入り口”である動脈(MRA)で異常がない場合、”出口”での問題を考えMRVの追加撮像をおすすめします。

症状と病変部位が合致しない脳出血

右上下肢完全麻痺、失語で救急搬送。CTで左後頭頭頂葉に血腫を認めます。麻痺があったため血腫除去術が検討されていましたが、血腫の部位と麻痺の程度が合致しません。そこでMRIを施行しました。

DTIで錐体路に問題なく、ASLで血腫周囲に過灌流を認めました。これは出血に誘発された非痙攣性てんかん(状況関連発作)をみているものと考えられました。

右上下肢完全麻痺はてんかん後に一時的に発現するToddoの麻痺で説明がつき手術を回避。保存的加療で翌日には麻痺も改善しました。ASLで不要な手術を避けることができた症例です。

ASLによる頭部ルーチン検査の守備範囲がグッと広がる。

”頭部ルーチン検査”は最も多く施行されているMRI検査で、最も洗練されてきた検査です。そこにASLを追加することで検出できる疾患がグッと広がります。

失語、麻痺、共同偏視、意識障害などなど、こういった症状がでている方は頭の中で”何か”がおきていることが多いです。是非ASLを撮ってみてください。驚くような所見が隠れていることがあります。

 

ライター紹介

初めまして、小樽市立病院の大浦大輔と申します。ここ数年はMRI専属で勤務させてもらっていますが、やれどもやれども終わらない。。。多分、一生かかっても終えることができないんだろうと覚悟を決めました。

皆さんが使いやすく、患者さんに有益なシーケンスを提供できるよう精進したいと思っています。北海道へいらした時はぜひ小樽にも足を運んでくださいね。

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  1. 2019-1-12

    ペースメーカ本体(ジェネレーター)の型番だけで、MRIの安全性を判断しないでください!!

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