MRI検査における汗と熱傷の関係~熱傷発生リスクの低減・回避策について~

男性汗

はじめに

夏本番となり連日の猛暑の影響からか、発汗している患者さんを多く見かけるようになりました。今回はこの“汗”に着目し、MRI検査における汗と熱傷の関係及び熱傷リスクの低減・回避対策についてお話したいと思います。

汗はMRIの天敵??

体温上昇に伴い発生した熱は、皮膚表面からの放熱や、汗が蒸発する際の気化熱により体外へ排出されます。汗の成分は99 %が水ですが、残りの1%はナトリウムやカリウムなどが含まれています。そのため、汗の導電率は水よりも高く、汗で濡れた衣服のまま検査を行ってしまうと、RFパルスによる誘導電流の局所的な過熱が生じやすくなります。また検査中は、RFパルス照射による体温上昇も生じるため、より一層汗をかきやすい環境が整ってしまいます。すなわち、汗はMRI検査において熱傷リスクを上昇させる“天敵” のようなものです。

検査着へ着替えてもらう前に

普段冷房の効いた寒いくらいのMRI検査室で仕事をしていると、外の暑さを忘れがちですよね。MRI検査を受ける方々は、この炎天下の中来院されるわけですから、ほとんどの方は汗だくで来られます。当院では、更衣時の説明の際に大きめのタオルをお渡ししています。検査着へ着替える前に、しっかりと汗を拭いてもらうことで熱傷リスクを低減させています。

普段着で検査していませんか?

普段着のままでMRI検査を行っているという施設をたまに聞きます。確かに、着替える時間を短縮させ検査をスムーズに行えますが、普段着のままでMRI検査を行うのはとても危険です。衣服の異物が原因で、被検者の方に熱傷が生じた一例が報告されています。この患者さんは入院中であり、寝間着を着たままで腰椎MRI検査を受けられました。寝間着は綿100%で、金属探知機にも反応しなかったため検査着に着替えないまま実施されたそうです。検査後、患者さんは背部に疼痛を訴えられ、熱傷と診断されました。寝間着をマンモグラフィ装置で撮影し確認すると、熱傷と同じ部位に金属様の糸を確認することができました(Fig. 1 市販の寝間着に混入していた金属糸)。

寝間着(X線)

Fig 1.市販の寝間着に混入していた金属糸(日本磁気共鳴専門技術者認定機構HPより引用)

検査中の発汗制御

熱傷の発生リスクを低減させるためには、検査中の発汗制御も重要です。
当院では、夏の間はボア内の送風を少し強めに設定しています。また掛物の種類やかけ方にもこだわります。MRI検査室は空調が効いているためタオルをしっかりと掛けて欲しいという要望を受けることもありますが、RF波による温度上昇が伴うことをしっかりと説明し、薄めのタオルで我慢してもらいます。よほど寒くて困るという場合は、足元を中心にかけてあげるようにしましょう。
検査中の発汗制御において特に注意すべきは、発熱患者と体温調整機能が未熟である乳幼児です。発熱中の患者は体温調整のため既に汗をかいていることが多く、RF波による温度上昇は患者にとって更なるリスク上昇に繋がります。加えて汗もかきやすいため、皮膚表面からの放熱が円滑に行われず深部体温が上昇しやすいと言われています。
これらの患者を検査する場合には、送風ファン、タオルなどのかけものの他に、できるだけ低いSARの撮像条件を設定することも考慮に入れる必要があります。

感じ方は個人差がある

皆さんは、検査前に “Emergency call” の説明を行う際、どのような説明をしていますか?
「何かあったら押してください~」では、十分に伝わっていない恐れがあります。これは「熱さ」や「痛み」の感受性には個人差があるからです。「検査中に局所的な熱さを感じた時や、ビリビリといった電気刺激を感じた時は,“強さによらず” すぐにブザーで知らせて下さい」。このような説明をすることで、小さな異変に少しでも早く気付くことが可能となり、結果的に重大なアクシデントを回避できると考えています。

最後に

普段からMRI検査に携わっていると、検査室内の強磁場の環境が「当たり前」に思えてきます。しかし一般の方からすると、MRI検査は「別世界」に来たような感覚となるでしょう。我々MRIオペレータは、別世界に迷い込んでしまった方々を、安全にかつ快適に検査を受けてもらうための「案内人」であるとも言えます。
新型コロナウイルスの感染者数が急増し暗いニュースが多い昨今ですが、明けない夜はありません。皆さんの力を合わせて踏ん張っていきましょう!

 

箕面市立病院 放射線部
久島 貴之

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