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脳膿瘍のMRI ~ 虫歯を放置すると命に関わるかも?
- 2015/2/18
- Any Modality, ミニレクチャー
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当院では昨年(2014年)脳膿瘍(brain abscess)*と診断された患者さんが5名おりました。うち2名は過去の脳外科手術による創部感染で、残り3名は齲歯(虫歯)が直接的・間接的な原因として強く疑われる症例でした。
*脳膿瘍とは身体の他の部位の細菌感染が脳の中に血行性または直接脳に到達し、脳内に増殖した細菌(膿)が溜まった状態で、頭痛、発熱、意識がぼんやりする、痙攣(ひきつけ)、嘔吐、手足の運動麻痺、感覚障害(しびれや痛み)、言語障害、精神障害などの症状が現れます。
【症例1】40代男性 左後頭部脳膿瘍
時間外診察に自分で車を運転して受診、かなり具合が悪そう。数日前より頭痛が”ちかちか”(aura)した後に出現。頭痛は悪化したり軽快したり波がある。独り暮らしで仕事が忙しく(夜勤あり)、生活が不規則、タバコ40本/日。
転移性脳腫瘍や神経膠腫との鑑別も考えたが、術中所見より脳膿瘍と診断、膿瘍をSubtotal Removal(99%)し、抗生剤加療後、軽快独歩退院。細菌培養の結果は、Peptostreptococcus sp. 3+
Fusobacterium sp. 2+ (歯周病原性細菌)。この患者さんには多数の進行した虫歯があったが、長年放置していたとの事。
【症例2】50代男性 右前頭部脳膿瘍
高血圧症、高尿酸血症の既往ある患者さん。左不全片麻痺と後頭部違和感あり、自宅へ駆け込み、家人により救急要請。来院時、ほぼ意識は清明。発熱(38度、インフルエンザ陰性)。さらに良く聴取すると、数日前より感冒様症状あり)。歯性顎洞炎でオペ既往、虫歯で通院中であった。
カルバペネム、バンコマイシン2剤をmaximum doseで開始、一旦、解熱を得て、炎症所見の軽快もみられたが、意識レベルの低下、麻痺の進行あり、開頭穿刺排膿術(ナビゲーション支援下)を施行。膿瘍培養結果はStreptococcus anginosus group 1+、
Aggregatibacter aphrophilus 3+ と口腔内originとして矛盾しない結果で、膿瘍の感染源は口腔内にある可能性が低くないと評価され、退院後、歯科口腔外科へコンサルトすることとした。
【症例3】50代男性 左頭頂部脳膿瘍
他院からの紹介(病理診断を含めた精査依頼)。2週間前から左側頭部痛が次第に増強。呂律が回らないことや、仕事がうまく行われないなどの症状あり、近医を受診したら感冒と診断。その後、他院MRで頭蓋内病変を指摘。ステロイドやアレビアチンが処方された。
当院受診時は左のゲルストマン症状を認め、さらに右の脱力と歩行障害もみられた。MR上、左頭頂部に造影される壁を伴う嚢胞性病変と広範な周辺浮腫がみられた。嚢胞内はdiffusion MRで高信号であり、経時的に嚢胞は拡大したため脳膿瘍と診断。ただちに抗生剤を開始し、数日後に開頭手術を施行した。
膿瘍培養結果は、peptostreptococcus sp., fusobacterium mortiferumが検出された(歯周病原性細菌)ため、感受性のある抗生剤を継続。嚢胞の縮小と浮腫の軽減が得られた。その後歩行障害は消失したが、高次脳機能障害が残存したため、リハビリ病院に転院した。
脳膿瘍のMRI所見
脳膿瘍のMRIのキーポイントは、DWIで著明な高信号を示すことです。これは膿瘍の高粘凋と細胞密度の高さが反映してます(ADCは低下します、下の画像を参照)。
造影T1WIにおいてリング状の造影効果(ring enhancement)を認め、同じ領域にT2WIでの信号低下が見られることもあります(T2 hypointense rim)。転移性脳腫瘍や神経膠腫、悪性リンパ腫などとの鑑別が問題となることがあります。脳膿瘍の発症率は年間10万人に1人程度と非常に珍しいのですが、死亡率は約25%、治癒例でも30~55%でけいれん、持続的神経脱落症状、行動変容などの神経学的後遺症を残すことがあります。
男女比は1.5:1とやや男性に多いと言われてますが、当院の患者さんでは圧倒的に男性が多いです(2014年は100%)。経験的に「不摂生で生活習慣病持ちの中年男性」の発症リスクが高いです。今回は虫歯が脳膿瘍の原因として強く疑われる3症例を取り上げましたが、2014年に当院で脳膿瘍と診断された5例のうち、過去の脳外科手術が原因となったものを除けば「すべて虫歯が原因」という事になりました。虫歯の放置は死を招くこともあります。40歳以上の成人のうち、5人に4人が歯周病と言われてますので、心当たりのある方もない方も、定期的な歯のメンテナンスを心がけましょう。かく言う私も現在歯科医院に通院中です(;^_^A
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