MRI fan.net編集委員の島根大学医学部附属病院 塚野優と申します。
今回は、2 point Dixon(Turbo spin echo : TSE)法(以下、Dixon法)を短時間で撮像可能なFast Dixon法についてご紹介します。尚、このシーケンスはSIEMENS社での仕様であることをご容赦ください。
背景
Dixon法は、撮像されたIn phaseとOpposed phase画像から、Water画像(脂肪抑制画像)とFat画像(水抑制画像)を計算で作成する撮像法として広く普及しております。CHESS法に比べて均一な脂肪抑制が期待できるため、磁場不均一の影響を受け易い部位(頸部、頸椎、胸椎、四肢等)で有効な撮像法です。しかし一度に2種類の画像を取得するため、撮像時間が長くなる傾向にあります。撮像時間の延長は、体動によるアーチファクトの影響を受け易くなります。対処法として、撮像時間の短縮やBlade法の使用等がありますが、SIEMENS装置ではBlade法とDixon法の併用ができない仕様となっています。
Fast Dixon法とは
Fast Dixon法は、従来のDixon法と比較して撮像時間短縮が可能なシーケンスです。Dixon法は、180度パルスを印可後、In phase又はOpposed phaseのどちらかのタイミングで一つの信号を収集します。対してFast Dixon法では、180パルスを印加後、読み取り傾斜磁場を反転させることでIn phaseとOpposed phase両方の信号を収集します(Fig.1、2)。これにより収集時間が短縮され、短時間で撮像が可能となります。このシーケンスは装置のバージョンがVE11から使用可能であり、XAではFOVとMatrix数を細かく変更できるようになります。
Fast Dixon法の設定方法をご説明します(以下は、装置のバージョンがXA30での方法です)。
TSE Dixon法のシーケンスを選択し、「Contrast」タブで「Fat-Water Contrast」を「Dixon」から「Fast Dixon」に変更します。これだけの操作で使用可能となります。
利点と欠点
Fast Dixon法の利点は、短時間で撮像が可能なことです。欠点は、読み取り傾斜磁場の極性が反転するため、ケミカルシフトの方向もIn phaseとOpposed phaseで逆になることです。そのため、Dixon法に比べてWater画像での脂肪抑制不良が起こり易くなります。
ファントム実験の結果を提示します。90-401ファントム(日興ファインズ社)のコントラストセクションに精製水とサラダ油を封入し、Dixon法とFast Dixon法のT2強調画像を撮像しました(Fig.3)。
Fast Dixon法では、In phaseとOpposed phaseのケミカルシフトが互いに反対方向に出現しています。また、Water画像でファントムの辺縁に脂肪抑制不良が見られます。対処法の一つとして、バンド幅(SIEMENS装置ではHz/Pixel)を広く設定することで、ケミカルシフトの影響を小さくできます。
もう一つの注意点として、Dixon法に比べてSNRが低下します。Dixon法とFast Dixon法のSNR(差分法)について装置付属ファントムを用いて比較しました(Fig.4)。Dixon法とFast Dixon法で同じ撮像条件にすると、Fast Dixon法の方がSNRは低いことが分かります。しかし、Fast Dixon法の短時間撮像の利点を活かし、Averageを増やしてSNRを担保することが可能です。T1強調(Water)画像、T2強調(Water)画像共に、Fast Dixon法でAverageを2から3に変更してもDixon法より撮像時間は短くなります。
当院での使用経験
頸部領域でFast Dixon法による短時間撮像が有用であった症例を2つご紹介いたします。使用装置はMAGNETOM Prisma 3T(XA30)です。
頸部領域は口の動き、嚥下、呼吸など様々な体動が起こります。適切な検査説明により、ある程度の体動の影響を防ぐことはできますが、撮像時間が長くなれば体動を引き起こす可能性は高くなります。また、Blade法は使用できますが、上述の通りDixon法との併用ができません。
症例1:悪性リンパ腫疑い(Fig.5)
T2強調(Water)画像のDixon法とFast Dixon法の画像を示します。右耳下腺腫瘤と左耳前部腫瘤を認めます。病変部はほとんど遜色なく見られますが、Fast Dixon法では一部に脂肪抑制不良が生じました(Fig.5 △印)。
症例2:中咽頭癌の再発(Fig.6)
造影T1強調(Water)画像のDixon法とFast Dixon法、加えてSimultaneous Multi-Slice(以下、SMS) TSE Dixon法の画像です。SMS法も多断面同時励起により撮像時間の短縮が可能なシーケンスですが、撮像範囲が狭いとTRの短縮に限界が生じ、時間短縮が困難になります。逆に、撮像範囲が広いとSARの制限を受けることがあります。この症例では、Fast Dixon法が最も撮像時間が短くなりました。
これらのように、脂肪抑制不良には注意を要しますが、撮像時間短縮の利点は大きいです。
さいごに
拙文ではございますが、今回はDixon法の短時間撮像技術としてFast Dixon法をご紹介させていただきました。少しでも皆様のご参考になれば幸いです。
コメント
トラックバックは利用できません。
コメント (0)
この記事へのコメントはありません。